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Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


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第Ⅵ話 後編【夕食と卵】其の三


 

    ♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 焼き上がってから、もう一時間を過ぎた。逆さを向けているシフォンケーキは、熱を失っている。型を手に持つと型の冷たさが感じ、突起を上へと向けて置き直した。

 

 冷めるまで、どれぐらいかかるのかわからない。その間に風呂へと入り、もう一度離れへと戻ってきたところだ。

 真まで温まった体に少しだけ熱が残っている。東向きの窓を少し開け夜風を浴びた。

 窓を開けると、見えていた月は、もう見えない。街の喧騒も、祭りの音楽も止まっている。かすかに風に乗って聞こえていた音が何も届かず、近くで鳴く虫の音だけが耳に届いた。

 しばらく夜風にあたっていると、体が少し震え、慌てて窓を閉めた。静かになった厨房にはもう、虫の鳴き声は聞こえなかった。


 台へと戻り、シフォンケーキに目を向けた。型の縁に乗った部分はそのままに、沈んでいた中央は平たくゴツゴツとした割れ目がいくつも見える。型の側面に銀色の薄い板――多分、シフォンナイフを差し込もうと握りしめた。

 

 シフォンケーキの隙間へ差し込もうと、型に手をかけるが縁に乗るシフォンケーキが邪魔をして、刺すことが出来ない。無理やり縁の部分に差し込もうとすると、シフォンケーキが割れ、欠片が床へと落ちた。

 

「えっ……さっきより硬い?」


 一度目に抜いたシフォンケーキよりも、縁に乗る部分が硬く、ゴツゴツとしたヒビの部分で割れた。指で押してみると、指の後も残らない程に硬い。

 ――焼き過ぎたのかな……。

 

 だが、焼く時間は一度目と同じで三十分だ。なのに、これほど硬い理由がわからない。シフォンケーキの欠けた部分は、型の縁が見え、生地との隙間にシフォンナイフを刺せそうだ。その箇所にナイフを差し込むと、中は柔らかくスッとナイフが入った。

 

 それでも、欠けた部分以外が型の縁をぐるりと覆うように生地が乗っていて、そこも同じように硬く動かすのが難しい。少しだけシフォンナイフを型に沿って無理やり回してみたが、やはり欠片がゴロリと剥がれて落ちた。

 

 ――どうしよう。これ、外れないんじゃないか?


 もし、このまま外せなかったらまた最初からだ。


 抜けなかった時の事を考えた瞬間、手が止まった。時間を見ると時計の針は二十三時を大幅に回り、もう少しで日を跨ごうとしている。

 昨日は眠ることが出来ずに、日が昇る前から家を出ていた。時間を見ると急に眠気が襲い、大きな欠伸が出た。

 

 眠気を我慢して指に力を入れるが、やはり動かない。不安がよぎり時間だけが、ただ過ぎていった。

 

 ――……時間?

 フッと気になる事が頭に浮かび、再び手が止まった。

 

 もしかして、置いておく時間のせいか?そういえば、一度目はすぐに外さなかったはずだ。

 あの時は、三時間以上置いていて、縁の部分も柔らかかった気がする。もう一度、シフォンケーキに指をあてると、焼き上がった方は硬い。一度目のシフォンケーキへと指を伸ばすと指がふにゅりと沈み、すぐに元に戻った。

 

 ――そうだ、さっきとの違いは置いてる時間だ。一度目の方が縁が柔らかい。

 

 だが、先ほどと同じ時間置いておくのは、厳しいほどの眠気に襲われている。眠い目を擦り体を伸ばしたが、それでも眠気はとれなかった。体がふらつき、瞼が重い。


 ……中途半端で終わるのは嫌だ。ここまでやったのに、ここで止めるなんて……。


 それでも、もう手に力が入らなかった。

 

 鈍くなった体を動かし、このシフォンケーキを常温の棚へと入れて扉を閉めた。

 

「……今日はここまでにしよう」


 台を片付け厨房を後にした。部屋に戻ると何も考えずに寝台へ入った。瞼を閉じても、シフォンケーキが気がかりですぐには寝むれなかった。


 ――硬いままならどうしよう。柔らかくなってくれていたらいいけど……。明日も早く起きて……離れへ……行こう――。


 ゆっくりと、眠りに落ちた。

 

 

    ♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 

 扉を二回叩く音で目が覚め、寝ぼけながら応える。目を開けると陽は高く登り、時計を見ると九時を回っていた。

 

 「しまった、シフォンケーキ……ッ。」

 慌てて起き上がると、頭が少しだけ痛い。昨日、夜遅くまで作業しすぎてしまって寝不足のせいか……。


 扉が静かに開き、キースが部屋の中に入ってきた。

 「――おはようございます。何度か起きているか確認に来たのですが、眠られているご様子でしたので……。昨夜も遅かったご様子ですし、もう少し眠られますか?」

 

 「いや、大丈夫。もう起きるよ。何度も来てくれてたんだな……ありがとう。気付かなかったよ」

 いつもキリッとした表情のキースが、一瞬ほころんで見えた。瞬きを一度すると、もういつもの表情に戻っていた。


「――先ほどシフォンケーキと聞こえましたが、朝食はいかがなさいますか?」

「先に食べる……いや、少しだけ離れに行ってから食べるよ。準備が出来たら呼びにきてくれないか?」

 

「かしこまりました。準備が整い次第、メイドを一人迎えに行かせます」

 そう言い残して部屋を出て行った。


 ――シフォンケーキ柔らかくなってくれたらいいけど……。

 

 不安な気持ちを抱えながら、寝巻きを手早く着替えると部屋を出て離れへと向かった。


 


ここまで読んでいただきありがとうございます。


今回のお話は、焼き上がった後のシフォンケーキとの格闘でした。

うまくいったと思っても、そこから先でつまずくことってありますよね。


特に型から外す工程は、経験がないと意外と難しいもので、実は作者自身も初めての時はかなり苦戦しました。

エルが戸惑っている部分は、そんな実体験も少しだけ反映されています。


エルも少しずつですが、「どうして失敗したのか」を考えるようになってきました。

こういう積み重ねを書いていけたらと思っています。


現在、仕事の都合で更新は二日に一度となっておりますが、その分一話ずつ丁寧に仕上げていきますので、ゆっくりお付き合いいただけると嬉しいです。


次回更新は5月1日(金)19時30分です。

引き続きお付き合いよろしくお願いします。

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