表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/76

第Ⅷ話 前編【クレームパティシエールと絶望】其の二


「これエル兄ちゃんが、作ったの?売り物みたいだけど……」

「あぁ、ミーナに届けようと思って、みんなが来るまでに作っておいたんだ。アリーチェにも手伝って貰ったが――」

 湯を沸かしているアリーチェの方へ向くと、六人の視線が揃ってアリーチェへ向いた。

「私は口を出しただけですー。作られたのはエルさまですよー」ニコリと笑みを浮かべた。


「前のも美味かったけどな――なあ?」

「えぇ。エルが作ったなんて信じられなかったもの」

 ガッチョとアルテミアは昨日作った物を先に口にしている。二人は美味しいと言ってくれたが、何かが足りない。

 新しく焼いたミルクシフォンの方がミーナの好む味だとは思うけど、どうだろうな。誰かが俺の感じている物をわかってくれたら助かるんだが……。

 六人はまじまじとケーキを見つめるだけで、中々食べようとしない。

「――どうしたんだ。食べてくれていいんだ。それとも何か、おかしなところでもあったか?」


 六人が顔を見合わせて、ガッチョが口を開いた。

「いや、そうじゃねぇよ――このシフォンからすげー良い香りがして……食べて良いのか迷ってただけだ」

 

 ――試食のために呼んだのに、何を遠慮してるんだ?

 

 試食もして欲しいから、みんなを呼んで来て貰ったのを二人は知っているはずだ。

 誰も手を伸ばさない内に、アリーチェが人数分の紅茶を入れ戻ってきた。全員に配り終えると自分の皿を持ち上げた。

「あれーまだ誰も食べてないんですかー?」

「あぁ、食べて良いのか迷ってるらしい――」

 

 アリーチェは鼻を近づけ、クンクンと鼻を動かし香りを嗅いだ。

「――なるほどー、そういうことですかー」何かをわかったようにニヤリと片方の口元が上がり、六人の方へと向いた。

 俺の方へと向き直すと「それなら私が一番に食べますー。先陣を切って散るのもお姉さんの役目ですー」

 

 ――物騒な事を言うな。危険な物は入っていないの知っているだろ。

 だが、アリーチェが食べれば、みんなも食べるだろ。

「そうか、それならアリーチェ一番に食べてくれ」

「わかりましたーそれでは先にいかせていただきますー」

 

 ――だから、どこにだ……。

 額に手を当て首を振った。


 手に持ったフォークで、一口ぐらいの大きさに切ると、そのまま突き刺し口へと運んだ。

 顔を伏せ小刻みに肩が震えている。美味しくなかったのだろうか……心配になり、俯くアリーチェの顔を覗き込もうとした時だ。いきなり顔を上げたアリーチェが叫んだ。

 

「むふー!朝食べたものより圧倒的に美味しいですー!」

「エルさまーこのルセットわたしにも教えて下さいー。おばあちゃんに作ってあげたいんですー」


 ――そんなにか?

 アリーチェを見て我慢出来なくなったのか、ガッチョとアルテミアの二人がシフォンケーキを口へと入れた。

「なにこれ、さっきのと全然違う。売り物……いえ、売り物以上だわ」

「エル、マジで美味いぞこれ!」


「みんなも食べてくれ」

 手が進まない四人に声をかけると、四人が顔を見合わせて頷いた。そのまま思い思いに切り分けてシフォンを口へと運ぶ。

「……本当にエル兄ちゃんが、作ったの?ボクこんなに美味しいシフォンケーキ初めて食べたよ」

「エル君これを作るために全粉乳を買いに来てくれたんだね〜すごく美味しいよ〜」

「エル兄はやっぱりすごいね、こんなのも作れるんだ!」

「えぇ、本当に美味しいわ――です」

 

 四人がそれぞれに感想を述べていく。ただ、ペイトだけは言葉を戻せずに言い直した。彼女の中で整理がつかないのか、どう接して良いのかわからなくなってるみたいだ。普通にして欲しいと何度も言うのは彼女の重荷になりかねない。何かいい方法はないものか……。

 

 そんな事を考えているとガージがペイトに声をかけてくれた。

 

「ペイト。真面目なのもいいけど、そんなんじゃミーナ姉を助けたいって言ったエル兄が頼りにくいじゃないか!」

「ガーちゃん……わかってるわ、でも――」

「でも、じゃないだろ!手伝うだけなら、エル兄だって秘密に出来たんだ。それでも打ち明けてくれたのはエル兄の“せえい”だろ」

 少し考えていたペイトがフッと笑みを浮かべた。

「馬鹿ね、せえいじゃなくて誠意よ」ガージの顔が赤くなった。

 

「――でも、わたしも馬鹿だわ。そうよね、秘密を打ち明けてくれてるのに……エル君ごめんなさい。今まで通りに出来るかわからないけど、でも頑張って普段通りにするわ」

「無理のないようにしてくれるだけでいいさ」


 みんなの感想を聞き、俺もシフォンケーキを口へと運んだ。

 口に入れると、優しいミルクの味が舌へと溶けていく。今まで食べたシフォンケーキで一番の柔らかさだ。ふわりとした食感も群を抜いている。後を引く香りにはバニラが顔を出し、ミルクとの相性も良い。

 確かに、今まで食べたシフォンケーキの中では一番美味しい物だ。でも……。

 もう一度みんなの方を向き、感想を訪ねた。


「……どうだった?」

「普通に……いや、それ以上に美味いよ」

「そうだよ。ボクならこんな美味しいケーキ作ってもらえたら、嬉しくて泣いちゃうな」

 みんなの顔に笑顔が浮かんでいる。同じ考えなのかみんなが頷いた。

 だが、俺にはどうしても違和感が拭えなかった。


「……このケーキを届けたら、ミーナは笑顔になると思うか?」

 

 にこやかだった六人の顔に影が差した。


 

 

読んでいただきありがとうございます。


美味しい物を作ることと、誰かを笑顔にすること。

似ているようで、少し違うのかもしれません。

「美味しい」だけでは届かない。今回はそんな話でした。


エルが感じている違和感の正体とは何なのか。


次回更新は5月17日19時30分です。

引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ