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Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


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第Ⅴ話 後編【材料屋とシフォンケーキ】其の二


   ♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 一通り量るのを終え、ルセットの作り方に目を向けた。次はボールに……作り方を目で追っていく。

 卵黄に砂糖を入れて混ぜ、白っぽくなったら――。

 ……どういうことだ、書いてある意味がよくわからない。

 

 書いてある通りに、卵黄に砂糖を入れた。

 干していた泡立て器などの器具を、持ってきていないことに気づき洗い場へと向かう。すぐに戻り卵黄に泡立て器を入れて混ぜると、卵黄が球状に固まりダマが出来た。

 

 ルセットには、こんなこと書いていない。慌てて泡立て器を円を描くようにボールに滑らせ、中身を混ぜるが、ダマは消えていかない。

 

 ――混ぜ方がおかしいのか?

 円を描いていた物を左右に揺するように動かすと、段々と白っぽくなってきた。だが、ダマはそのままの形で残り、黄色いダマが残る出来になった。

 

 ――わからない……でも、とりあえずやってみよう。

 作業を、そのままなぞっていく。牛乳を鍋に入れ火にかけた。粉を振るい、粉篩を洗い場へと運んでいると、何かがこぼれた音が聞こえ、振り向くと、牛乳が鍋から溢れぶくぶくと泡を立てて吹いている。

 

「嘘だろっ!」

 

 慌てて火から外すと、中身は半分ほどに減り、コンロは牛乳と油が混ざった物でジュワジュワと湯気を上げた。


「くそっ……もう一度か」

 悪態を付きながら、また量りなおした。材料を鍋へ移し、また火にかけた。今度は火元から離れずに鍋を見ていると、牛乳と油の分かれた間で牛乳がポコポコと沸いて来ている。少しそのまま見ていると、いきなり牛乳が油を破り沸き出した。また、慌てて火から外し、今度はあふれる前に止めることが出来た。

 

「ふー……次だ」

 一息つき、ルセットに目を落とした。

 泡立てた卵黄に、温めた牛乳を加えて混ぜていく。全体が均一に混ざれば振るった粉を加え、粉気がなくなるまで混ぜ合わせる――。

 先ほど温めた鍋を手に取ると、湯気が上がっている。

 

 ――温めた……沸かした……くそっ、どう違うんだ。

 

 迷いながら、湯気の上がる牛乳を注ぎ、ゆっくりと混ぜていく。白っぽくなっていた卵黄が、牛乳と合わさっていくと少しずつゆるくなり、粘り気のある黄色い液体のようなものが出来上がった。

 そこに振るった粉を入れ、混ぜ合わせていくとサラサラだった物に粘り気が出てくる。そのまま混ぜていると、もったりとした状態に変わり、粉気は見えない。だが、最初から残っている黄色いダマは、そのまま残り消えなかった。


 「……ずっと、残ってるな」

 黄色いダマを見つめ、ため息をついた。

 なんとなく、ヘラを押し当ててみた。すると、ダマは押しつぶされ、少しだけ小さな粒になった。

 これならと思い、そのままヘラを押し当てて大きなダマを潰していく。大きなダマは姿を消したが、混ぜてみると、さっきより細かい粒がたくさん出来ただけだった。


「次だ……」

 

 次はメレンゲ、卵白をボールへと移す。卵白に黄色い筋がいくつか見える。

 

 ――混ざっていたのか。

 

 卵黄を移す時に、割れていたのかもしれない。スプーンを差し込み卵黄を取ろうとしたが、卵白が邪魔をして取り除くことは出来なかった。

 これぐらいなら大丈夫だろう。そう思い砂糖を一度で加えた。だが、ルセットを見ると、泡立てながら三回に分けて入れツノが経つぐらいまで立てる。と書かれている。

 

「……また間違えた。……これでもいけるかな」

 焦っているわけではないが、初めてすることばかりで、ずっと落ち着かない。手を止めて息を深く吸い込む。体を左右へと伸ばし、視線を戻した。

 

 卵白の入ったボールに泡立て器を入れ、円を描くように混ぜていく。ボールの縁を泡立て器が走り、卵白に入れた砂糖が底に当たるのを感じた。だが、一向にツノが立つような感じがない。卵白は大きな泡に包まれ、底の方はまだ透明なままだ。


――やっぱりダメなのか……。

 

 そう思いながら、必死に泡立て器を動かす。持っていた泡立て器が重く感じる、腕が痺れてきていて、思ったように動かすことが出来ない。額に汗が滲み、手が止まった。

 

「メレンゲってこんなにしんどいのか……」

 

 もう腕が上がらない。走り回った時の足のように、腕が痛くなるのは初めてのことだった。

 中を見ると、メレンゲは少し白くなっただけで、泡立て器で持ち上げると、ぼとりとボールへと落ちた。


「くそっ……もう一度」

 買ってきた卵を見ると、残っていたのはあと一回分あるかどうかしかない。二十個あった卵は残らなそうだ。

 もう一度卵をボールへと割り入れていく。

 最初よりも割るのが少しだけ早くなった気がする。残っていた卵を失敗することなく割ることが出来た。


「よしっ……ここからだ」

 フォークへ手を伸ばしたが、途中で辞めた。

 

 ――さっきはフォークでしたから、卵黄が破れたのかもしれない。

 

 スプーンへと持ち替えやさしく掬い上げていく。卵黄の下へと滑らせ持ち上げた。さっきと同じように上げている途中で卵白だけがボールへと戻り、卵黄はスプーンの上でぷるんと揺れる。

 

「こっちの方が、かなり楽だ」

 嫌になりかけていた、卵を割る作業が少しだけ楽に感じた。卵を全て割りながら、二つへ分けていく。卵白を量り終えふと思う。

 

 ――残った卵黄はどうしたらいいんだ。


 そのまま置いておいてもいいものかと考えるが、いい案が浮かばない。

 ――とりあえず、そのまま置いておくことにしよう。

 器の上に蓋を置いた。

 

 一度目の失敗は、多分、砂糖を一度で入れたことだと思う。砂糖を少しだけ入れ泡立て器を左右へと動かした。

 

 少しすると透明だった卵白が、白くなってきた。

 一度目とは違い、すぐに大きな泡が卵白へと溶けていく。

 

 ――上手く行っている気がする。

 

 さっきは、ぼとりと落ちた。だが、今は白くてふわっとしてきている。そのまま泡立て器を動かしていると、また様子が変わってきた。白くふわっとした物の中に、ボソボソとした固まりが所々に出来てきているのが分かる。


 慌てて二回目の砂糖を入れ、泡立て器を動かした。砂糖の粒がボールの底に当たりジャリジャリと音をたてる。

 音が聞こえなくなると、卵白にはツヤが少しだけ戻り、ふわふわになってきていた。

 

 ――ボソボソになってからじゃ、遅いのか?

 

 メレンゲの状態をよく見ながら必死に腕を動かし、最後に入れる砂糖を早めに入れた。

 合っているかは分からない、でもそんな気がした。

 ――さっきの感じだと、これで間違っていないはずだ。

 

 砂糖が当たるジャリジャリとした音がしなくなり、細かな泡の粒がどんどんと細かくなる。ふわふわとしたメレンでが動かなくなったところで手を止めた。

 メレンゲをよく見ると、ツヤのある状態で持ち上げてみると、先が少し曲がる。ルセットに書いていた通りのものだ。


 「……出来た」

 一人でメレンゲを作ることが出来たことで、心が少しだけ楽になった。

 

   ♦︎♢♦︎♢♦︎♢


今回もお読みいただきありがとうございます。


仕事の都合で更新が少し空いてしまい、申し訳ありません。

お待ちいただいた方、本当にありがとうございます。


今回のエルは、ただひたすらに手を動かす回になりました。

上手くいかないことばかりでも、やめずに続けることで少しだけ前に進む――そんな時間を書いています。


次はこの積み重ねがどうなるのか。

引き続き見守っていただけると嬉しいです。


次回更新は明日の19時30分です。

引き続きお付き合いお願いします。


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