第Ⅲ話 後編【桜桃と雨模様】其の二
広場へと戻ってきた俺は、談笑していたみんなの元へと向かった。
「悪い、ちょっと忘れ物して家に帰ってた」
「何を話してたんだ?」
「エル兄、おかえ――」「エル兄ちゃん、ミーちゃんはどうだったのっ!」
返事を仕掛けていた、ガージをさえぎりティアが入り込んできた。
「あー……会えなかったんだ――。体調を崩しているみたいで、さ」
――これしか言えなかった。
聞いた話をまとめても、わからない事の方が多い。
伝えてみんなに迷惑かけるのも悪い気がする。
だから、俺が動いて探せばいい、そう考えた。
「そうなんだ……早く良くなってほしいな。ボク、ミーちゃんとお話ししたいよ」
「そうだな、早くよくなるといいんだけどな」
急に良くなる。商会長――ミーナの父親から聞いている限りでは難しいと思う。
――そんな魔法みたいなことが、本当にあればいいな。
少しだけ嘘をついたみたいで、心が痛かった。
「なーエル。お前……」
ふいに、ガッチョに呼ばれ振り向いた。
だが、言葉はそこで切れ続かなかった。
「いや、やっぱいいわ」
頭をガシガシと搔きながら、ガッチョは後ろにいたアルテミアへと声をかけた。
「エル兄!今日はどうする?せっかくのお祭りだし、いつもみたいにみんなで回る?」
――いつもみたいに……ミーナがいないのに?
みんなは何も知らない。
誰も悪くない。……はずなのに。
ガージの何気ない言葉に、心がざわついた。
「いや、今日は――」
急いだほうがいい。そんな気がずっとして、早くこの場を離れたかった。
抜ける言葉を選んでいた俺をパームスが遮る。
「それなら~みんなで、これ食べない~?」
のんびりとしたいつものパームス。その言葉が、少し嫌だった。
「パー君それなに?」
「これはね~桜桃――さくらんぼだよ~」
「えっ!さくらんぼ?」
「さくらんぼが採れるのは、まだだいぶ早いよ?うちの果樹園でもまだ花が咲いたばかりなのに」
「ガージがそういってるのに、パーの奴どこでそんなもん見つけてきたんだ?」
ガッチョが不思議そうに、パームスに手に広げられたさくらんぼをのぞき込んだ。
「これのどこが、さくらんぼなんだ?食いもん見たいだけど――」
中から取り出したのは、二つ折りにしたパイみたいなもの。
さくらんぼの姿はどこにもなかった。
「これはね~ソウさんが作ってくれたんだ~」
「――誰だよ!」
パームスの腹にガッチョの裏平手があたり、いい音が鳴った。
「うう~痛いよ~」
「嘘つけ。そんなに強くしてねーよ。っで、誰なんだよ?」
「ソウさんは~夢人さんだよ~」
「夢人ですって!あなた、パームスどこで……」
「はいはい、アルテミアはちょっと静かにしててくれよな」
アルテミアの口をふさいで、ガッチョが後ろへと下がった。
「パームス、その夢人がどうしてそれ作ったんだ?」
下がったガッチョに変わり尋ねた。俺には夢人とパイがつながらなかった。
みんなも同じなのか不思議そうな顔をしている。
「ソウさんが~しばらく泊まらせてもらった、お礼だって作ってくれたんだ~」
――意味が分からない。
早く出たい俺は続きを促した。
「それで、さくらんぼはどうしたんだ?」
「さくらんぼはこれだよ~」
そういうとパイを二つに割った。
中からはトロリとした果肉がこぼれ、甘酸っぱい香りが広がる。
黙っていたティアがいの一番に声をあげた。
「おいしそ~!ねぇ、パームス兄ちゃん食べてもいい?」
半分に割ったパイを受け取ると、ティアはかぶりついた。
「おいしい~!ボクこんなおいしいパイ初めて食べたよ!」
ごくり。誰かの喉が鳴った。
「パー俺にも」「パー君俺にもちょうだい」
「いっぱいあるから~みんなも食べていいよ~」
袋へと手を入れ、パイを受け取ったみんなが口々に「うまっ」「おいしい!」と声を上げた。
俺も受け取り、口へと運んだ。
袋から取り出したパイからは、湯気も上がらずに冷めている。
サクッ――一口噛むと、香ばしく焼き上げられたパイ生地の食感。
中はしっとりとしているのに外側はまだサクサクしている。
芳醇なバターの香りを食べ進めると、中からトロリと流れ出てきた果肉に当たる。
――っ。目の覚めるような酸味が果肉からあふれ、トロリとした部分は甘くパイ生地によくなじむ。
これは甘く炊かれたサクランボのジャムだ。
果肉に砂糖をまぶすと水分が出てくる。それを長時間炊いたものがジャムだとミーナが言っていた。
噛みついたパイをよく見ると、幾重にも層が重なり、黒い粒が所々に見えた。
――ミーナにも食べさせたかったな。
おいしい甘味をミーナとよく食べた。隣にいるはずのミーナの方へと視線が流れた。
「それで、パームスなんでさくらんぼと夢人の話になるんだよ?」
食べ終えたガッチョがパームスに声をかけた。口の周りにパイ生地がついているのを気づいていないようだ。
「弟が~街に牛乳を運んできてたんだけど~――」
「……パームス、結論から話してくれないか?」
俺はパームスの話を遮った。
「――うん。山羊さんがね~山の方に一匹入って行っちゃって~探してた時にみつけたんだ~」
――山羊が見つけた?ますます意味が分からない。
「ねぇ、パームス君。山の方ってリヴォーラ山?どのあたりかしら」
本を閉じたペイトが、前のめりに話へと入ってきた。
「お父さんから、そんな場所聞いたことないわ」
「詳しく聞かせてくれるかしら?」
ペイトと会話を変わり、俺は黙ってその場で聞いていた。
早く出たかったが、そんな変わったさくらんぼならミーナが食べられるかもしれない。
そう思ったからだ。
パームスの、のんびりとした話し方が、今日はやけに気になる。
いつもは、それほど気にならないのに。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
パームスの話を最後まで聞いた。
リヴォーラ山までの間には広い森がある。
その森に一部開けた場所があり、そこは他とは違い暖かい場所で、草木が青々と茂り成長が早いようだ。
「パームス君その場所、お父さんに話してもいいかしら?」
「いいよ~場所が分かりにくいから僕が案内するよ~」
「ありがとう。お父さんに伝えたら、直ぐ調査に行きたがるんじゃないかしら」
「みんな、ごめんなさい。今日は一緒に回れそうにないけどいいかしら?」
ペイトがみんなの顔を見回した。
「ペイト親父さんに早く話したいんだろ?行ってきて大丈夫だぞ。何かあったら連絡しに行ってやるから」
ガージがいち早く声をかけた。
「ガーちゃん。――ありがとう」
「ガーちゃんって言うなって」後ろを向いたガージの頬が少し赤い。
「ごめんねみんな」
そういうとパームスを連れ、父の元へと向かった。
二人を見送った後、アルテミアが口を開いた。
「それにしてもさー」
「男の子だねーガージ」
急に名前を呼ばれたガージが慌てて返事を返す。
「なっなにがだよ、アルテミア姉?」
「大好きなペイトが困った時には優しいじゃない。普段からそうしてればいいのに」
「あyけこkいあsてGdf――――」
ガージはこの世の言葉とは思えない声を上げ口をあわわとしている。
「そんなわけないだろ!いっいつも通りだよ!」
動揺を隠せず、真っ赤になったガージは慌ててごまかしたが、わざとらしすぎる。
――そんな顔してたらバレバレだぞ。
驚いた顔をしているガッチョとティア。
だが、そんな空気の中でも、俺の中だけは別だった。
「ガージ!マジかよ!」
嬉しそうな笑顔とは違い、いつもいじる時の顔で問いかけるガッチョ。
「それならお兄さんが手伝ってやろうか~?」
顔を赤らめたガージは黙り込んでしまった。
「ガッチョ、そのぐらいにしといてやれよ」
ガージがかわいそうになり助け船をだした。
「悪いついよ。悪かったな、ガージ。」
「本当にあんたは、いっつもそれよね。もうちょっと相手の気持ちを考えてあげなさいよ」
「うるせーな、悪かったって言ってるだろ。アルテミアこそお前がよけいな事言うからだろ!」
「なんですって!」
「なんだよ!」
二人の間に微妙な空気が流れた。
――二人抜けたし俺も抜けるか。
パームスの話を聞いていて時間もだいぶ経っている。
「――ごめん。さっき家に帰った時、急な手伝いを言われてしまったんだ。もう、戻らないといけない」
「えぇ!一緒に回れないの?楽しみにしてたのに」
赤らめていた顔を上げ、ガージが声を出した。
「この埋め合わせはするからさ」
それだけを言い残し、その場を離れた。
――ごめん。でも急がないといけないから。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
賑やかな空気の中で、
エルだけが少し違う場所に立っている――
そんな回になっています。
この先に繋がる小さな要素もいくつか散りばめていますので、
読み返してみると違った見え方もするかもしれません。
「気になる」「続きが読みたい」と思っていただけたら、
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次回の更新は明日19時30分です。
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