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Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


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第Ⅶ話 後編【友達とミルクシフォン】其の二


 顔を上げると二人は大粒の涙を流しながら、にこやかに笑った。

 ――俺は一人じゃない……助けてくれる人がいる。


 二人の顔を見ると、呼吸が落ち着いてきた。

 鉄門のそばで見守っていたキースの表情も、いつもよりも晴れやかでどこか嬉しそうに見える。キースの首が静かに動き頷いた。

 不安は残っている。それでも、二人は来てくれた……何度も。

 だから……少しだけ勇気を搾り出し、口を開けた。


 

「ミーナを助けたい。手伝って……くれないか?」

 流れる涙を袖でぬぐい、二人に頼んだ。


「当たり前だろ……馬鹿野郎……遅いんだよ!最初から頼れよな。……くそっ」流れる涙を止めようとガッチョは上を向いた。だが、頬を伝う雫は地面へとポタリと落ちていく。

 

「あんた達二人とも大馬鹿よ!なんで二人とも一人で抱えようとするのよ……私もいるでしょ!」


 大粒の涙を浮かべたアルテミアが両手を伸ばし、俺とガッチョの肩に乗せた。


「みんなでミーナを助けましょ!みんなと一緒ならなんとかなるわよ」

「そうだぜ、なんとかしてやろう!」

 

 二人の姿が頼もしくて……眩しかった。一人よりも二人といた方が、力が湧いてくるのがわかる。


 ――そうか……俺は誰かと一緒に――。


 

 一人じゃ出来なかった事もきっと出来る。みんなで――ミーナに届けよう。

 


    ♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 


 二人を連れ、離れの厨房へと向かった俺は、自分がしている事を伝えた。

「ミーナが笑顔になるケーキを作りたい。でも、食べられるかもわからないし、それが出来るのか不安だけど……」

 

「でも、やるんでしょ?」

 

「あぁ、ミーナの好みは誰よりも知っているつもりだ。だから、それを作れたら食べられるかもしれない。そんな気がしてるんだ」


 二人は頷いて、今後の事を話していく。

「エル、悪いけど俺には作れそうにねぇ。その代わり材料は俺に任せろ。いるもん全部探して持ってくる」

「ごめん、私もお菓子とか作った事ないの。でも、ミーナのところに行って聞いてくるぐらいは出来るから!何度だって足を運ぶわ」

 

「助かるよ。どうしても材料を手に入れるのに時間がかかって、そんなに作れてないんだ。ミーナの事も気がかりだし……話を聞けたらいいんだけど」


 俺が目を倒れた翌日、二人もミーナに会いに行ったらしい。でも会えなかった。


 誰もミーナの現状を知らない。

 今どうなっているのか、少しでもよくなっているのか。


 それとも……悪くなっているのか……。

 生きて……。

 


 首を振った。違う……絶対に。そんなことあるわけない。

 思い浮かべただけで体が芯から震えた。

 

 ――大丈夫。きっと……大丈夫だ。

 自分に言い聞かせるように、何度も心の中で言葉を繋げた。


「それにしても……相変わらず、すげぇなお前ん家――」

 厨房を見回したガッチョが口を開けた。

「ここで作ってたのか、そのシフォンケーキってヤツを」


「あぁ、ここにある」

 棚を開け、アリーチェに抜いてもらったシフォンケーキを取り出した。

「……見た感じ上手く出来てると思うけど、ダメなの?」

「あぁ、これはミーナの好む味じゃない……」

「これ――食べていいのか?」


「何か足りない気がするんだ……でも、それがわからなくて」

「なるほどな、それを探してたって訳か……」

 

 切り分けたシフォンケーキを手に取ると、二人は口へと運んだ。口に入れると驚いた表情を浮かべ、口元がゆっくりと上がっていく。食べ終わったのか、ガッチョがもう一度手を伸ばし、シフォンを口へと入れた。

 

「――ちょっと。じゃあ、わたしももう一つ」

 

 そういうとアルテミアも同じように、また一つ持ち上げ口へと運んだ。二人の口がモグモグと動き続けている。

 何が足りないか探してくれているのか、中々二人は食べ終わらない。俺が感じている違和感を二人はわかってくれたようだ。コレじゃ、ミーナの喜ぶ顔が浮かばないって。


 だが……。

 

 

「いや、普通にうめぇよ――これでダメなのか?」

「えぇ、本当に――売り物みたいよコレ。本当にエルが作ったの?」

 

「……えっ?」

 そんな、コレじゃミーナは絶対に満足しないはずなのに。


「いや、えって言われてもな……ミーナの好みの味なんてお前ぐらいしかわからねぇよ」

 アルテミアの方を向いたが、アルテミアも首を振った。

「わたしもわからないわ……」


「でも、一緒に食べに行く事もあっただろ、その時食べてたものとか、何かあるんじゃ――」

「あるけど――好みかどうかなんてわからないわ。あの子、何を食べても美味しーって言うだけだったもの」


 ――俺だけなのか。違和感を感じているのは……。

 

 確かに、ミーナが食べ歩きに行く時は、決まって俺を誘ってきた。少なくとも他の六人よりも確実に多い。連れて歩きやすかったからなのか、俺が一人で寂しそうに見えたのか、理由はわからない。


「そんな……いや、でもコレじゃ――」

 言葉を上手く繋げる事が出来なかった。


「エル、あなたぐらいよ。ミーナの好みがわかるのなんて。だって――」

 そこまで言い口を閉ざした。何を言いかけたんだ、その先を聞こうと待つが、口を固く紡ぎ開こうとしない。


「……とにかく、コレは好きな味じゃないって事ね」

「あぁ、それだけは間違いない。コレはミーナの好きな味じゃない」


「なぁ、疑問なんだけどよ。普通に食える奴じゃダメなのか?」

 

「食べられる物でいい……」

 確かにそうだ、初めは食べられる物を作ろうとしていたはずだ。それなのにいつの間にか、ミーナが好きな味を作ろうとしていた。

 

「そう……だな。でも、違うんだ」

 何かはわからない。でも、違う事だけは何故か感じていた。

「わからないけど、それじゃダメな気がするんだ……」


 

「ミーナは……いや、ミーナの好きな物じゃないと助けられないって、俺の中で何かが言ってるんだ」

 

「エル、あなた……本当にわからないの?」

 アルテミアの言いたいことがわからず首を傾げた。

 俺の中で漠然と浮かびあがる物が、俺にはわからない。二人に話すにはそれに見合う言葉を俺は知らなかった。


「でもよー、食べれるようになってからでもいいんじゃ――」

「だめよ。エルを信じましょう。きっと、それがいいのよ」

 

「アルテミアまで何言って……」

 アルテミアの眼差しが強い。ガッチョはその目に言葉を止めた。

 

「エルあなたの考えてる事を全部話しなさい、私たちが絶対に探してみせるわ」


 

「……あぁ」


    ♦︎♢♦︎♢♦︎♢

今回も読んでいただきありがとうございます。


一人で抱え込んでいたエルですが、ようやく「助けてくれ」と言葉にする事が出来ました。

誰かに頼るのは難しい。でも、頼っていい相手もきっといるんですよね。


そしてシフォンケーキ。

周りには美味しく感じるのに、エルだけが感じる違和感。

エルの中で何かがまだ足りない。


その“何か”を探して、物語はもう少し進みます。


仕事も落ち着いてきたので毎日投稿に戻したいと思います。

一日空いての更新を、楽しみにお待ちいただきありがとうございました。


次回更新は明日、5月12日19時30分です。


次回も引き続きお付き合いください。

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