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Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


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第Ⅷ話 前編【クレームパティシエールと絶望】其の三


「――いや、そう言われてもな……」頭をガシガシと掻きながら、ガッチョは難しい表情を浮かべた。

「でもエル兄、ミーナ姉ならこれ食べたら笑顔になると思うんだけど……」

 

 確かに普段のミーナなら喜んで食べるのは目に見えている。このミルクシフォンは、ミーナに連れて行かれた色んなケーキ屋で、売っていた物よりも美味しいのは間違いない。それに、ミーナの好む味だと、確信が持てる。

 それでも何故か、今のミーナにはまだ足りない。その思いが、シフォンを食べる前よりも鮮明になった。

 

「普段ならそうだろうな。でも、これじゃないってそんな気がするんだ。まだ、何かが足りない……」

 俺の言葉にみんなが、戸惑いの表情を浮かべて口を噤んだ。


「――それならー、生クリームを添えたらどうですー?」

 みんながアリーチェの方に振り向いた。

 

「アリーチェ、どういうことだ?」

「シフォンケーキってー、味がずっと一緒じゃないですかー。ケーキ屋さんなら、そのまま売ってたりするんですけどー。お家で作る時とかなら生クリームをのせて味を変えて食べるんですー」


「――そうか、何かが足りないなら足せば良いんだ……」

 このシフォンケーキは確かに美味しく出来た。でも、八等分して食べるには良いが、ひとつ丸ごと渡すとなると飽きてくるかもしれない。

 

 ――でも、何を足せば良いんだ。

 ミルク風味のシフォンケーキに更に生クリームを乗せる……元々は同じ物だ相性もいいと思う。アリーチェは味が一緒と言った。シフォンケーキはどこを食べても同じ味だ。味を変える……。


 ――そうか。


 

「――ジャムなんてどうかな、エル兄」

 ガージに視線が集まった。果樹園も営んでいるガージも同じ事を思いついたようだ。

「卸先にジャムを作っているお店があるんだ、パンにもつけるしどうかなと……思って」

 ガージは自信なく答えた。みんなに見られて話すのは恥ずかしいのか、顔を背けている。

「俺もそれを考えていた。ジャムなら色んな果物で作ることが出来るし、味も違う。もしかしたら、足りない何かがわかるかもしれない」

 パッとガージの顔が明るくなった。もしかしたら、否定されるかと思ったのかもしれない。それでも言ってくれたガージの気持ちが嬉しかった。


「ガージ、これに合いそうな物をいくつか買ってきてくれないか?」

「えぇーっ!俺がそんな重要なの選べないよ……」

「これに合うかどうかなんて誰にもわからないんだ、だからそんなに重荷に感じなくていい。好きに選んだって誰もガージを責めたりしない」

「でも……」

「――それなら、私も行くわ」

 アルテミアが手を上げてくれた。

「アルテミア、任せられるか?」

「えぇ、さっきミーナのところに行ったんだけど。忙しそうで話もしてもらえなかったの……だから、少しでもわたしも力になりたい」

 

 ――忙しそう?前に行った時はそんな感じはなかったが……。

 何かあったんだろうか、不安が脳裏をよぎった。

 

「それなら俺は足りない物、買ってきてやるよ!エル何か足りないものはないか?」

「そうだな……」

 ――足りないものか、材料はほとんど揃っているが……。

「それなら、南側の港を少し入ったあたりに材料屋がある。そこでコレと同じシフォンケーキ型を二つ買ってきてくれないか?」

「……そんな店あったか?」

 あの店の場所は少しわかりにくい。俺も教えてもらわなければ、あそこが店とは思いもしなかった。

 

「それなら〜ボクも一緒に行くよ〜。あそこのおばあちゃんよく買いに来てくれるから、お店の場所も知ってるよ〜」

 パームスのところで買った全粉乳もあの店で教えてもらった。顔見知りとは知らなかったが、知っているなら適任だ。

「二人に任せるよ。パームスも一緒に行ってくれるなら、もう一度全粉乳が買いたい。戻ってくる時にとってこれるか?」

「大丈夫だよ〜」

「おう、任せとけ」ガッチョが親指を立てて応えた。


「ボクも手伝いたいけど……その……」ティアが途切れ途切れに言葉を発した。

 ティアの家は、夜の営業が本業だ。夜の準備もあるはずのところを無理して来てくれているはずだ。

「店の手伝いがあるのに呼んで悪かった。ティアを呼んだのは親父さんに聞いてきて欲しいことがあったからだ」

「――お父さんに?」

「あぁ。さっき話したミーナが食べられない物を伝えて、食べられそうな料理がないか聞いてきてほしいんだ。料理人の知識なら何かわかるかもしれない」

 

「わかった、任せて!」

 

「それと――ペイトにも、調べてきてほしい事がある」

「何をかしら……わたしの知識なんて本に載っていることぐらいで大した事ないわよ」

 

「――そんな事はないさ。前に読んでいた本の中に、あったはずなんだ」

 ペイトが読んでいた本は会うたびに変わっていた。そんな中でも、その本はかなりの異質だった。表紙が黒く白いインクで書名がおどろ恐ろしく書かれていた本。

「前に読んでた本の中に……昔にあった怖い病気の話が」

 

「えぇ……その本は確かにあるわ。でも百年以上前に流行った病気ばかりで、もう治る病気がほとんどだったはずだけど……」

「少しでもミーナの病と似たような事が書かれてないか、もう一度調べてほしい」

「――わかったわ。もう一度読んでみます」


「エルはどうするんだ?」不意にガッチョが訪ねた。

「俺はあの日ミーナと回った屋台を、もう一度見てくる」

 

 祝願祭の初日、一緒に食べた物の中に何かきっかけがあるかもしれない。それに、まだあるかはわからないけどミーナが買っていた物に気になる物がある。それが、もしかしたら買えるかもしれない。


「だから、俺は街に出て見てくるよ」



 

読んでいただきありがとうございます。


みんながそれぞれに動き出しました。

得意なことも、出来ることも違う。

でも「ミーナを助けたい」という気持ちは同じ。


足りない何かを探し始めたエル。


そして、次回はあの人が再登場です。ガッハッハッハッです。


次の更新は5月18日19時30分です。

引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。


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