表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/81

第Ⅴ話 前編【材料屋とシフォンケーキ】其の二



 いくつか屋台を回り、ルセットに記されていた材料を集めに回った。

 材料屋の後、北区の酪農市へと足を向け、牛乳と生クリームの乳製品を買った。その足で、そのまま南区へと書いてある材料を探しに行った。ミーナと二人で不思議な顔を浮かべたあの屋台。最後の材料〝バニラ〟を求めて向かった。


 広場へ出ると教会が見え、今日も長い列が続いている。見上げた教会の上には大きな鐘。

 「――そろそろか」


 見上げていた鐘がゆっくりと動き、少しづつ傾いていく。傾いていた鐘が元の位置へと勢いを上げ落ちると大きな鐘の音が街に響いた。

 

 ゴ――ン ゴ――ン ゴ――ン……。

 

 街の時報。九時を知らせる鐘が鳴り、屋台から呼び込みの声が広がっていく。

 鐘の音に混ざって、教会の中から祝詞が微かに聞こえた。

 この祈りはどこへ行くんだろう……俺の祈りも――。

 

 視線を下ろし、西区の屋台へと向かおうとした時、並ぶ列にガッチョの姿が見えた。


 ――今は、会いたくないな。


 そう思っているとガッチョと目が合った。だが、すぐに視線を反らして西区へと向かった。後ろから声はかからなかった。

 まだ怒っている。そんな気がして、少しだけ心がギュッと締め付けられた。


 少し行くと二つ目の脇道へと入り、先週買った雲菓子の屋台の前を抜けた。

 

 ――確か、この辺に……あった。


 Ⅳのバニラビーンズそう言っていた屋台はまだ残っていた。屋台は売り切れると店が変わる。

 あの時に買い占めていたあの客。そのせいで店が変わってるんじゃないかと思っていたが、まだ残っていたようだ。

 大きな荷物に外套。多分、あれはソウだったと思う。今思うと、声も、あの妙な言い回しも似ていた気がする。

 

 ――あの時に多分すれ違ってたんだな。


 屋台を除くと、並んでいたのは瓶に入った【バニラシロップ】。薄い茶色に黒い粒が万遍なく浮いている。

 「すみません、バニラはありませんか……前に売っていたⅣのバニラです」

 三回目の来店で初めて声をかけた。


 「すみません、あれは売り切れてしまって。もうこれしかないんですよ」

 指さしたのは並べられた瓶だった。

 「そう……ですか」

 やっぱりなかったか。あの時に買われたもので最後だったみたいだ。

 店を去ろうと後ろを向いたとき、店主から声がかかった。


 「あんた……いや、これなら代わりになるんじゃないかな?」

 手に乗せられていたのは半分に開かれ、カラカラに乾燥したバニラだった。


 「これは?」

 

 「これは、使った後に出たバニラのさやだよ。乾燥させて粉々に砕いて砂糖に混ぜたり、砂糖に刺しておくだけで香りが移るらしい」

 「丸のままは全部買ってくれたお客さんがいてないんだけど、シロップ買ってくれたらこれも安くで譲るよ」


 ――バニラにそんな使い方があったんだな。

 捨てるものだと思っていた。でも、違う使い道は他にも残っていたんだ。

 

 銅貨六枚を手渡してバニラを受け取った。

 ――甘い香りがする。

 受け取ったバニラから甘い香りが昇ってきた。


 「私バニラの香り好きなんだよね♪」


 ……ミーナ、バニラ好きだったな。好きな香りなら食べられるかもしれない。

 思い浮かべた顔を払うように首を振った。


 ――これでいい。あとは、やるだけだ。


 来た道を向き、館へと歩みを速めた。

 


    ♦︎♢♦︎♢♦︎♢



 怪しげな薬市を抜け西区を歩く、しばらくすると館の門が見えた。

 近づくと門のあたりが騒がしい。数人の衛兵が集まり並んでいる。

 

 ――並んでいるけど何かあったのか?

 そこまで考えて思い出した。夜に抜け出してそのまま街を周っていたことを。

 ――まずいな。館にいない事がばれてるようだ。――あれは多分、俺を探しに行く衛兵。


 どうしたものかと考えたが、早くケーキを作りたい。その気持ちが勝り、そのまま館へと進んだ。

 「エルネスト様!」

 衛兵の一人が俺に気づき声を上げた。そこから他の衛兵たちも声を上げ、次々に俺の名前を呼んだ。

 呼ばれるのが落ち着くと、並んでいた衛兵が二つに分かれ俺に道を開けた。

 別れた道を進んだ先にはキースの姿があった。


 「あーこれは、その……なんだ、えっと……すまなかった」言い訳を考えても思いつかず素直に謝ることにした。

 キースは短く息を吐き、口を開いた。

 「おかえりなさいませ、エルネスト様。本日のご予定ですが――」

 「しばらく予定はなしだ」

 キースの言葉を遮り、予定をなしにした。だが、そううまくいくとも思えないかった。キースが持ってくる課題は父からの物が大半だ。

 執事長が館の主の命を止めるとも思えない、何とか少しでも減らしたいところだ。


 「かしこまりました。キッチンでしたら離れをお使いください。清掃は終わってございます」


 「えっ?」

 急なことで返事が呆けた。普段のキースならこんな反応はしないはずだ。それにどうして俺がキッチンへ行くことを知っているんだ。

 「――いいのか?父さんから課題を預かっているんじゃ……」


 「その大量のお荷物を見るに察しいたしました」

 「エルネスト様はきっと――ミーナ様のために動かれる。そんな気がしていたのです」

 「エヴァルト様には、わたくしからお伝えしておきます。どうぞ離れへ」

 右にそれたキースは腕を右へと差し出し、道を開けた。


 「……助かる、何かあれば離れへ来てくれ」

 そう言い残し、庭園を抜け離れへと走った。

 

 

読んでいただきありがとうございます。


今回は「材料集め」を意識して書きました。

特にバニラのくだりは、前話のワインの話と少しだけ繋がるようにしてみました。


完璧じゃなくてもいい、残っているものでやる――

エルが一歩踏み出す準備の回です。


次回からはいよいよケーキ作りへ。

料理未経験者がどうなるか、見守っていただけると嬉しいです。


次回更新は明日19時30分です。

引き続きエルの頑張る姿を見守ってあげてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ