表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/42

第Ⅳ話 後編【闇夜の出会いと貴腐ワイン】其の一


 

   ♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 


 積みあがった木箱に俺は腰を下ろした。

 男は、木箱へは登らず地面に座り、木箱に体を預けている。


 街にかかっていた霧は海へと流れ、水平線は少しだけその姿を現した。

 

 日の出まではもう少し。

 

 太陽の姿は見えないが、あたりはだいぶ明るくなり、街灯が音もなく消えていく。



 「……俺の」

 

 

 「……俺の大切な友達が、病気らしいんだ」

 

 重い口を開け、出来れば口にもしたくなかった言葉をつなげた。

 

 

 「どうすれば、助かるのか――わからない」

 

 「何をしたらいいのかも……」

 

 男からの返答はない。

 話す声はどんどん小さくなっていった。


 「なんだったら食べられるのか」


 「……それもわからないんだ」



 

 「――そうか、大変だな」

 口を開いた男の声がとても軽薄に聞こえた。


 

 「それで?」



 

 ――何がそれでなんだ?

 


 

 俺は意味が分からずに聞き返した。


 「それでって何がですか」

 口調が少しだけ荒れた。


 

 木箱に寄りかかる男へ視線を向けると、男と目が合った。


 「マジか……」

 小さなため息が、聞こえた気がした。

 

 

 「それでお前はどうしたんだ?って聞いてんだよ」

 「わからないから落ち込みました。それだけなのか」

 

 

 「俺だって出来ることを探したんだ」

 「ミーナの好きなケーキ屋に食べられるものを作ってくれって」


 「……でも……断られた」


 なぜ断られたのだろうか。お金を出したのが失敗だったのか。

 でも、それ以外に俺が出せるものなんて……。

 

 「そりゃ断るだろ」

 

 「で?」

 

 

 ――じゃあ、どうすればよかったんだ……。


 

 ……いや、違う。そうじゃない。

 あの時、店主は確か「僕様は忙しいのだ。何の用で呼び出したのだ!」といっていた。

 

 忙しい。忙しい時に俺が呼んだ……。

 ――俺が、邪魔をしていた?それなら。


 それなら、忙しくないときに行けば聞いてもらえるかもしれない。

 この時間から待っていれば……会えるかもしれない。


 「……もう一回、行けば」

 ぽつりと出た言葉は風に消えた。



 「――やめとけ」

 立ち上がろうとした矢先に男から声がかかった。


 

 「変わらねえよ」


 

 「……っ」

 ――そうだった、祝願祭はまだ続いている。

 男に言われるまで忘れていた。祝願祭はあと一週間も続く。

 

 「もう、できることなんて……やっぱり」


 顔を落としたその時、鼻先を甘い香りが抜けた。

 下にいる男がワインを開け、口をつけた。


 

 「人が悩んでるときにワインかよ……」

 

 「お前みたいなワイン持ってたの思い出したからな」

 男は瓶を持ち上げ、中身を空に透かしている。

 透明な瓶に琥珀色した液体が、少しだけ光って見えた。


 「……どういう意味だよ?」

 

 また、ワインを一口飲んだ。

 「腐ってるってことだよ――」

 

 「……は?」

 「お前と同じってことだ」


 言われてることが分からない。

 この男と会話をしても、話を聞いているのかもわからない。

 

 

 「それで」

 また、男は同じことを言った。

 

 「……それで終わりなのかって、ことか?」


 

 「いや、知らねー」



 ――なんなんだこいつは。

 質問には返さない、言っていることは意味が分からない。

 俺の言っていることを拒絶されてるみたいだ。


 

 ――拒絶?

 断る?ケーキ屋に断られた……。

 他に頼るところなんて……。


 …………。


 いや、ケーキ屋〝には〟断られたが街中で聞いたわけじゃない。

 もしかしたら――。



 「やめとけ、一緒だ」


 まただ、考えていることを読まれてるみたいに先に止められる。


 「で?」

 

 また同じことの繰り返し。

 「じゃあ、どうすれば……」

 同じ場所をぐるぐる回っている気がした。

 


 「はぁー」

 男が短くため息をついた。

 

 「それで、お前は何したいんだって聞いてんだよ」


 

 ――俺は……。

 浮かばない、なにも。


 わからないから歩いた、街を一人で。

 

 でも、ここまで来ても何も浮かばなかった。


 「……考えてる」


 「違う」

 「俺は〝何したい〟って聞いてんだ」


 言葉の意味が、すぐには理解できなかった。

 ――何したい?何がしたい……考えている。

 考えることをしている……。


 でも、それは……。


 ……違う。考えてたんじゃない。


 ――逃げてただけだ。


 

 「……何もしていない」

 

 口にした瞬間、胸の奥がざらついた。

 考えているつもりだった。でも、それは――。

 自分で認めたくなかった言葉だった。

 

 「そうか」

 男は短く会話を遮った。



 ――どういうことだ?何が出来る。

 ほかにできることなんて何も。



 「……でも、何をすればいいか――」

 

 「考えて終わりか?」

 その言葉に、胸の奥がざらついた。

 

 ――考えても答えなんて……。

 

 似たようなことを、前にも言われた気がする。

 

 「考えてもわからない物はわからないの!」


 頭の奥に、誰かの声が引っかかる。

 明るくて、強引で――。


 「――自分で探さなきゃね」


 

 ミーナと前にもこんなことあった。

 あれは確か……。


 「そっちの方が面白いでしょ♪行こうよ」

 俺の手を引いてくれていた――。


 

 そうだ……去年の祭りの時だ。



   ♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 去年の祝願祭。

 あの日、二人で回っていた時。


 「おかしいなー確かこの辺だった気がするんだけど……」

 オススメの屋台の一つへ、俺を連れて行こうとしていた。


 だが、ミーナが屋台の場所を忘れてしまった。


 あの日も、人が多くて。二人で裏路地に入って、ミーナが思いだすのを待っていた。

 


 「なー西区とか東区とかはわからないのか?」


 「んー考えてるんだけど……どこだったかなー」

 握った手を口に当て、思い出そうとしていたミーナ。



 「んー……うんー……よし」

 唸っていたミーナがいきなり振り返った。

 

 「考えてもわからない物はわからない!」


 「は?」

 思わず呆けた顔で答えてしまった。


 「だから、考えてもわからない物はわからないの!」

 

 「じゃあ別の所へ――」

 あの時、俺はあきらめたと勘違いした。

 別の屋台へ行くのだろうとそう思っていた。


 だが、続いた言葉は違う。

 

 「それなら――自分で探さなきゃね」


 「はぁ?どれだけ店があると思って――」


 「そっちの方が面白いでしょ♪行こうよ」

 ミーナは手を伸ばし、掴んだ俺の手を引っ張り、大通りへ向かった。


 西区から北区へ、そのまま東区……結局、街中を連れまわされた。

 

 ――でも、あの時は結局見つからなかったっけ……。

 

 「見つからなかったね――でも、」

 ミーナと一緒にいると、歩いてばかりな気がする。

 

 

 「楽しかったね♪」

 歩いて回るのは、疲れた。でも。

 

 見たことないものを一緒に驚いて。


 新作の看板にミーナが走っていくのを止めて。


 ――楽しかったんだ。

 


 考えてなんていなかった。

 ただ、あいつに引っ張られて――動いていた。

 

 …………あの時は、わからなくても動いていたのに。

 


 それなら――今は。


 

第Ⅳ話後編【闇夜の出会いと貴腐ワイン】其の一を読んでいただき、ありがとうございます。


今回はエルの中で、少しだけ変化が生まれた回になりました。


夢人の言葉と、ミーナとの記憶。

その二つが重なった時、エルはどう動くのか。


次回も読んでいただけると嬉しいです。

次回更新は明日19時30分です。


引き続きお付き合いお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ