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Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


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第Ⅲ話 前編【桜桃と雨模様】其の二


  

  ♦︎♢♦︎♢♦︎♢ 

 

 

 後ろを振り向くと、パームスとペイトが立っていた。


 「お待たせ~」「おまたせ」

 

 珍しい二人組に思ったのか、ニヤニヤした顔のガッチョが声をかけた。

 「珍しい組み合わせだな?いつもならパームスが遅れてくるのに」


 ペイトは大体一番に来て本を読んでいることが多いから珍しいなと俺も思った。

 パームスはよく遅刻――寝坊することがほとんどだ。遅れていない分こっちも珍しさはある。


 「雨だったから本を家で読んでいたの、それもあって遅くなったわ」

 「もう少し読みたかったんだけどお父さんが体を動かすのも大事だからって外に出されてしまって」

 そういうとペイトは持っていた本を広げて読み始めた。


 『辞書みたいに分厚い本をよく持ってくるな。タイトルを見ても全然わからない』

 

 

 「ちょっとペイト!あの方にお会いしたの?」

 何食わぬ顔で本を捲っていたペイトは、顔を上げずに「えぇ」とだけ短く答えた。


 「道に迷っていたみたいだったから、少し案内をしていたわ」

 「夢人さんには、お会いしたことなかったから、素敵な時間だったわ」


 

 「ペイト!素敵って――あなたまさか」

 

 

 ――アルテミアの顔が怖い。

 そのままペイトに詰め寄った。

 

 「え……っと、何がかしら?」

 

 ガッチョがアルテミアを抑え引きずっていく。そのあとガージが説明を始めた。

 


 「それは、残念だったわね。でも、幸せの運び人に出会えたんだから、きっと良いことがおこるんじゃないかしら」


 

 ――幸せの運び人?聞いたことない言葉だ。

 

 

 「なーペイト、幸せの運び人ってなんだよ?」

 不思議に思ったのかガージが聞いてくれた。

 

 「あら、ガーちゃん。知らないの?」

 「お父さんに聞いた話では、至るところで夢人さんの技術がを使われているらしいの」

 「例えば、屋台の小型の調理炉」

 

 そう言うと近くにある屋台へ指を向けた。

 ペイトにつられ、俺たちも屋台へと顔を向ける。

 

 「こういうものも、夢人さんの知恵らしいわよ」

 「へぇーだから、幸せの運び人ってことか」

 

 初めて聞いた話に、そうだったのかと驚いた。

 

 ――夢人。幸せの運び人。

 そんな存在が本当にいるのなら。


 ……今は、それよりも。


 ぶら下がった時計をへと視線を落とした。

 

 

 

 「Zzz……僕はね~昨日は早く寝たから~元気だよ~」


 急に話し出したパームスへと、みんなの目が向く。

 話を聞いていたのかわからない、パームスの瞼は閉じたままだ。

 

 「まだみんな来てないみたいだし~僕はあそこでひと眠り――」


 「するな!」ガッチョの鋭い突っ込みが入った。

 「パー、あんな濡れてるところで寝るの平気なのかよ?」


 明け方まで降っていた雨も上がったばかりだ。まだ地面も乾いていない。


 「大丈夫だよ~外で寝るのは得意なんだ~Zzz」


 『寝たのか』「寝たわね」「寝たの?」「寝たなっ」


 立ったまま眠りに落ちたパームスにみんなで笑った。


 「おまたせっ!」

 

 振り向くとティアが一人で走ってきていた。


 

 「お休みをもらう分、お手伝いいっぱいしてたら遅くなっちゃったっ」

 

 急いできたのか息を切らしている。


 「ボクで最後だね――あれっ?ミーちゃんはまだ来てないの?」


 

 ゴ――ン ゴ――ン ゴ――ン……。


 

 教会の鐘が鳴った。

 九時を知らせる鐘の音だ。


 祭りが始まる合図のはずが、今日はやけに重く感じた。


 

 「ねえエル……この時間にミーナが来ないなんてやっぱりおかしいんじゃない?」

 アルテミアも俺と同じみたいだ。

 「あぁ、絶対におかしい。――何かあったのかもしれない」

 「俺はミーナの家に行ってこようと思う。ガッチョ、アルテミア一緒にきてくれるか?」

 


 「――おう」「……ええ」

 俺とガッチョはアルテミアに次いで付き合いが長い。

 二人も曇った顔をしている。


 

 「ボクも行くよ!行ってもいいでしょエル兄ちゃん!」

 「俺も行くよ――ミーナ姉ちゃん心配だし」


 揃って行くのは、少し人数が多い気がするな。少しだけ悩んだ。


 「二人はダメよ」

 パタンと本を閉じたペイトが口を開いた。

 「こんな大勢で行っても迷惑だわ。三人に任せて待つべきよ」

 悩んでいた気持ちをペイトが代弁してくれて助かった――。



 「ペイト少し行って聞いてくるから、みんなを頼めるか?」


 ペイトは頷き「えぇ」とだけ短く口を開けた。

 「聞いてくるから少し待っててくれ」

 

 ずっと感じていた違和感らしきものが不安に変わった。

 

 「何もなければいいけど……」


 

 並ぶ二人に聞こえないぐらいの小声が、口から洩れていた。

 


  ♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 三人でミーナが住む、ヴィターリ商会の裏手へと回っていた。


 ヴィターリ商会は街の北側、教会のある広場に面して店舗がある。

 その裏の路地を入ったところにあるのがミーナの家だ。


 みんなと別れすぐの場所だが、三人の足取りは重い。

 

 「意外と――ただ忙しかっただけで、すんなり出てきたりしてな」

 ニカリと笑い、和ませようとしてくれたガッチョが口を開けた。

 

 「あんただけは変なこといわないで!あんたの感は外れるんだから!」

 アルテミアが声を上げた。

 

 「わりーそんなつもりはなかったんだけどよ」

 頭をかくガッチョはよくわかっていない。

 

 三人は長い付き合いだ。ガッチョの感が当たらないことは、アルテミアもわかっているはずだ。

 ――逆の意味で当たってしまうことが多いことも。


 アルテミアも、それはわかっているようだ。ガッチョに聞こえないように小声で話しかけてきた。

 

 「ねーエル、さすがに心配になってきたのはわたしだけかな……」

 「いや、俺も同意見。ガッチョの感は当たる。それも逆の意味で」


 

 何事もなく出てきてくれればいいが――。



 裏手の路地に入ると、ヴィターリ商会の裏口がある。

 そこで従業員らしき人が二人立って話をしていた。

 

 「奥様、今日も降りてこられないんだな」

 「そうだな。何日もお嬢様も見ないし何かあったのか?」


 耳に入ってきた言葉を拾い、ミーナと母親の二人はしばらく外出もしていないようだった。

 

 

 ミーナの家へと回ると、アルテミアが扉の金具を二回鳴らした。


 応答がなく、中から声も聞こえてこない。

 もう一度、金具を鳴らすと「はーーい」と声が返ってきた。

 

 少しすると、扉が開き「どちら様ですけ?」とお手伝いの老婆らしき人が姿を現した。

 

 「すみません、ミーナの友達でアルテミアって言います」

 「ミーナはいますか?」


 少し困った顔を浮かべた老婆は、少し考え口を開いた。


 「お嬢様のお友達ですけ?」


 

 「もうすわけありません。ご当主様より誰も会わせぬよう言付かっておりますだ」


 ゆっくりと扉を閉めようと振り向いたときガッチョが声を出した。


 「おーい!ミーナ!出て来いよー!」

 「バ、バカっ、ガッチョ止めろって!」

 

 慌ててガッチョの口をふさぎアルテミアに任せ、前に出た。

 「ぢょっと、そんなことされては困りますだ」


 「友人が失礼をいたしました。どうかご容赦ください」

 「お嬢様には会えません。どうぞおひきとりくだせ」


 老婆の閉めている扉に手をかけ、扉を止めた。

 

 「私は――私の名は、エルネスト」

 

 「エルネスト=フォン=カリスです。領主の息子が来たとヴィターリ商会の副会長である奥様に伝えてもらえますか?」


 「領主様のご子息様ですけ!……しばしお待ちくだせ」

 驚いた顔をした老婆が扉を閉め、奥へ行く音が聞こえた。



 「おいエル!どういうつもりだ!」

 ガッチョに肩を掴まれ振り向いた。


 「しかたないだろ。それ以外に思いつかなかったんだ――」

 「だからって、お前っ……」

 「そうよ!領主様との約束忘れたの!」


 

 「大丈夫だよ。一人ぐらいばれたって後で口止めしておけば大丈夫さ、多分――」


 父との約束か――忘れるわけがない。ここから離れたくはないからな。

 

 それでも今は……。


 「ここに来たのがこの三人で良かったよ」


 

 老婆が中に入り、静かになった裏通り。そこに人の姿はない。

 中から戻ってくる感じもなく、時間だけが過ぎていく。


 

 しばらく、待っていると扉が開いた。

 開けたのは老婆ではなく、ミーナの母親だった。


 

 頬がこけ、目の下には隈がひどい。

 目は赤く血走り、疲労を隠せないほど虚ろな目をしている。


 「エルネスト様、ようこそお越しくださいました。みすぼらしい身なりで失礼申し申し上げます」

 「先程は家人が失礼を働き申し訳ございませんでした」

 


 「こちらこそ急な来訪の無礼をお許しください」

 俺は頭を下げた。後ろで二人も頭を下げたのか、影が動いて見えた。


 「いけません、頭をお上げください!」

 夫人に言われて俺は、頭をあげた。

 

 「……ミーナの事でしたわね。どのようなご用件でしょうか?」

 「はい、もう一週間も顔を見ていないと聞いたものですから、心配になり代表してまいりました」

 

 

 「それはご丁寧にありがとうございます。ミーナは自室におります」

 「ですが、会わせるわけにはまいりません、どうかお引き取りください」


 「……あの子は、今……お会いできる状態ではありません」

 ――夫人はその場に崩れ顔を抑えた。

 

 誰も、すぐには言葉を返せなかった。


 「奥様!」

 扉の後ろに控えていた老婆が飛び出し、夫人へと駆け寄った。

 

 「もう帰ってくだせえ。お嬢様は何も……何も」

 「ずっと奥様は付き添って……奥様は」

 老婆はそこから口を開くことはなかった。

 

 「もう帰ってくだせえ」

 

 ……静かに扉が閉まった。

 三人でただ立ち尽くした。誰も言っていることを、理解したくなかった。


 少し前まで一緒に走っていた笑い声が、今は聞こえない。

 すぐ近くで流れているはずの喧騒も聞こえない。


 

 ――何も、耳に入ってこなかった。

 

 



 

読んでいただきありがとうございます。


書いていて一番つらかったシーンの一つです。


「会えない」という事実は、何も知らされるよりも重い。


エルたちと同じように、読んでくださった方にも

少しでもこの違和感や不安が伝わっていれば嬉しいです。


次回から、物語は大きく動き出します。


次回更新は明日19時30分です。


引き続きよろしくお願いします。

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