表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/41

第Ⅵ話 後編【夕食と卵】其のニ

 お腹は膨れているが、それでも焼き上がったシフォンケーキに手を伸ばした。

 焼き上げは成功している気がする。でも、卵黄の粒が生地の中に点々とある。それにメレンゲの塊なのか、所々に白い生地の部分もある。

 食感は思っていたよりもフワッとしているが、その中にあるダマがやはり気になり、お世辞にも美味しくはない。

 

 ――やっぱり失敗していた。

 

 持ってきた書き置きのメモに、追加で失敗を書き留めておく。

 型を乾かし、もう一度生地を作り始めた。


 一度作っているからか、作業は順調に進む。

 卵黄にバニラの入った砂糖を混ぜると、すぐに泡立て器を入れて混ぜる。白っぽくなってきたら粉を入れて粉気がなくなるまで混ぜ、鍋を火にかけた。

 牛乳はすぐに湧いてくる。火のそばを離れず、鍋に注意をはらい、湧いた牛乳を生地にゆっくりと合わせた。

 

 ――ここからだ。

 卵白へ砂糖を少し入れ、泡立て器を刺し目一杯に動かしていく。理論書を読んで、わかった立て方を真似してみる。

 下から上へ円を描くようにカシャカシャと泡立て器を動かした。下から上に卵白を持ち上げ、空気を含む立て方がいいそうだ。

 卵白はすぐに白くなり、また追加で砂糖を入れた。

 目を凝らしてみると空気を含んでいるのがよくわかる。キメは細かくツヤも出てきている。

 残りの砂糖を加えて、また泡立て器を動かした。


 小さく息を吐き、腕を押さえる。

 ――一度に立てるのが、こんなにもしんどいなんて……。


 腕は痛いが、メレンゲを早く立てなければと思い、作業を続けた。泡立て器で持ち上げたメレンゲはスッと伸びて、ツノが立つ。泡立て器を上へと向けると、メレンゲの先が少し曲がり、本で読んだ理想的なメレンゲが出来上がった。


「よし。これならきっと上手くいく……よな」

 ――いや、本当にこれで合ってるのか……。

 

 不安に抱えながら、立てたメレンゲの一部を、卵黄へと加え合わせていく。ある程度混ざると残りのメレンゲを加えて更に合わせた。

 目を凝らし、生地にメレンゲの塊が残っていないか、確認する。


 ――大丈夫そうだ。


 型に流すと、今度は型の縁、その少し下まで生地が入り慌てた。

 ――さっきは型の七割ぐらいだったはずだ。それなのに今度は型のギリギリ。……何が違うんだ。


 量っていた材料に間違いはない、何度も確認した。なのに出来上がった生地は型から溢れそうだ。

 何が違う――流れていた状態を思い出すと、夕方の生地はトロトロと流れていた。この生地は、ヘラで流さないと中々流れていかないほどフワッとしている。

 

 ――もしかして……空気が多すぎるのか?


 それ以外に思いつかない、でも型から生地を出す方法もわからない。仕方なく、そのまま焼くことにして窯へと入れた。


「上手くいかないな……」

 手応えはあったはずなのに、上手くいかない。それが、少し残念になりため息を吐いた。


   ♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 ――そろそろか。

 シフォンケーキを窯へ入れてから、もう少しで三十分経つ。時計を見ると二十二時を過ぎていた。離れに戻ってきたのが二十一時の少し前。一度目は二時間ぐらいかかったのが、二度目は一時間半ぐらい。今回は早く出来たが、窯に入れているシフォンケーキがずっと気になっている。

 

 鉄製の扉は開けるまで中が見えない。何度か開けようと手を伸ばしたが、開けるのを我慢した。理論書に、途中で窯を開けると生地が落ちると書いてあったからだ。

 焼き上がるまで読み返していても、難しくて理由はよくわからない。でも、途中で開けて失敗するぐらいなら、最後まで焼こうと決め時間が過ぎるのを待った。

 

 ――時間だ。

 

 焼けているか不安を抱えながら、窯へと向かい鉄の扉に手をかけた。扉の向こうから、かすかに甘い匂いが漏れてくる。だが、それが逆に怖い。

 扉を開けてシフォンケーキを取り出す、ただそれだけの事なのに。


 ――開けなくちゃ……。

 

 窯に入れる前の生地を思い出し、指先に力が入らない。焼けているのか、失敗しているのか。確かめるには、扉を開けるしかない。でも、嫌な予想ばかりが、頭をよぎり扉を握る手が震えた。

 扉の向こうから、焼けた卵と砂糖の香り。うまくいっている証のはずなのに、もし失敗していたら――。考えるだけで手の震えは増していく。

 

 ――また失敗したらミーナに届けるなんて……。

 

 「それじゃダメなんだよ。商売人は探求心を忘れちゃダメなんだよ――」

 ミーナと回った祝願祭の初日。ジャムの屋台で言っていた言葉がはっきりと蘇る。

 

 ――探求心。

 きっと今も一緒だ。探すことと作ることは違う。でも、何かを求めるならやるしかない。

 料理人も、あのすり鉢を初めて使って難しいと言いながら、それでもあの味を作ってみせた。


 「俺にも出来るはずだ……」

 

 勇気を振り絞り、震えていた指に、ぐっと力を込めた。

 逃げるな……。

 そう自分に言い聞かせて、扉を引いた。


 

 ギィ……。重い鉄の扉が、ゆっくりと開いていく――。

 

 

 窯を開けると、隙間から湯気がもわりと上がった。湯気が落ち着いたことを確認し、扉を完全に開いた。

 窯の中は甘い香りで満ちている。真ん中に置かれた、シフォンケーキはふっくらと焼き上がっている。

 思わず息を呑んだ。


 ――成功したのか?……でも。

 

 型の縁へと乗るほどに膨らんだそれを見て、違和感が走る。

 一度目に焼いたときよりも、さらに膨らみ型の縁へと乗り溢れた形で膨らんでいる。

 

 型の側面を持ち、そっと窯から取り出した。手に持ってみるとよくわかる。真ん中の突起は、穴だけを残して膨れた生地に埋もれていて、突起の先が出ていない。


 ――やっぱり、膨らみすぎだった……。

 

 熱さを我慢して台へと静かに置いた。冷ますには逆さに置かなければいけないが、型の突起が見えない。このまま逆さに置くと生地が台へと当たって潰れてしまう。一度目の時は、突起が出ていたからそのまま置けたが、このままでは冷ませない。

 「どうやって冷ませば……」

 

 膨れた生地を見て、何かが脳裏に引っ掛かる。

 

 ――いや、あの時も確か。

 一度目の焼き上がりを思い出していた。


 あの時は、持った型が熱すぎて、しばらく逆さまにしなかったはずだ。そのあともキースが来て、それで……時間が経つと萎んできていた?

 逆さにするのを忘れていて、思い出した時にはシフォンケーキは萎み始めていた。


 時間が少し経つだけで、窯を出した時よりも低くなるならこれも、萎むかもしれない。

 そう思い、型を逆さを向けずに待っていると、すぐに少しずつに生地が萎み始めた。溢れて焼き上がったシフォンケーキは、型の縁に乗った所はそのままに、じわりとわずかに中央が沈んでいく。

 目を凝らす間にも、さっきまでの膨らみが嘘みたいに、ゆっくりと高さが失われていく。


 じわりじわりと沈んでいくシフォンケーキを、突起が出てきた所まで待ち、型を逆さへと向けた。

 軽く息を吐き、無事に萎んできたことに安堵した。

 

読んでいただきありがとうございます。


今回はエルの再挑戦回でした。

一度失敗しても、原因を考えてもう一度作る――少しずつ前に進んでいく姿を書きたかった回です。


怖くても扉を開ける。

その小さな勇気が、少しずつ彼を変えていくのかもしれません。


次回も、温かく見守っていただけると嬉しいです。


次回の投稿から更新が二日置きに変わります。

仕事が中々に忙しく、頑張って執筆していたのですが、書き溜めていた分がなくなってしまいました。

頑張って毎日投稿出来るように頑張っていきますので、引き続きお付き合いください。


次回更新は4月29日(水)の予定です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ