表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/41

第Ⅳ話 前編【闇夜の出会いと貴腐ワイン】其の二



   ♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 

 眠れない寝台から抜け出し、街へと抜けだしてきた。

 深まった夜の街には誰も歩いていない。

 

 今日の街はやたらと霧がかかっていて、街灯が薄っすらと滲んだ光を放っている。

 

 街灯の下だけが俺を照らし、視界の悪い街を歩いた。



 広場へと抜けると、教会を見上げた。

 教会の上には街に時間を知らせる鐘。

 

 だが、見上げても何も見えない。

 鐘が鳴るはずの場所は、霧にのまれていた。


 

 

 ただ、街を歩いた。

 

 

 誰もいない街を。


 俺を知らない街を。


 ミーナがいない街を……一人で。

 

 

 耳に届くのは自分の足音と、小さな波の音。



 考えても、何も浮かばない。


 誰も、助けてはくれない。

 

 助けてくれる奴なんて……最初からいなかった。


 

 「立ち止まっていると、思考も一緒に止まってしまいますからね」

 先生の言っていた言葉。

 ――先生、歩いても何も考えられませんよ。

 

 


 広場を抜け、路地を理由もなく歩いた。

 自分の足音が少しだけ大きく響き、他に聞こえてくるのは波の音だけ。

 

 

 点々と置かれた街灯。

 

 

 街灯を過ぎると、自分よりも少しだけ先を歩く影。

 

 視線を落とすと、その先は数歩先で消えていた。

 

 

 「なにも失ったことがない、そんな顔だ!」


 ふいに浮かんだ、ケーキ屋の主人が放った言葉。


 ――家族との時間も。


 ――友達との時間も。


 ――ミーナとの時間も。



 もう、今は……。



 気が付けば波の音はすぐ近くに聞こえていた。


 街灯の少ない港は、街よりも暗く。

 海は深い霧に覆われ、水平線は見えなかった。

 

 

 港に積まれた木箱へと手をかけ登る。

 今は、誰も手を差し伸べてくれない。


 登った先も何も変わらない。

 ただ暗いだけの海。


 濡れた木箱に腰掛け、見えない水平線に視線を送った。

 

 「俺に何ができる……」

 


 「何もできなかった……」


 岸壁に押し付ける波は静かに、ただ一定に律動を刻む。


 

 

 「あんたはいつまでいるつもりだい!」


 

 港に怒号が響いた。


 「なんだ……」

 


 嫌な金擦れの音と共に勢いよく開いた扉。

 開いた先から伸びた一筋の光に視線を落とすと、何かを抱えた小柄な人。

 

 「おらぁぁぁ!」

 小柄な人が掛け声とともに、抱えていたものを――――投げた。



 丸まりながら転がった物が、少し離れたところにある木箱へとぶつかり、ほどける。

 

 

 「いてててっ……」


 

 荷物に見えたものは声を上げ、人だとわかった。


 

 開いていた扉から、また一つ大きな物が放り飛ばされた。


 

 その先には、木箱を背に痛がっている人の顔。


 木箱が嫌な音を響かせ、その人は動かなくなった。


 

 「フンッ!二度と来るんじゃないよ」


 勢いよく閉まった扉。

 その勢いに耐え切れず、扉は不思議な隙間を開けて静止している。

 

 「あぁ――――――――ッ!」

 「また、やっちゃったよ~あんた~ごめんよ~」



 そこから先は何も聞こえてこない。

 また波の音だけに戻った。


 「……また、何も考えられなくなった。……なんだったんだ」

 


 荷物が木箱から剥がれ落ち、木箱が少し揺れた。

 

 「ひどい目にあったぜ――」

 「あぁー俺の荷物!」


 転がっている荷物を開けて、何かを探しているようだ。


 ――俺には関係ない。


 「よかった、無事だ!」

 「高い金払ってやっと買ったのに、割れてたら洒落にもならない」

 

 

 ――うるさい。



 「今日の寝床どうするかな――また、アレモさんの所にでも転がり込むか?」

 「いやいや――昨日の今日はさすがに。――また戻るのもなぁ」


 

 ……アレモ?確かパームスの家も――。

 


 「……静かにしてもらえますか」

 息を殺して見ないようにしていたが、黙って欲しくて声をかけた。


 「――うおっ!」

 「びっくりした……なんでこんな時間に子供がいるんだ?」

 

 

 「――静かにしてください」


 

 「そんなに怒るなって」

 「ここは港だ。うるさいのなんて日常茶飯事だろ?」

 

 「それに、君のものって訳でもないだろ?」

 

 ……うるさい。

 「うるさいっていってるだろ!」

 

 「帰れよ!」

 視線を送ると、外套に隠れた男と目が合った。

 

 

 「……今、考えてるんだ!」


 

 「俺の前から消えてくれよ……」

 視線を反らし、顔を背けた。


 

 「ひっどい言い草だな――ハハハッ」

 

 

 「いい顔してるな!それ、面白い」

 男は笑い、立ち上がった。


 

 立ち上がると男の口元から笑みが消えた。


 

 

 「怒る元気はあるんだな」

 

 

 静かな声が耳へ届いた。

 


 「何を、待ってるんだ」

 

 ――待つ?誰を……。

 

 

 被っていた外套を外し、街灯の下を抜ける。

 

 ――誰だ……さっきまでの人とは、なにか違う。

 

 長く黒い髪をたくし上げ、照らされた顔つき。

 それはこの街の人とも、この国の人でもない。

 

 

 ――夢人……。

 

 「……夢人」

 考えが、ぼそりと口から出てしまった。

 

 話題に出ていた夢人と、同じ人かはわからない。

 でも、なぜか同じ。……そんな気がした。


 空が少しだけ明るくなってきている。

 だが、海にかかった霧は、まだ晴れてはいない。

 波の律動は変わらずに聞こえてくる。

 

 近づいてくる男は、少し手前で足を止めた。


 「その呼ばれ方は好きじゃないな――」

 「そもそも、それは種族でも名前でもない総称だろ?」

 「そうなってくると、俺も君をⅣの人って呼ばなくちゃいけない。だが、そんな呼ばれ方しているのは聞いたことがない」


 「いや――初対面ならありえるか?そういえば違う国でも呼ばれていたような……」

 

 小声で、初対面だの他国だのと、要領を得ない独り言を続けている。

 

 

 ――何を言っているんだ?

 名前も知らないんだ、当たり前じゃないか。

 


 「……何が言いたいんですか?」

 ぶつぶつ言っているのを無視して、割り込んだ。


 「いや、なに呼び方はどうかって話をな。お互いに名前がある以上、会話をするにあたって名乗るべきじゃないかと思うわけだ」


 ――どうでもいい。

 長ったらしい話が妙に癪に障る。

 

 「それには及びません。俺はあなたを知らないし、あなたも俺を知らない」

 「会話も望んでいない。……だから、どこかに行ってください」

 

 

 ――早く会話を終わりたい。


 

 「ブハッ!お前やっぱり面白すぎるだろ」

 

 男がいきなり噴きだし笑い始めた。

 膝を叩いて、笑っている。


 「……何がおかしい」


 

 「だってよ、今のも会話だろ?そんなに嫌なら、俺を無視してどっか行けばいいじゃないか?」

 「アッハッハッハ……それともアレか?」


 急に、真顔になった男の表情に、体が一瞬構えた。

 語りだした男に、さっきまでの軽さは嘘のように消えた。


 

 「気にしてほしいのか」


 一瞬、言葉が詰まった。

 ――……違う。

 

 「僕は落ち込んでます。だから、構ってくださいって」


 ――違う!


 「今どん底です。助けてくださいって」


 胸の奥が、ざわついた。

 ――違うっ!


 

 「お前に何がわかるんだ!知りもしないくせに――」

 

 

 自分でも驚くほど大きな声だった。

 大きく出た声は、波にのまれ静かに海へと消える。

 

 

 「――知らねーよ。知らねーから面白いんだろ?」

 

 

 「……ハァッ?」

 また訳の分からないことを男は口にした。

 


 ――もう話したくない。

 これ以上ここにいたら、何かを吐き出してしまいそうだった。


 そう思い、木箱へと手をかけ去ろうとした時だ、男の口が開いた。

 

 

 

 「人の不幸は蜜の味」

 

 

 

 ――人の不幸が蜜の味?聞いたことがない言葉だ……。


 

 「――そんなこと言うやつがいるが、俺はそう思ってねえ」


 

 「人の不幸だろうが、人生の一部だろ。嫌なことも、いいことも、勝手に降ってきやがる」

 

 「どう受け取るかなんて人の勝手だ」

 

 

 ――それが何だっていうんだ……。

 

 

 「楽観的ならそれでいい。でも、悲観した気持ちはどこへやる……」

 

 「全部抱え込んで、悲劇の主人公でもやってるつもりか?」

 

 

 

 男の声は落ち着いていて、ゆっくりと耳に届いた。

 荒れていた感情が、静かに凪いでいく。

 

 そんな気がした。

 

 かけていた木箱から手を放し、男へと視線を向けた。

 男の言葉が気になり、続く言葉を待った。


 

 「お前、取り出した刃物が自分に向いてないか?」

 

 

 ――俺が取り出した刃物……。

 何かが心に引っ掛かった。



 「取り出した刃物の鋭さを、振るった側は知りもしない」

 「その刃が自分にも向いていることすら分かりはしない」

 

 

 「もう一度言うぞ。お前は何を待っているんだ」


 

 ――俺が待っているもの…………わからない。

 だが、ふと浮かんだ顔は笑った顔ばかりだった。


 

 「その顔だ、それが人生の顔だ」

 「それが面白い」

 

 

 ずかずかと土足で踏み込んできた男は、また面白いと言った。

 ――理解はできないし、納得もできない。

 

 

 でも、胸の奥に詰まっていたものが、少しだけほどけた気がした。




 

読んでいただきありがとうございます!


エルにとって、少しだけ風向きが変わる出会いになりました。


とはいえ、まだ整理はついていません。

むしろここからが本番です。


次回更新は明日19時30分です。


次回も引き続きよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ