表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/45

第Ⅶ話 後編【友達とミルクシフォン】其の一


 回り道して帰って来たのにどうして二人がいるんだ。向こうも俺に気づいたのか、指を向けているのが見えた。

 まだ、怒ってるんだろうな。そう思って二人に合わないようしていたのに。


 ――いつまでも逃げるわけにもいかないか……。

 

 腹をくくって、足に力を込めた。

 家に帰るだけなのに、足がいつもより重く感じる。二人は何を言ってくるのかな……。歩きながら不安が頭の中を駆け巡るが、もう少しで館に着いてしまう。指先が少し震えた。


「……ただいま」

 鉄門の前まで行くとキースに声をかけた。

「おかえりなさいませ、エルネスト様。離れは準備できております。――それとご友人がお待ちです」

 

 ――知ってるさ。

 顔を上げ二人の方を向いた。


「久しぶり……だな。どうしたんだ……」

 

 二人は顔を見合わせ、ガッチョが口を開いた。

「お前に会ってなかったから、気になって来ただけだ……」

 声が小さくなり最後はよく聞き取れなかった。ガッチョは顔を背けて、頭を搔き俺の方を見てこない。

 

「違うでしょ!」アルテミアが、ガッチョの肩を叩いた。

 

「えっと……あんた、もう大丈夫なの?」

 こちらに振り向いたアルテミアの表情は酷く動揺して見えた。薄らと汗をかき、瞬きも多い。こんな表情は初めて見たかもしれない。


 大丈夫か?なんのことか一瞬わからなかくて首を傾げた。

 そういえば、二人が熱を出して倒れていた俺を見つけてくれたと、キースに聞いたな。

「あぁ、もう大丈夫だ。この間は……助かった」

 俺も声が小さくなり、荷物を持つ手に汗が滲む。

「そう、それならよかったんだけど……」


 少しの間、誰も口を開かずにただ無言が続いた。横で見ていたキースの表情がいつもより堅い。言いたい事でもあるのか、歩み寄る素振りを見せまた元に戻った。


 ――何も言わない……怒ってないのか?

 これ以上は、無言の空気に耐えられそうもない。早くミルクシフォンを作って、ミーナに届けないと。

 そう思い、口を開こうとしたが、先に言葉を紡いだのはアルテミアだった。

 

「ねえ少し……話せない?話したいことが――」

「――悪い。しなきゃいけない事があるんだ」

 アルテミアの言葉を遮り、続けた。

 

「……もう帰ってくれないか」

 

 今度は俺が顔を背けた。嘘じゃない。それでも、二人の顔が見れなかった。巻き込みたくない。だから……一人でやるしかないんだ。


「……そうかよ」

 黙っていたガッチョが短く口にした。

「ちょっと……ねえ、エル!」

 振り向きざまにアルテミアの手が伸びているのが見えた。

 二人をその場に残し、振り返らずに鉄門へと進んだ。

 

 ――これでいい……これでいいんだ。あいつらにはあいつらの仕事がある。だから……。

 

「どうして?」


 ミーナが耳元で囁いた気がした。

 どうして……。そういえば俺は何で一人で頑張ってるんだ――。

 

 

 「お前はいつもそうだ!」


 

 強い言葉に足を止めた。鉄門の下で振り向くと、後ろを向いたガッチョがただ空を見ながら声を上げていた。

 

「お前はそうやって、いつも人の顔色伺って――俺たちのことなんて何も見てない。お前にとって俺たちなんて……」

 そこから先は続かなかった。ガッチョの声が震えていた。

 

「そうよ!いつも一人で抱えて、なにしてんのよ。ミーナの……ミーナの事だって知ってるんだからね!」

 珍しく声を高ぶらせたアルテミア、その声も震え目には涙を浮かべていた。


 ――知ってる、ミーナのことを?

 どうして……。巻き込まないように、俺が頑張ればすむ話だと思っていたのに……。


「どうして……」俺の声も、自分でも思っても見ないほど声が震えた。

 

「お前の顔見たらわかるんだよ!――友達だからな!」

 

 胸の奥で何かが壊れた気がした。頬を伝ったものがポタリと地面へと落ちた。

 

「……あれ、おかしい……なんで……」

 流れ落ちる涙は徐々に増えていく、それでも止める事が出来ない。

 二人が俺の方へと歩み寄ってくる。腕をまっすぐに伸ばし、手を開いて顔を背け二人を止めようとした。

 

「来るな!お前らだって……お前らまで苦しむ必要なんて――」

 

 それでも、二人は足を止めずに俺の前に立った。そしてガッチョが重く口を開いた。

 

「大きなお世話だ馬鹿野郎!手伝わせろよ俺たちにも。頼れよもっと……お前に比べたら俺らの力なんて小っぽけなもんかもしれねーけど、みんなで……みんなでやればなんとかなるかもしれねーだろうが!」


 

 ――みんなで……やる?

 ……考えもしなかった。迷惑かもしれないってそう思っていた。

「……でも――」

「でもじゃねえ!ミーナだって俺たちの友達なんだよ!」

 

 俺は一人で出来ているつもりだった。

 一人でやらなきゃいけないと思っていた。ミーナを助けるんだって……。

 

 でも、そうじゃなかったんだ。

 

 昨日の事を思い返しても、何も言わなくても離れを準備してくれたキース……厨房を綺麗に保ってくれるメイド達……俺のために無理を聞いてくれた料理人とアリーチェ。

 俺を探してくれた二人……。

 

 繋がっていた。

 

 

 

 ……そうか……。

 


 

 ――俺はいつも助けられていたんだ。

 

お読みいただきありがとうございます。


今回は、エルがようやく「一人じゃない」と気づく事が出来ました。


ずっと一人で抱え込もうとしていたエルですが、ガッチョやアルテミア、そして周囲の人達との繋がりを少しずつ受け取れるようになってきています。


書いていて、ガッチョの「友達だからな!」はとても好きな場面です。


次回からは、いよいよミルクシフォン作りが本格的に始まります。

エルはミーナの好きな味に辿り着けるのか……。


次回更新は5月11日(月)19時30分です。

引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ