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Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


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第Ⅷ話 後編【クレームパティシエールと絶望】其の一


 ティアとペイト以外は買ってから戻って来てくれる。だが、みんな家業の手伝いで忙しいはずだ。アリーチェに荷物の受け取りを頼み、今日は解散になった。

 みんなで集まるのは明日の朝。もう一度ここに集まる約束をしてみんなと別れ、俺はまた南区へと足を向けた。


 リヴォーラに沈む西日を背に受け、長く伸びるはずの影は人波へと消えた。夕方になっても、人の多さはそこまで変わっていない。だが、朝とは違いすれ違う人の方が多い。帰宅する家族連れで路地を覆い、笑い合う姿で溢れている。

 

 その微笑ましい光景を横目に見ながら、ミーナの姿を思い出していた。ミーナが元気になれば、またいつもみたいに笑い合える日が来るのかな……。

 懐かしい思い出を胸に街を歩いた。


 街の中央、教会のある広場まで来ると、いつもと同じように賑わいをみせている。いつもと違うのは酒を楽しむ姿が増えているぐらいか。すでに酔いが回っているのか、ふらふらと歩く人が多い。

 ――酒の何が美味いんだろうな……。

 飲んだ事はないからなのか、酒の匂いが苦手だ。あまり近づきたくはない。大人たちが笑い合いながら呑む横を顔を背けて抜けた。

 夕方になると、閉まる屋台も出て来ている。あの店はまだやっているのか。前に来た時にはもう無くなっていたが、まれにもう一度屋台を開く場合がある。

 それを目指して来たが……やっぱりマンゴージャムはなかったか。

 他にめぼしい屋台も知らないが、南通りは農産市だ。何か違うものもあるかもしれない。そう思い、少しだけ寄り道してから帰ることにした。


 南通りへ入る頃には、農産市はすでに閉まっていた。開いている屋台も覗きながら、南門まで来たがこれといって大きな収穫はなかった。一つだけイチゴジャムがあったのだ買って見たが、ガージたちも選びそうだと買った後で気づいた。

 

 南門から少し下れば港へ抜ける路地だ。

 ――もしかしたら、ガッチョたちに会えるかもな。

 日没も近づき、路地は薄暗くなってきた。俺はそのまま、港へと抜ける路地へと入っていく。


 暗くなってから、ここ路地を歩くのは初めてかもしれない。

 南通りとは違い、人の姿がまばらだ。少し行ったところで一つ目の角を曲がると、港へは早く抜けられる。そして、ミーナが好きなケーキ屋がある路地だ。

 

 角を曲がると、すでにケーキ屋は店先の灯りは落ち、店内は垂れ下がり式の布で店内が見えないようになっていた。

 隙間から見えた店内の奥から微かに光が漏れている。まだ、中にはいるのかもしれないな。そんな事を考えながら店の前を過ぎようとした時、脇道から人がヌッと出て来た。危うくぶつかりそうになり慌てて避けたが、避けきれずにぶつかり尻餅をついた。

 

「――大丈夫なのだ?」

「はい、大丈夫です。ぶつかってしまってごめんなさい」

 目の前に伸びて来た手を握ると、ぐっと引かれ立ち上がらせてくれた。

 顔を上げ、お礼をしようと目を開けた所で固まった。

 ――どうして……。

 

 顔を上げた先にいたのは、クンパッパのシェフだった。

上げていた顔をもう一度下げ、目線を合わせないようにして「……ありがとうございます」と短く口にした。


「お前は――もしかして、あの時の小僧なのだ?」

 ……覚えられていた。会ったら謝ろうと思っていたのに、体が動かない。握られている手がかすかに震え、慌てて手を離した。

 

「――販売員から聞いたのだ、謝ったそうだな」

「……はい。この間は……この間は失礼な事をしてしまって、本当にすみませんでした」

 震える肩を必死に抑え、頭を下げた。

 

「僕様に謝る必要はないのだ。――あの日は大人げない事を言って……悪かったのだ。」

「えっ?」俺が悪いのに、なぜそんな事を言われるのかわからなかった。

 

「あの後。販売員――妻にめちゃくちゃ怒られたのだ。目の前で、化け物みたいな顔して怒鳴られてみるのだ、本当に恐ろしいのだ……」

 ――夫婦だったのか、少し意外だ。


 僕様おじさんが鼻を少し動かして口を開けた。

「小僧、お前シフォンケーキを作っているのだ?」

「どうしてそれを――」

「匂いなのだ。僕様の鼻は特別なのだ」

 ――そんなはず……。

 そう思ったが実際にシフォンケーキを作っている事はばれている。隠すことでもないし素直に認めて返事をした。

 

「はい。友達に食べさせたくて……でも何か足りない気がしてるんです」

「足りないとはどういう事なのだ?」


 ミーナの事は黙りながら、少しだけ違和感について話し、何か足せるものはないか探しに来たと伝えた。

 

「ふむ、着眼点はいい方なのだ」

 俺の持っていたジャムに視線を向け、何かわかったように続けた。

「シフォンケーキはまっすぐな味で悪くはないのだ。だが、それは素朴とも取れるのだ。ふわりとした食感が続くとそれだけだと物足りないこともある、喫茶店なら生クリームとジャムは定番で間違いではないのだ――」

 

「だが、パティシエはそれよりもさらに上を目指すものなのだ」

 にやりと片方の頬を上げた。

 

「小僧ついてくるのだ」

「えっと……どこにですか?」

「特別に教えてやるのだ。厨房に来るのだ」

 

 なぜそんな話になるのかはわからない。でも、何か一つでもこの人から学べたらミーナに届く。

 

 そんな気がして、後に続いた。

 

    ♦︎♢♦︎♢♦︎♢


ここまで読んでくださりありがとうございます。


笑顔になってほしい。

ただ美味しいだけじゃ届かない。


悩みながら歩いた末に出会ったのは、僕様おじさん。

一つの考え方と答え、エルは何がつかめるのか。


次回更新は5月19日19時30分です。

明日も引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。

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