表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/41

第Ⅲ話 後編【桜桃と雨模様】其の三



   ♦︎♢♦︎♢♦︎♢  


 みんなと別れた俺は南区へと足を向けた。

 

 人の流れに逆らい無理やり抜けていく。

 途中で人にぶつかり舌打ちをされることもあったが、気にしている余裕はなかった。

 

 

 早く。早くあの店に行きたかった。

 

 

 ミーナの好きなあの店ならきっと何か。


 そう思い――ただ急いだ。

 

 【クンパッパ】ミーナの好きなケーキ屋の前には長い列が出来ている。

 

 それを並ぶ余裕はない。

 気持ちが焦り、並ぶ人を抜いて店へと入った。

 

 

 「お客様、順番にご案内しております。お並びいただけますか?」


 「店主を、店主を出してください!お願いします」

 

 

 顔を上げると顔なじみの販売員と目が合った。

 

 「困ります!」

 「――あら?お客様は」

 この店に俺は一人で来たことがない。


 覚えていたのか、それだけ言い残して販売員は裏へと下がった。

 

 店内にいた客は怪訝な顔で俺を見ている。

 

 ――何も知らないくせに。

 嫌な感情があふれてくるのが分かった。

 

 

 「お客様。店主が裏口に回れっと……」

 

 「すぐに行きます」

 

 ――よかった。会ってくれる。ここのケーキならミーナもきっと。

  はやる気持ちを抑え、店を飛び出し裏口へと回った。

 

 裏口にはまだ誰も出てきていない。


 裏の通りにも人の姿はなく、静かだ。

 店主の顔を俺は知らない。ただ誰かが出てくるのを待つしかなかった。

 


   ガチャ。

 


 少し待っていると店主らしき男の人が出てきた。

 「店主の方ですか?」

 

 「僕様は忙しいのだ。何の用で呼び出したのだ!失礼な奴め」

 

 怒る店主に見覚えがあった。

 

 ――マンゴージャムを買っていた、あのおじさんだ。

 

 「お忙しいところすみません!ケーキを……ケーキを作ってください」

 

 「お前はここをどこだと思っているのだ?ケーキなら店に並んでいるのだ」

 「そっちを買えばいいのだ!帰るのだ」

 

 おじさんは虫でも払うように手を振った。

   

 「ダメなんです!ミーナが……友達が病気で。食べても倒れない菓子を作ってください」

 

 店主の動きが止まった。

 

 「……なんだって?」

 

 「特定の食材かもしれない。何が原因かはわからない」

 

 「だから――可能な限り、余計なものを使わないで作ってください」

 

 

 商会長に聞いてきた限りの危険そうなものを矢継ぎ早に並べ、言葉が早くなる。

 

 「卵も小麦も牛乳……いや、全部危険かもしれない」

 「果物もだめかもしれない、砂糖も――」

 思い出しながら指折り食材を言った。

 

 

 「おい、小僧」

 

 低い声が、言葉を遮った。

 

 

 顔を上げると店主は、じっと俺を見ていた。

 「それで、〝何を作れ〟と言うのだ?」

 

 「……それは」

 言葉が詰まった。

 

 ――何を?なんでもいい、何かミーナが食べられるものを。



 ……何が食べられるんだ。


 

 頭の中が真っ白になった。

 

 


 「何がダメかわからないのに、何を抜けばいいかもわからない」

 「そんな状態で、菓子なんて作れるわけないのだ」

 

 「……っ」

 違う、でも――それしか思いつかなかった。

 

 「お金なら――お金なら出します」

 気付けば、口から出ていた。

 

 

 「いくらでもいい。材料も、人も、時間も」

 「用意できるものは全部……全部用意します!」

 

 ポケットから袋を取り出し、金貨を取り出した。

 

 「だから――」

 

 

 「やめとくのだ」

 静かな声だった。

 

 

 「……え?」

 

 店主はため息をつき、腕を組んだ。

 「金でどうにかなる話じゃないのだ、それは」

 

 「お菓子っていうのは、〝食べられるもの〟を美味くするもんなのだ」

 「食べられないものを、無理やり食べさせて何になるのだ」

 

 何も言えなかった。

 言葉が、出てこない。

 

 「それに――金を出す?」

 店主の声が冷たく変わった。

 

 「稼いだこともない小僧が偉そうにするな!」

 「稼ぐ苦労も、その金の価値も、何もお前はわかってない!」

 

 「違う……そんなこと……!」

 口に出した言葉には、声が出なかった。

 

 「お前の顔は、恵まれている奴の余裕がある顔だ!」

 

 「なにも失ったことがない、そんな顔だ!」

 

 「何が、偉そうに金は出すだ……大人を舐めるのも大概にしろ」

 

 

 「僕様は忙しいのだ。もう帰るのだ」

 


 手を伸ばしたが相手にされず、扉が硬く閉じた。


 

 ――何も、掴めなかった。俺は恵まれているのか……。



    ♦︎♢♦︎♢♦︎♢  



 ……ここはどこだ?

 

 見回すとそこは、鬼かくれんぼをした裏路地だった。

 さっきまでケーキ屋にいたはずなのに、いつの間にかここへと来ていた。

 どうやって、来たのか思い出せない。

 

 

 ミーナに押し倒された時、削り取った木箱が、その不安定な姿のまま残っている。

 

 

 ――あの時から止まってるみたいだ。

 木箱に触れるとあっけなく崩れ、ほこりが舞った。


 

 「エル君みっ――――けっ!」

 そんな声が後ろから聞こえた気がして振り向いた。


 

 でも誰もいない。

 

 

 「なんでミーナは、あの時後ろから出てきたんだ……」

 ミーナが現れたところまで行くと、木箱と樽の隙間に子供が一人、通れる隙間があった。

 

 「――あいつ、こんなところ通ってたのかよ」

 顔抑えて上を見上げた。


 

 「エル!」


 

 後ろからガッチョの声が、聞こえた気がした。

 今度も気のせいだ、そう思って気にしなかった。


 「おいエル!」

 

 ――うるさい。


 「エル!」

 手をどかすと、ガッチョとアルテミアが並んでいた。


 「ガッチョ……アルテミア……?」


 「エル……あなたなんて顔してるのよ」


 ――俺の顔?今、どんな顔をしてるんだ。

 


 ――わからナイ。


 

 「――何の用だよ、お前らも冷やかしにきたのか?」

 「エル?あなた何言ってるの……」


 「なんだよ、それなら無知なお前らでもわかるように言ってやる」

 

 

 「俺は無能だ――いや、違うだろ……」

 「俺は……何もできてないだけだろ?」


 

 「なんでだよ。……なんで助けられないんだよ」


 「エルあなたどうした――」


 ガッチョが俺の胸倉を掴んでいる。アルテミアが何か言っているが声が届かない。


 「お前まで何言ってんだよ!ミーナはどうなったんだ!」


 ――ミーナ?


 

 ……タスカラナイ……?

 

 心の奥で何かが壊れる音がした。


 「助けられないんだよ!食べることが出来ない。食べられるものがない!」

 「だから、一人で探してたんだろ!お前らにはお前らの仕事がある、手伝わせちゃいけないって……」

 「それで……。でも、もう……遅いんだ。ミーナはもう……」


 

 「――ふざけんなっ!」


 後ろに投げられ、背から木箱にぶつかった。

 

 「この馬鹿野郎!」

 「エルお前ひとりで何が出来るんだよ!俺たちがいるだろ!みんなでやれば、なんとかなるかもって――そう思ってたのにっ」

 

 「お前の事信じてたのに。お前の顔見てミーナがやばいってのはわかってたんだ!」

 「お前なら俺たちに頼ってくれる。みんなでなんとかしようって言ってくれる!そう思ってたのに――」


 「……もういい。お前の顔なんて見たくもない」

 「アルテミア……行こうぜ」

 

 「えぇ……」


 

 「ねぇ、エル。あんた今かっこ悪いよ」

 「ミーナが見たらなんていうかな」


 

 二人は俺を置いて去っていった。


 木箱に投げられ、うつぶせになって俺にぽつりと雨があたった気がした。

 空を見上げると、さっきまで見えていた太陽はもう暮れそうで、変わりに暗い雲が近くに来ていた。


 ぽつぽつと顔に雨があたる。


 

 「とっても美味しいよ♡エルくんありがとう♡」


 また、ミーナの声が、聞こえた。

 顔を上げてもミーナはいない。



 雨が強くなり、もうミーナの声は聞こえなかった。


 

 ――ミーナ、俺もお前に会いたいよ……。

 


ここまで読んでいただきありがとうございます。


第三話後編其の三でした。


エルにとって、ひとつの大きな壁にぶつかる回になりました。


うまくいかないこと、どうにもならないこと。

それでも前に進まなければいけない時がある――。


この先、エルがどう向き合っていくのか、

見守っていただけたら嬉しいです。


もしよろしければ、ブックマークや感想などいただけると励みになります。


次回の更新は明日19時30分です。


次回も引き続きよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ