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Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


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第Ⅳ話 前編【闇夜の出会いと貴腐ワイン】其の一


 

 ――ここは?


 目を覚ますと自室の寝台の上だった。


 「帰ってきたっけ…………いつ?」

 どうやって帰ってきたのか思い出せない。


 「夢だったのか……?」

 夢ならそれでいい。あんな夢ならない方がいい。

 

 布団に包まり寝台の脇に置いてあった、懐中時計を開いた。


 ――まだ、八時か。


 空は暗く、窓から見える街の方は明るく輝いていた。


 

 二回扉をたたく音が聞こえ、扉が静かに開いた。


 入ってきたのはキースだ。

 いつもなら確認を取ってから入ってくるのに珍しいな。


 ――キース、出かけてたはずじゃ……?


 起き上がり、キースと目が合った。

 「――エルネスト様!」

 「よかった。お目覚めになられたのですね……」

 キースは持ってきていた灯りを部屋にうつした。

 

 ――意味が分からない。ただ寝てただけじゃないか。


 「キース。何を言っているんだ?それに用事で出ていたはずじゃ……」


 ――いや、それは夢の話だったはずだ……。

 

 驚いた顔をしたキースを見るのは初めてだった。


 「覚えてらっしゃらないのですか?」

 「もう三日も目を覚まされなかったのですよ……」

 

 「……三日……?」


 「……そんな。ミーナは、ミーナはどうなった!」

 キースが知っているはずがない。


 「ミーナ様は、変わらずと――聞き及んでございます」

 

 「そうか。よかった……」

 

 ――よかった?……変わらない……食べられていない?

 

 変わらず、それは良くもなっていない。

 変わらないのは維持しているだけで、むしろ悪化している?

 

 

 「なぜ知って――」

 キースが、指を一本口の前にたてた。


 「順を追ってご説明いたします。少々お時間はかかるかと思いますが――」


 「聞かせてくれ」


 

   ♦︎♢♦︎♢♦︎♢  



 わたくしがエヴァルト様のご指示で領外へと向かったのが、三日前でございます。

 

 エヴァルト様からの用事も予定よりも早く終わり。

 戻ってくることが、出来たのが昨日の夕方の事。


 その間の事は、執事見習いとメイドたちに聞いた話になりますが――。


 

 わたくしが出かけた三日前、エルネスト様が夜になってもお戻りにならず。


 衛兵たちにより捜索隊が集められました。

 捜索のために門の近くに衛兵達が集まっているときでございます。

 エルネスト様にお会いしたいと訪れたのが、ガッチョ様とアルテミア様でございました。


 捜索隊に話を聞いたお二人は駆けていかれたそうです。

 そのあとに続き衛兵も追いかけ、裏路地の奥で倒れていたエルネスト様を保護。


 その時には高熱にうなされていたと聞いております。


 至急医者を呼び、診て頂いたところ雨に打たれ風邪をひかれたのだろうと。


 ですが、一向に目を覚まされないエルネスト様に皆慌てたそうでございます。


 わたくしが帰ってから一日ほど経過する間に、ガッチョ様とアルテミア様がお見舞いに来ておいででした。

 詳しくはわかっておられないようでしたが、ミーナ様のお話をお聞きいたしました。


 お二人も大変心配しておいででしたよ。


 先程お二人が帰られ、こちらに戻ってきた。


 ――というわけでございます。



   ♦︎♢♦︎♢♦︎♢  

 


 「……そうだったのか」

 キースが額へと手を伸ばした。


 「熱も下がったようでございますね」

 「あまり無理はなさらないでくださいませ。――皆心配しておりましたよ」


 「そうか……悪かったよ」


 「体調がまだ戻っておられないご様子ですね。もう少しお休みくださいませ」

 そういうと、キースは部屋の灯を落とし、寝台の灯りが部屋をやさしく照らした。

 

 扉を出ようと伸ばした手が止まり振り向いた。

 

 「――それにしても懐かしゅうございますね」

 「以前にもこんなことがございました」

 

 それだけを残して扉は静かに閉じた。


 「――以前?そんなこと……」



 「エル君、お家の中ばっかりでつまんないよ!」

 

 

 ミーナの声?

 「――っ」


 「ほらっエル君行くよ」

 手を引っ張られてる……。

 

 

 ――思い出した。


 

 初めてミーナに外へ連れ出されたときだ。


 


    ♦︎♢♦︎♢♦︎♢  


 

 あれは確か、ミーナと会ってすぐのころだ。


 晩餐会で仲良くなったミーナは、よく館へ遊びに来ていた。

 母さんが好きな、小さな東屋を二人で駆けまわった。


 たまに花壇の花を踏んで、母さんにひどく叱られた。


 「館の中を探索だー」っと、先を歩いていたミーナ。

 だが、なぜか毎回厨房を経由し料理人の目を盗んでつまみ食い。

 これも後でばれて一緒に叱られた。


 ミーナといるといつも叱られてばかりだった。


 

 二人で、俺の部屋にいたとき。

 

 「エル君、お家の中ばっかりでつまんないよ!」


 さっきまで探索していたミーナが、そんなことを言ってきた。

 

 その当時の俺はまだ、街に一人で行ったことがなかった。

 それに嫌気がさしていたのかはわからないが、〝つまらない〟そう言い始めた。


 父さんに街へ出ることは禁止されていた。

 だけど、不自由だと思ったことはなかった。

 

 

 ――だから、ミーナが言っていることもわからなかった。

 

 

 そのあとも「街に行くよ!」と騒ぐミーナを止めるのは大変だった。

 あの時はキースが持ってきたお菓子を食べたら、おとなしくなって、満足したのか、そのまま帰った。



 だが、次の日の明け方。

 窓をたたく音で目が覚めた。


 

 驚いて窓を見たらミーナの姿がそこにあった。


 ミーナは二階にある俺の部屋の窓へ、梯子をかけて登っていた。

 下で梯子を支えていたのが二人。


 それが、ガッチョとアルテミアだった。


 慌てて窓を開けると、ミーナに腕を掴まれた。

 

 「エル君確保~!行くよ」


 

 「どこへ行くんだよ?」

 こんな朝早くから、どこへ行くのか。

 ……俺は不安だった。


 

 「街だよ!いいもの見せてあげる!行こっ♪」


 笑顔のミーナに手を引かれて、隠れながら館を抜けだした。


 

 初めて親のいない街を歩くのはドキドキした。

 不思議と……楽しかった。


 でも、それはミーナが手を引いてくれたから――。



 しばらく、東に向かって三人で歩いた。

 まだ、街に人の気配はなく、歩く音だけが響いて聞こえた。

 

 街に伸びた影がぐにゃりと曲がる。それが不思議だった。


 

 初めて見るものばかりで、驚くことばかり。

 

 

 港へ着くと三人は木箱に座って、俺を呼んだ。

 初めて登る木箱にワクワクしながら登ると、三人が手を伸ばしてくれた。

 

 乗った木箱の上で感じた、朝の海風。


 

 それが気持ちよかった。

 

 

 木箱の上から見えた明け方の海。

 まだ薄暗く波の音だけが響いていて、境目の見えない海が少し怖かった。


 

 「じゅーう、きゅーう、はーち」


 

 ミーナが急に数え始めた。

 ミーナを見ると海の先に指が向いていて、その先を追った。


 

 「さーん、にーい、いーち」



 パッと視界が光に包まれた。

 

 ゆっくりと昇っていく太陽。朝焼けの優しい光。


 さっきまで怖かった海の境目に、赤白い光の筋が伸びていく。


 初めて見た水平線を昇る朝日は、とても――。

 

 

 「――綺麗だ」


 

 「街にはこんなにもワクワクするものがいっぱいあるんだよ♪」

 「エル君、お家の中ばっかりじゃつまんないよ。一緒に遊ぼっ」


 

 

 俺はミーナの手を掴んだ。


 

 

   ♦︎♢♦︎♢♦︎♢  


 

 あの後も大変だったな。

 

 

 館を抜けだした俺達を、探しに来た衛兵が取り囲んで、連れ戻されたっけ。


 途中まで迎えに来ていたキースに事情を説明して、みんなで父さんに謝った。

 後で聞いた話だと、ガッチョとアルテミアは、俺が誰か知らずにミーナの話に乗っていたらしい。

 

 

 それにしても――あんなに父さんに叱られたのは初めてだったな。



 課題は終わらすこと、街の人に領主の息子であることは伏せて接すること。

 父さんから出された〝約束〟だ。


 三人も同じように、領主の息子であることをしゃべらないように言われていた。


 ――父さん。ごめんなさい。約束破ってしまった……。


 

 ……ミーナ。あの時は隣にいたのにっ。

 

 今は――。

 

 

 ――あの時みたいに手を引いてくれよ……。

 


 

 俺はどうしたら……。


 

閲覧ありがとうございます。


今回は、エルとミーナの少し昔のお話でした。


あの頃の二人と、今の二人。

その違いを、少しでも感じていただけたなら嬉しいです。


次回更新は明日19時30分です。


明日も引き続きよろしくお願いします。

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