閑話【ミーナと屋台】其の一
――フフフフッ。
思い出しただけでも笑っちゃうな。
昨日のエル君の、驚いた顔。
街を歩きながら、私は昨日の鬼かくれんぼを思い出していた。
まさかエル君が、あんな賭けを言ってくるなんて思ってもみなかった。
「〝あのケーキ屋〟で好きなの奢ってやるよ」
そんなこと言われたら本気でやるしかないでしょ。
つい張り切って走ったら、みんなすぐに捕まえちゃって、残りはエル君一人。
――じっくり捕まえるの楽しかったな。
自然と頬が上がった。
でも、あんな見え透いた罠張ってちゃ、まだまだだね。
壁に飛んでいた泥は、先が尖った形だった。
つまり、踏み込んだ時に飛んだってことでしょ。
そこから、先に足跡はないし、ぬぐった後も左を向いていたし、すぐに気づいちゃうよね。
「フフフッ」
――いけない、いけない。
声に出して笑っちゃうのは、さすがに不気味だよね。
切り替えなきゃ。
今日はご挨拶、今日はご挨拶……。
「よしっ」
北区へ向けて足を動かした。
北区に広がる酪農市は酪農家さんたちが加工したチーズやヨーグルトが人気なんだよね。
今年は何か変わったものないかな~。
並ぶ屋台に視線を向けて、変わったお店を探した。
――あのお店、あやしい!
屋台には真っ白なチーズが陳列されている。
――お姉さんが一人で販売か~珍しいね。
近づいていくと、チーズケーキが何種類か並んでいた。
その中でも真っ白なチーズケーキに目が行く。
「お姉さん、これってチーズケーキですよね?」
「あら、いらっしゃい。そうですよ、こちら新作なんです」
――やっぱりね。見たことないと思ったんだ。
新しいお店に新作のケーキ。
これは幸先が良いよ。
「見た感じ――焼いてますよね?でも白い?どうしてなんですか」
鞄から紙とペンを取り出した。
「あらあら、勉強熱心ね。これはね低温でじっくり熱を通したチーズケーキなのよ」
「なるほど!だから、焼き色がついてないんですね」
「でも、断面まで真っ白になんて、なりますか?」
――焼き色は何となく想像してた通りだけど、中まで真っ白なのはなぜ?
不思議そうな顔を浮かべて、お姉さんに問いかけた。
「よく気が付いたわね。これは、白い卵を使ってるのよ」
「白い卵?」
――卵は赤い殻じゃないの?
「卵を産む鶏は二種類いてね、この街――ポルトで飼われているのは赤い羽根の鶏」
「王都よりも西にある古都には白い羽根を持った鶏がいるの」
お姉さんが丁寧に教えてくれた。
「二種類の鶏が産む卵は、本来ほとんど一緒なんだけど――最近、新たに出てきたのが〝黄身まで真っ白な卵〟なのよ」
鶏については知っていた。
王都も古都にも、お父さんに連れて行ってもらったからね。
でも――そんな卵があったんだ!初めて聞いたよ。
「あんまり出回ってなくて、まだまだ珍しいから秘密ね」
お姉さんが人差し指を立てて片目を閉じた。
「わかりました、内緒ですね」
私も真似て片目を閉じて返す。
――これはお父さんからご褒美が出るんじゃない、フフフッ。
「お姉さん、いろいろ教えてくれてありがとうございます」
「このチーズケーキ五個ください♪」
「ありがとうございます。五切れ箱にお入れしますね」
「あっ、違います。五台です♪」
「それとは別に、今食べるので一切れ別に分けてくーださい」
――やっぱり、今食べたいもんね。
「えっ?」
「んん~?」
――変なこと言ったかな?
看板に目を向けると、価格表が置かれていた。
【新作真っ白なチーズケーキ!一切れ銅貨五枚、一台銀貨二枚】
――あっ、中々のお値段だ……。
まぁいいや♪おいしいが正義だもんね。
♡♥♡♥♡♥
「順調、順調」
お父さんのお手伝いで屋台を回って、ご挨拶するのも今日だけでだいぶ回れた。
あと二日ぐらいで回れるかな?でも、途中でいっぱい買えるし役得だよね。
チーズケーキを買って、いろんなお店を回って配ってきた。
みんな喜んでくれてよかったよ。
ティアも喜んでくれたし。明日は東区周辺のお店にご挨拶だね。
フフフッ、ティアのお店も順調だし明日はもっと並びそうだよね。
よかった、よかった。
歩きながら首を縦に振った。
――それにしても最初に見つけた、チーズケーキはおいしかったなー。
クリームチーズにマスカルポーネを合わせた、濃厚でクリーミーな舌触り。
生クリームを使うことで、コクとミルキーな味わいが重層的に広がって。
ほのかな甘みと生クリームのコク、濃厚なクリームチーズ。
それをまとめるのが底のクッキーの甘じょっぱさと隠れたアクセント。
――あれには驚いた。
かすかにピリッとする刺激があるから、何かと思ったらまさかの粗挽きのペッパー。
「やっぱり世界は広いなー。こんな不思議なものを考えられる人がいるんだもん」
……でも、あれは何だったんだろう。
一瞬だけ、舌に何かが引っかかった気がしたんだけどな……。
すぐ、濃厚な美味しさに負けて、食べちゃったんだけどね。
それにしても。
「ちょっと買いすぎたかも……」
――少し体がしんどいや。疲れたのかな?
「――でも、手がいっぱいで…………」
「幸せだ♪」
『そんなに食べたら、本当に丸くなるからな!』
――いや、一人で食べないからね!
エル君が昨日言っていたことを思い出して、反応してしまった。
エル君は、今頃なにやってるかなー。
いつも通り難しいこと教わってるんだろうなー。
早く外に出てきてほしいな、もっとお話ししたいよ。
♡♥♡♥♡♥
第四話の前に、少しだけ寄り道です。
今回はミーナ視点の日常回ということで、屋台を巡るお話を書いてみました。
楽しそうにしている姿を書いていると、こちらも自然と楽しくなりますね。
こういう何気ない時間も、物語の中では大事な一コマだと思っています。
……さて、この「何気ない一日」がどう繋がっていくのか。
続きもお付き合いいただけると嬉しいです。
次回も閑話が続きます、更新は明日19時30分です。
引き続きお付き合いお願いします。




