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Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


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第Ⅵ話 後編【夕食と卵】其の一


 カフェオレを飲みきりダイニングを後にした俺は、一度自室へと戻った。机に広げていた理論書と書き留めていたメモ。それと、借りてきたすり鉢とすりこぎを持って離れへと向かう。


 離れの扉を開けて厨房へと進むと、二人のメイドが厨房のそばで両脇に立っている。通り過ぎる時に無言で会釈され、そのまま厨房へと入った。

 厨房に入ると台は綺麗に拭かれ、洗って干していたものは片付けられていた。台の上には新しい卵が十個置かれている。

 ――キースの指示か?なんにせよ助かった……。

 

 もう一度作れればいいなと思っていたが、残っていた材料の中で、卵だけは買いに出ないと足りなかった。この時間は市場も閉まっていて、明日まで待たなければいけなかったからだ。

 これでもう一度作れる。もう一度、料理人の手つきを思い出して材料を量っていく。

 確か――。思い返すと料理人の手際の良さがよくわかる。一つにまとめられるものを一緒に量り、牛乳と油は鍋に直接量った。砂糖を量る時にすり鉢が、視線に入った。

 

 ――今度はバニラをいれてみるか……。

 

 バニラを取り出し、すり鉢へと入れた。すりこぎをゴリッと動かしてみたが上手く回らない。

 

 ――まだ、大きいのか?

 包丁を取り出し、小さい欠片に切ってから、すり鉢に入れ直しもう一度、すりこぎを手にとった。ゴリゴリと擦ると欠片がすり鉢の中で小さくなる。だが、思っていたほどの大きさにならない。

 

「これ以上どうやって細かくなるんだ――」

 

 理論書をめくってもバニラに関する箇所は見つからない。バニラ……確か店主が砂糖を混ぜてと言っていた気がする。バニラに砂糖を入れ、すりこぎを回していく。ゴリゴリと音を立て、バニラが砂糖にあたり少しずつ小さくなっていく。

 しばらく動かしていると、ゴリゴリとした音が静かになり、バニラと砂糖が綺麗に混ざった。

 取り出してみると、所々に少し大きいのがあるぐらいで、ほとんどが小さな粒になった。

 白かった砂糖に黒いバニラが混ざり、出来上がった灰色の砂糖。鼻を近づけ香りを嗅ぐと、甘いバニラの香りが鼻へと届いた。


「よし、多分上手くいった。バニラの匂いってこんなにも甘かったかな――今度はこれも混ぜてみよう」

 ルセットに書いてある通り、砂糖の一部をバニラ入りに置き換えて量った。残っているのは卵だけ。

 料理人の割り方を思い出し、頭に浮かべた。

 

 ――確かこうやって。

 

 教えてもらった通りに台へコツンとあててヒビを入れた。そのままヒビの入った面を上へと持ちあげ、ゆっくりと開いていく。卵は真ん中で二つに分かれ、隙間から卵白だけがトロリと流れ落ちていく。殻を二つに分けると卵白だけがプツンと切れてボールへと落ちた。


「やった、こっちの方が分ける手間もなくて、すごく楽だ」

 昼に割った時よりも、かなり早い。なにより分ける手間がない。それがありがたかった。

 卵を手に取り、次々に割っていく。途中で一つだけ卵黄が破れてしまったが、それ以外は綺麗に割れた。


 ――あとは、夕方に焼いたシフォンケーキを型から外すだけだ。

 ルセットに書かれた最後の箇所を見た。

 粗熱が取れたら、上向きに置き直す。型の側面、生地との間にシフォンナイフを刺して型に沿って滑らし、もう一度反転させると中央の突起が型から外れ、突起の隙間にもう一度ナイフを入れると型から外れる。


 ――全くわからない……。

 上を向けたと思ったら、また反対を向けたり。何がしたいんだ。それにシフォンナイフってなんだろうか。

 買ってきた袋の中に、それらしい物なんて……何か袋に入っていたような気がする。

 

 買ってきた袋を取り出し、中にある物を台へと広げた。もう一つの型、泡立て器とヘラ。それと銀色に輝く、細くて薄い板に、木の持ち手がついている物が入っている。

 ――これの使い道がわからなくて、袋に入れていたけど、これのことか?

 

 ナイフと言うわりには、これには刃がついていない。先が丸くて、先を握ると少し曲がる。何かを切れそうな感じはなかった。

 

 わからないが、型と生地の間にじわり差し込んでいく。くっついている生地の感触なのか、刺していく妙な感じが手から伝わってきた。

 ゆっくりと刺すと底まで刺さった。ゆっくりと型に沿って回すとカリカリと音がして、途中で何度か引っかかった。一周回ったところで抜き、突起を逆さまにして台に置いた。

 すると、回した型がわずかに動き、持ち上げると突起の付いた底板を残して外側が抜けた。

 

 突起の部分が台の上でグラグラと揺れている。底板にくっついているのか、シフォンケーキは逆さまを向き不思議な状態で止まった。

 

 底板の付いているシフォンケーキの部分が、不自然にひしゃげて潰れている箇所がいくつかある。

 潰れている箇所を数えると、型を回している時に引っかかった数と同じだった。

 

 ――難しいな。こんなはずじゃなかったんだけど……。

 書いてある通りにしたが、引っかかると潰れるようだ。


 逆さまのまま、底板とひしゃげている隙間にもう一度差し込み、くるりと回した。だが、まだ外れない。

 反対を向いているシフォンケーキの底は、外れて隙間が広がっている。

――あれ……どうして外れないんだ?

 

 今度は底を下にして置き直してみると、突起の部分にしっかりとシフォンケーキがくっついている。突起の隙間に差し込み、くるりと回すと、シフォンケーキはスッと底板に落ちた。

 

「ハァ……どうにか外れた」

 

 ――思っていたのと全然違う。

 底はひしゃげ、前に見たケーキ屋のシフォンケーキとは程遠い。

 まな板を持ち出し台へと置いた。抜いたシフォンケーキを、落とさないようにくるりとまな板の上で反転させる。型から外れたシフォンケーキがすとんと落ちた。


 まな板の上に落ちたシフォンケーキ。初めて作ったケーキは角がグシャリと潰れ、綺麗な出来とはとても言えない。でも、潰れて歪んだ形なのに、それでもちゃんとケーキになっている。やり遂げた実感と次こそは成功させたい気持ちが湧いてきた。

 

 ――このままじゃ渡せない……。

 

「次こそ成功させてミーナに届けよう」そう誓った。


 

 

今回もお読みいただきありがとうございます。


夕食を終えて、いよいよ再挑戦の時間です。

理論書で学んだこと、料理人の手つき、そして自分なりの工夫。

「知ること」と「やってみること」は、やっぱり別物ですね。

理屈を覚えても、思い通りにいかない。けれど、そのズレに気づくことで、少しずつ前に進める——そんな回になりました。


バニラや卵の扱い、そして道具の使い方。

エルなりに積み重ねたものが、次にどう繋がっていくのか。


次回は”もう一歩先”へ。

引き続き見守っていただけたら嬉しいです。


明日の投稿はお休みです。また4月27日(月)から再開いたします。

次回更新は4月27日19時30分です。

頑張って執筆していきますので、引き続きお付き合いください。

では、皆さま良い休日を。

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