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Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


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第Ⅵ話 後編【夕食と卵】其の四


 

    ♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 離れの厨房へとシフォンケーキが気がかりで急いだ。扉を開けて入った厨房、シフォンケーキを入れた棚の前で立ち止まり呼吸を整えた。

 腕を伸ばし常温の棚を開けると、バニラの甘い香りに満ちている。硬かった縁を指で押すとシュワッと音が鳴った。縁はかなり柔らかくなっていて、指の跡はふわりと押し戻され見えなくなった。

 棚から取り出したシフォンケーキを、台へと移した。

 シフォンナイフを、昨日差し込んだ部分に入れてジワリと動かす。昨日、欠けた部分はスッと動いたが、ぐるりと縁に乗った部分でまた止まった。今日は途中までナイフが入ったが、そこからは、また動かせそうにない。


 無理やり縁を滑らせれば、外せない事もなさそうだ。でも、また縁が欠けそうで怖い。

 良い案も浮かばず、もう少しだけナイフを動かしてみるが、側面を滑らせる感覚が指に伝わってこない。


 動かしていたナイフを止めた。

 「くそっ……どうしたら」


 悩んでいると、扉を二回叩く音が聞こえ、扉の外から声がかかる。

 

 「エルネストさまーご飯が出来ましたよー」

 

 ――この声は、アリーチェか。

 アリーチェは、俺の少し上で十七かそこらだったはずだ。元気はいいが、少し抜けているところがあるメイドだ。

 

 「エルネストさまー、入りますよー」


 ――返事もしていないのに……。

 

 許可を取る前に扉を開けて、厨房へと入ってきた。

 「シフォンケーキですかー?」

 台に置いていたシフォンケーキを見つけて近づいてきた。

 「あぁー膨らみ過ぎちゃった感じですねー。これ抜くのコツが、いるんですよねー」

 「――知ってるのか?」

 「何がですー?」

 アリーチェが、不思議そうな表情を浮かべて聞き返してきた。今の会話で、シフォンケーキ以外にあるのか聞きたいところだ……。


 「だから、シフォンケーキの抜き方を知っているのか?知っているなら……教えてくれ」

 今度はキョトンとした表情をしたアリーチェが、クスクスと笑う。

 ――何がおかしいんだ。


 「エルネスト様が、わたしにお願い事なんて初めてですねー。シフォンケーキの抜き方知ってますよー」

 アリーチェには、今まで願い事をする事がなかっただけだ。他の人には――していたはずだ……多分。

 考えたが、ほとんど思い当たらない。願い事なんてした事あったかな……。


 「それじゃぁ、シフォンナイフを拝借して。いきますよー」

 

 ――どこにだ。

 アリーチェと会話すると不思議な会話になりやすい。疑問ばかり浮かんで要領を得ない事がほとんどだ。だが、これがやっぱりシフォンナイフだったんだと、会話して初めてわかった。


 「とりゃー」

 アリーチェが妙な掛け声とともに、縁に乗っていたシフォンケーキを削り出した。

 「何して――!」

 

 「えぇー?エルネストさま、これを型から外したいんですよね?それなら削らないと、型が見えないじゃないですかー」


 シフォンケーキを傾け、型からはみ出ている部分をシフォンナイフで切っていく。慣れた手つきで型を回しながら、一周ぐるりと刃を入れ、飛び出ていた縁を切り取った。


 「んふー、どうですー」

 胸を張って自慢げなアリーチェの顔に腹が立つが、あれよと切り取ったシフォンケーキを見ると、何も言えなかった。

 「――こんな方法で外すんだな……」

 「えぇー知りませんよー?」

 

 「……は?」ここまでしておいて、知らないとはどういう事だ。口から間抜けな声が出てしまった。


 「ですからー、他の人がどうしてるかなんて、知らないだけですよー。エルネストさまが知っているのか?っておっしゃったので、〝私の〟抜き方なら知ってますよ。って、つもりで言ったんですけど……ダメでした?」

 

 ――ちゃんと確認するべきだった。

 

 アリーチェとの会話が難しいことは知っていたが、まさか自己流とは思わなかった。でも、アリーチェに任せて幸いした所もある。はみ出ていた縁の部分はなくなり、これなら自分でも外せそうだ。


 「……いや、助かった。あとは自分でやるから――」シフォンナイフを受け取ろうと手を出した。

 

 すると、受け取ろうと伸ばした手にアリーチェの手が乗った。

 

 「――何してるんだ?」不機嫌な顔でアリーチェを見た。


 「えっ?握って欲しいのかなーって思いまして」

 「違う、シフォンナイフを返してくれって事だ」

 「あっ、そっちですかー。言ってくださいよー」

 

 手を離し、シフォンナイフを受け取ると、隙間に差し込み力を入れた。少し動かすと、ナイフの先が底にあたりカッカと音が鳴る。

 

 「あぁー!」

 突如、隣で見ていたアリーチェが、声を上げた。顔を上げると、口元を手で隠しているアリーチェと目があう。


 「……なんだよ」

 「なんでもないですよー」目線をさっと逸らすと窓の外を見て返事をしている。

 

 もう一度、シフォンナイフを少し動かすとカッと音が鳴った。アリーチェの顔を見ると、口があわあわと動き何かを言いたそうに手を伸ばして、途中で止めた。

 

 ――多分、何かが違うんだ……。

 

 握るシフォンナイフから力を抜き、手を止めた。

 

 多分アリーチェはシフォンケーキを外した事がある。慣れた手つきで、はみ出た縁を切っていた。もしかしたら作った事もあるのかもしれない。

 

 

 「……なぁ、型から……外してくれないか」

 「えっ、いいんですかー?」

 「自分の外し方と違うんだろ」

 目をギョッと見開いたアリーチェは、こくんと頷いた。

 

 無言でシフォンナイフを渡すと、真ん中の突起に沿わせてスッと刺し、くるりと型を回した。

 「――真ん中から外すのか?」

 「そうですよー。じゃないと何回も型を、クルクルしないといけないじゃないですかー」


 確かに、何回も逆さを向けたりしてやりにくかった。ルセットに書いてあったのも分かりにくくて困った気がする。


 真ん中を外し終わると、続けて縁の部分に差し込んだ。

 

 ――ここまでは一緒だな。

 そう思っていたのも、一瞬だった。アリーチェはシフォンナイフを回さずに、台に置いた型の方を回している。


 「――ちょっと待て」

 型を止め、顔を上げたアリーチェが首を傾げた。

 「……もう少し、ゆっくり外してくれないか。よく見たいんだ」

 「わかりましたー」

 そういうと、止めていた型を少しずつ回していく。ナイフはその場所から動いていない、ただ型だけを回した。

 「シフォンケーキを外す時は、力を入れちゃダメなんですー。ゆっくりと型をクルクル回して、側面を滑らせると綺麗に外れますよー」

 「あと、底に引っかからないようにするのも、大切ですー。当たると引っかかって底がボロボロに削れちゃうんですー」

 

 ――だからか!

 やっぱり、一度目に抜いた時は引っかかっていたようだ。縁がボロボロになったシフォンケーキを思い出した。


 「出来ましたー」

 一周ぐるりと回して外し終わり、ナイフを型から抜いた。

 「……はやいな」

 「慣れてますんでー。このまま抜いちゃいますかー?」


 「あぁ、そのまま抜いてくれ」

 思いの外、近くにシフォンケーキを作った事のある人がいたもんだ。ここは甘えて教えて貰おう。そう思い、お願いする事にして、まな板を渡した。

 突起を逆さ向けると、シフォンケーキが型から外れた。アリーチェが平行にナイフを差し込むと、スッと一周まわし入れストンとシフォンケーキが外れる。


 「いいかんじですねー」

 アリーチェは笑顔を向けている。

 「ありがとう。……助かったよ」

 「どういたしましてですー」


 ――いちいち、語尾を伸ばすのはなんなんだ……。


 目の前には、綺麗に抜けたシフォンケーキがある。アリーチェに頼って正解だった、前回よりも見た目は完璧だ。残すは味だけ。うまくいってくれたらいいが……。一度目の味が頭をよぎり、不安な気持ちが湧いてきた。



 

ここまで読んでいただきありがとうございます。


シフォンケーキの型抜き、地味に難しいんですよね。


実は作者も初めてやった時、見事にボロボロにしました。ナイフを入れる角度や力加減で、あっさり崩れます。


今回のアリーチェのやり方も、どちらかというと“経験寄り”のやり方です。

綺麗に外すコツは、やっぱり回数をこなすことかもしれません。


新キャラ【アリーチェ】はいかがでしたか?

割と気に入るキャラに仕上がり、すごく満足しています。

このキャラ良かったよーって方は、是非評価で教えてください。


更新は現在、二日に一度のペースとなっています。

次回の更新は5月3日(日)19時30分です。

少し間は空きますが、引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。


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