第Ⅱ話 後編【揚げパンと宴】其の一
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広場につくと長い列が伸びていた。その列は教会の入口へとつながっている。
『祈りの列か』
ポルトの住民は祝願祭中に祈りを捧げる風習がある。
寒い冬を超え感謝を捧げる――か、去年までは感謝を三柱に捧げていたんだけどな。
〝推し〟か、俺にはまだよくわからない感覚だ。
「おーい、エル―!」
推しについて考えていた俺は、後ろの方から呼ばれた気がして振り返った。
「エル!久しぶりだな」
「ガッチョ!」
出会い頭に腕をぶつけあう。これがいつもの挨拶だ。
「一週間も顔出さないで何やってたんだよ」
「まーあれだ、いつものやつだ――」
「――なるほどな。お坊ちゃんは大変だったようで」
ニヤニヤ笑いながらガッチョは、俺の気持ちを組んでくれたようだ。
「うるせっ、誰がお坊ちゃんだ。全然余裕だ、あんなもん」
本当は、最後の方で余裕もなくなり必死で片づけたわけだが――少しだけ維持を張った。
「ガッチョの方こそどうだったんだよ?」
なぜか祭り中の話が聞きたくなった。
「俺は――ちょっと待ってろ!」
そういうと列の中にいる家族のもとへと走っていった。
「わりー待たせた、家族に言ってきたから一緒に回ろうぜ!」
少し息を弾ませながら、ガッチョが戻ってきた。
「いいのか、祈りに来てたんじゃないのか?」
この長い列のかなり前の方に走っていったんだ、だいぶ待ってたんじゃ。
「毎日来てるんだから今日ぐらい行かなくても大丈夫だって。敬けんな信者様だ女神様も許してくれるって、多分な」
ニカリと笑った。
「それに、エルにとっちゃ今日が祭りの初日みたいなもんだろ?」
「今日は時間あるんだろ?」
「俺が回った【ここが変だね祝願祭】を話してやるから付き合えよ。今なら特別に【パーの残した言葉】【女将が投げたのは客だった】【おじさんまたやりました】の三本を飲み物一杯で話してやるぜ!」
――待ってくれ、一つだけ不穏なものが混ざってる。投げたのは客ってどうなったらそんなことになるんだ?
「わかったよ、その話飲み物で買ってやるよ」
「へへっ毎度あり!」
二人で港の方へと向かい歩き出した。
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ガッチョと並び港へと向かう道で、桃とニワトコの花を使った炭酸水を買った。
「これミーナに教えてもらったんだぜ。おススメの一つって言ってたんで試しに買ったみたんだが、これがうまいのなんの」
「今日で飲んだら五回目だ、おかげで財布が寒い寒い」
――ここにも被害者が一人。それにしてもオススメがいくつあるのやらだ。
人の流れを抜けて港へ出ると、船はほとんど泊まっていなかった。波は穏やかで風が気持ちよく抜けている。湾のかなり奥の方に帆を広げた船が点々と見え、漁をしているのか中で人が網を引いているのが見えた。
「それで、パーの残した言葉だったか?あれって、絶対寝言だろ――うまっ!」
一口飲んだ瞬間に口の中で香りがはじけた。
甘い桃の果実にニワトコの花の香り。甘く濃密なエキスが、炭酸で割られことですっきりとしながらも香りがはじける。
「なっ、うまいだろ」ドヤ顔のガッチョに少しむかつくが、この飲み物を教えてもらったことの方が大きい。
「それで、どんな話なんだよ?」
「違う。【ここが変だね祝願祭】だ。間違うなよエル」
「はいはい。ここが変だね祝願祭を聞かせてくれよ」
ガッチョは思い出しながら話し始めた――。
「あの日、みんなと別れて、パーの家に行ったんだ。屋根に穴が開いたっていうからな」
「行ってみたら、意外と大きな穴が開いてて。屋根に上ったんだ」
「そしたらパーが珍しく手伝うっていうんだ!」
「パーが下から道具とか板を上げるよ~、っていうから――」
「その話のオチって、パーが寝てたって話だろ?」
大体想像していた通りだ。それなら、ほかの話の方が楽しそうだけどな。
「違うって!……とも言えないんだけど。まぁ最後まで聞けって」
「途中までは割といい感じに進んでたんだ」
「パー次は、板と釘くれ」
「う~ん」
梯子から板が見えたから持ち上げたんだけど、釘が全然こねーんだよ。おい、パー、返事がねえからまた寝てる思って顔出したら……。
「まー案の定寝てたわけだ」
――やっぱりな。ここまでのパーはいつも通りだ。不思議なことなんてないようだけど。
「手伝うって言ったのに寝てやがるもんだから、金槌でも投げてやろうかと思ったらよ」
「やめてよ~、釘なら腰道具にあるから大丈夫だよ~Zzz」
まさかと思って腰道具見たら…………入ってたんだよ。
下に置いといたはずなのに。
「なっ、変な話だろ?――あぁーやっぱりこれうっめー!」
弾ける果実に喉を鳴らした。
『変な話じゃなくて、怪談じゃないのか?』
「まー……パーが寝ながら言うのって、変に当たるしな」
「それな!不思議と、先でも見えてんのかってぐらい当たるんだよな」
時折見せるパーの違和感をガッチョも感じていたようだ。
この話、パームスの不思議の方がよかったんじゃないか。
「それで、次はどっちがいい?」
正直、両方とも気になる。だが――どう考えても不穏なものが先に聞きたくて仕方ない。
「それは、もちろん【女将が投げたのは客だった】だろ。どうやったらそんなことになるんだよ?」
「あれは――俺の横を大男が飛んで行った日のことだ」
「……は?」
飛んでいく?大男が?
変な声が出た俺をおいて、話を続けていく。
「今から三日前の話だ。俺はその日も屋台の設営やら、修理やらで街をまわってた」
「その日は特別忙しくて、夕方まで飯も食えなくて駆けずり回ってたわけなんだが」
「最後の店が、ほらそこに見えてるあの店だ」
ガッチョの指さす方へと目をやると、小さな酒場があった。
「この辺は夕方から夜にかけて、船乗りたちが集まってくるんだ。ちょっと怖い感じになるんだけどよ」
「もう日も落ちてきて。体がでかくてやたらマッチョな大人たちで、この辺の飲み屋はいっぱいだった」
「あの酒場で終わりだー。やっと帰れる!と思って作業してたんだよ」
「扉の調子が悪いっていうから、しゃがんで蝶番を見た時だ」
「そしたら――後ろに人が飛んできてよ。殴り合いの喧嘩が始まったんだ。」
「船乗りって気が荒いから、すぐ殴り合いになったりするのは聞いていたんだけど、まさかそんな急に始まるなんて思ってなかったからよ」
「でも、あの場所が悪かったんだ」
――なんでガッチョが震えてるんだ?手に持っているコップに波紋が揺れている。
「それでどうなったんだよ?」
「あっ、あぁ。それで――」
「あそこの大将はこんな荒れた場所より静かなところの方が似合う感じの大将なんだよ」
「おとなしいっていうか、気が小さいっていうか、まーそんな感じの人だ」
「おとなしいから喧嘩が始まっても止もせずみてたみたいだ。でも、客が投げた木の皿が運悪く大将に当たった」
「幸いケガもなさそうだし、皿も割れなかったんだけど」
「それを見ていた女将さんがブチ切れた。客の胸倉を掴んだところまではみえたんだ」
ガッチョの肩が震えだした。
「俺が次に見たときには、しゃがんでる俺の横を親父よりもでかい大男が飛んで行ったところだ」
「直してた扉もぶち飛ばして、大男がそこの海まで転がってでかい水しぶきが上がってた」
「そんで、飛んで行った扉があそこ」
指さしたの先には二つに割れた扉が、置かれていた樽やら木箱に刺さっていた。
『だから、なんで怪談みたいになってるんだ!』
「俺のかーちゃん並みに怖い女将さんだったぜ。おー怖っ」
母親と比べて怖かったわけか、そう思うことにした。
俺は、母さんとも長らくあっていない。
――近くにいるだけで、良いとおもうけどな。そんなことを、ふと思った。
「どうしたエル?」
「いや、……確かに怖い女将さんだなとおもって」体を震わせてごまかした。
「だろ、女将さん俺より少し大きいぐらいなんだぜ」
――それが一番怖いよ。どうなったらそんな大男が海まで投げ飛ばせるんだ?
最後の話に本当に身震いした。
「それで、最後は何だっけ?【おじさんやっちゃったね】だったか?」
「違う違う【おじさんまたやりました】だ!」
『そんなに違わない気がするけどな』
「これを説明するのは見た方が早い」
「行こうぜ!」立ち上がったガッチョが手招いた。
「どこにだよ?」
にやりと笑い。
「決まってるだろ、ティアのとこだよ!」
二人でティアの屋台へ向かうことにした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
祝願祭のにぎやかな一日でしたが、ガッチョの話はどうでしたか?
楽しい話のはずなのに、どこか「変」なものが混ざっている気がしていたら
ーーたぶん気のせいではないと思います。
次はティアの屋台へ。
にぎやかなはずの場所で、もう一つの「変」に出会うかもしれません。
もう少しだけ、祭りの空気にお付き合いください。
次回の更新は明日19時30分です。
引き続き読んでいただけたら嬉しいです!




