閑話【ミーナと屋台】其の二
♡♥♡♥♡♥
「んぅ--…………よく寝た」
昨日しんどかったのは疲れてたみたいだね。
起きたら体が軽い、少しだけ体を伸ばした。
窓を開けると、広場の方から祭りの音が聞こえてくる。
――笑い声もいっぱい聞こえる、今日もいい日になりそうだね。
「んっ?笑い声…………」
時計に視線を向けた。
時刻は九時五分。
「あぁ!寝坊したーーーー!」
急いで着替え、家を飛び出した。
今日はお父さんたちと一緒にお祈りに行く日だよ。
――約束してたのに、どうして、起こしてくれないかな……。
広場へ出ると、人でいっぱいだ。
屋台から流れてくるお肉の匂い。
みんなで楽しみ、笑いあう声!
「んー!祭りの雰囲気が最高だね」
「……なんて言ってる場合じゃなかった。お父さんたちどこかな?」
あたりを見回し、教会に並ぶ列へと目を向けた。
おかしいね。首が動く限り、見たけどまだ後ろに続いてる……。
――長すぎるよっ!ここから探すの~。
あきらめて教会の入口で座って待つことにした。
「来ないなー。まだかなー。お腹空いたなー」
「ミーナ何やってんだ?」
――ん?この声は。
顔を上げるとガッチョ君が列に並んでいた。
「お父さんたち待ってるんだー」
「ガッチョ君もお祈りにきたの?」
「おう!メイディス様に祈って技能を上げるのさ」
「さすがだねっ、立派な大工になったら私のお家もよろしくね♪」
「任せとけ」
親指を立てて、片眼を閉じたガッチョ君。
フフフッ。
親方に「早く来い!」って頭を叩かれて連れていかれちゃった。
――メイディス様にお祈りか。
私は誰にお祈りを捧げたらいいのかな?
料理だから技能だよね、メイディス様?
私が作るわけじゃないしな~。
――もう!なんで食事の女神様がいないの!
眉間に力が入った。
「ミーナ」
ハッとして振り向くとお母さんが立っていた。
「――ママ、探したんだよー」
「うそおっしゃい、座って待っていたでしょ」
――ありゃ?ばれてるかんじだー。
「早くいらっしゃい。遅いから心配しましたよ」
「ごめんなさい、少し寝坊してしまって」
「……珍しいわね」
そういって、お母さんは額に手を当てた。
「熱は――なさそうね」
「お父さんのお手伝いをするのも構いませんが、少しはゆっくりなさい」
「はーい」
――また、体が少し重い気がするなー。
いっぱい寝たのに疲れが取れなかったのかな?
立ち上がると大きく息を吸って体を伸ばした。
「よしっ」
「ママ、お父さんどこ?お腹すいちゃった」
「お祈りを済ませてからね――」
♡♥♡♥♡♥
お祈りも無事に終わって、朝食の後お父さんたちと別れた。
――私は今日もご挨拶~っと。
今日は東区を中心に回って、明日は西区。
予定がいっぱいだよ。
鞄から紙を取り出した。
えーっと、お父さんから言われてるのは……。
――あれ、眼がかすむ。
霞んだ眼をこすると元に戻った。
「なんだったのかな?」
――まだ、疲れが抜けてないのかな?
「……よしっ」
急いで回って、あとは楽しもう。そうすれば疲れなんて飛んで行っちゃうよね。
今日のお土産は……あそこにしよ!
「このフォカッチャグラタンを二十個ください」
♡♥♡♥♡♥
おかしいなー、二十個買っただけでも驚かれちゃった。
そんなにみんな買わないのかな?
屋台で買った炭酸水に口を付けた。
「うわ~これもおいしいね」
「ちょっと季節には早いけど、桃とニワトコの花のシロップって相性いいんだ!」
――フフフッ誰かにオススメしちゃお。
今日の回るところも終わったし、ティアの所が最後かなー。
「ティア―来たよ~、まだ〝アレ〟ある?」
「ミーちゃん、いらっしゃい」
「大丈夫、ちゃんと置いてるよっ。次の方ー、前に詰めてくださーい」
――おっ!ティア、去年よりも捌くのが早くなったね。
「忙しそうだね、よかったよかった!」
「あれミーナも来てたのか?」
――およ?この声は。
「朝ぶりだねガッチョ君。叩かれたところは大丈夫?」
「あぁ、あの親父本気で叩くからまいるぜ……」
頭をさすっているところを見ると相当痛かったみたいだね。
そういえば、エル君のわき腹にも頭が当たったっけ?
大丈夫かな?痛そうにしてたけど――。
「ティア、揚げパン一つ頼むわー」
「ガッチョ兄ちゃん、いらっしゃい」
「すぐに準備するねっ」
「なぁ、ミーナ。それ何飲んでるんだ?すげーいい匂いなんだけど」
――フフフッ釣れたね。
片方の頬が自然と上がった。
「これはねーオススメの一つだよ♪」
♡♥♡♥♡♥
――今日もいっぱい回れたー。
二人と別れて帰路についた。
もう日が暮れてきてる、早く帰らないとね……。
……おかしいな。
気分は晴れたけどやっぱり体は重いや。
朝よりもちょっとしんどいかも……。
首をぶんぶんと横に振った。
「これぐらいで疲れてちゃ、全部回るなんてできないよ!頑張れわたし!」
今日も手には荷物がいっぱいだ。
「お土産っ、お土産っ~」
「ただいまー」
「見て―今日もお土産がいっぱいだよ~」
お家に入ると、二人がお茶を飲んで話していた。
二人の前で今日のお土産を広げて見せた。
「これ珍しいんだ♪」
「こっちは魚介で、こっちがお肉なんだって」
買ってきたお土産を説明すると、二人とも嬉しそうな表情で聞いてくれた。
「今日の晩御飯にみんなで食べようね♪」
「着替えてくるね」
二人のいる居間を抜けて自室へと向かった。
……やっぱりおかしいや。
階段を登るのもしんどい。
息もしずらいし、どうしちゃったんだろう。
扉を開けて部屋へ入ると、そこで立てなくなった。
「疲れてるだけだよ。……大丈夫」
目の前がぐにゃりと歪んでる。
おかしいな……何も聞こえないや……。
「いっぱい寝て、みんなと……エル君とまた遊ぶから……」
そこから先は何も覚えていない。
ご覧いただきありがとうございます。
楽しいはずの一日も、ほんの少しの違和感で形を変えていきます。
気づかないまま進んでしまうものほど、怖いものはないのかもしれません。
次回は本編へ戻ります。
ここから先の流れも、ぜひ見届けていただければ幸いです。
次回更新は明日19時30分です。
引き続きよろしくお願いします。




