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Gateau de fantasie~ガトー・ド・ファンタジー~【港町ポルトと甘い約束の物語】  作者: kou pâtissier


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第Ⅱ話 前編【揚げパンと宴】其の三



 「あー……やっと終わった」

 

 門を抜けると腕を空へと向け、固まった体を大きく伸ばした。

 やっと課題も終わり館を出る許可が下りたのだ。


 「あんなに追加があるとは思ってなかった……」

 

 遅れて来た先生の手には、父からの手紙と追加の課題が入っていた。


 『俺の予定では、追加も見越して五日の予定だったのに』

 だが、届いたそれが予想よりも多く、さらに日が経ってしまった形だ。


 久しぶりに出た町は少し変わっている。

 西区を教会へと向かっていると、初日の札が外れたギルドには長い列が出来ていた。


 『今日はこっちの方まで騒がしいな――』


 そこまで考えて、思い出した。


 

 祝願祭の屋台は売り切ってしまうと店が変わってしまうことを――。

 

 

 旅商人の店は一週間ほどで品物がなくなりほとんどの店が閉まる。

 店が閉まり開いてしまった区画には新たな屋台、品物が並ぶんだった。

 

 二巡目の屋台、新たな品物。ミーナが楽しみにしてるやつだ。

 

 

 『また、食べ歩いてるんだろうな』

 

 今年こそ全部の屋台を回ると意気込んでいたからな、どこかであえるかもな。

 小走りに向かっていたのを止め、新たな屋台を見ながら向かうことにした。


 「せっかく外に出られたんだ、のんびり行こう」

 

 どこからかひょっこり顔を出すかもしれない、そう思ったからだ。


 

 『前にもこんなことあったな――』

 いつだったか。ミーナに連れ出された時を思い出していた。



  ♦︎♢♦︎♢♦︎♢


 

 「エル君、お家の中ばっかりでつまんないよ!」

 街を歩いたことがない。出会ったばかりのころ、ミーナに言ったことがある。

 

 ミーナとは館で行われた晩餐会。そこで会ったのが初めてだ。

 俺は参加していなかったが、ミーナは両親に連れてこられ参加していたらしい。


 晩餐会の行われていたのは離れだ。

 その日、自室の窓から見ていた俺は庭園の物陰にこそこそ動く人影を見つけた。

 上から丸見えで、隠れる気など無いように見えた俺は、好奇心から部屋を出て後を追った。


 ガサゴソと音を立てながら茂みを渡る。


 隠れたいのか見つかりたいのかわからない。

 

 本邸のキッチンの窓まで行くと窓に張り付くように中をのぞきだした。


 「いいなーおいしそうだなー」

 「わたしも食べいなー……もう!なんで子供料理なんて出すかな!」


 意味が分からなかった。恨めしそうに見ていたと思っていたら怒り出した。

 

 暗闇で後を追っていたが、背格好と服装から俺と変わらないぐらいの女の子なのはわかっている。


 「なー、なにやってるんだ?」


 「ひにゃっ!!」

 「わっ私の背後を取るだなんて、あなたただ物じゃないわね!名を名乗りなさい!」


 出会いは色々とおかしかった。

 自分の家で名を名乗れと言われたのは初めてだった。

 ただ物も何も普通に後ろをついていただけで隠れてすらいなかった。


 『なんだこいつ……』それがミーナの第一印象だ。


 「俺はエルネスト、一応ここに住んでいる」

 「そう、家人の子息か何かでしょ――」


 「あなたもあれね。お腹すいたから貰いにきたんでしょ?」


 ――違う。


 「任せておいて今から乗り込んで大人の料理をいただいてくるから――ジュル」


 うん違う。彼女が張り付いていた窓を軽く叩いた。

 「ちょ、ちょっと!」


 料理人がひとり、窓を開けた。

 「エルネスト様どうされました?」


 「料理中にごめん、この子に大人用のメニューを出してもらいたいんだ」

 「晩餐会のメニューが合わなかったみたいで」

 嘘はついていない。

 

 「なるほどそうでしたか。それは失礼いたしました」

 「お嬢様、大人用のメニューをお運びいたしますので離れにてお待ちいただけますか?」


 そういうと料理人は窓を閉めた。


 二人で窓際から離れ、庭園を進んだ。

 

 「……ありがとう」

 驚いた顔と照れた顔半分づつぐらいの顔で礼を言われ笑ってしまった。

 


 「ハハッ、いいよ。でもそろそろ戻った方がいい」

 「そろそろメインが運ばれてくるはずだ。食べたいんでしょ?」


 「急いで戻らなくちゃ!私のお肉――」


 離れへと走っていった。

 部屋へもどろうかな――振り向いたところで袖口をつかまれた。


 「ありがとう、エル君♪」

 「いいよ、早く食べてきな」

 「うん♪」


 それがミーナとの出会いだった。


 面白い女の子だ、また会いそうだな。

 

 そのあとの再開は早く、その日の内だった。

 

 晩餐会の終わり際、父に呼ばれ晩餐会へと参加したからだ。

 父に紹介されみんなの前へと進む。

 

 一番前で並ぶミーナの驚いた顔。口お開けた少し間抜けな顔に笑いを堪えるのが大変だった。

 

 

 「ほら、ミーナご挨拶なさい。ご子息のエルネスト様よ」

 母親の後ろに隠れていたミーナは顔をのぞかせ、ゆっくりと出てきた。


 「お初にお目にかかります、ミーナ・ヴィターリです。本日はお日柄もよく――」

 「ふざけないの!キチンとなさい!」


 「フフッ、面白い娘さんですね、ヴィターリ夫人。お久しぶりです」

 「お恥ずかしいところをお見せいたしました――お久しぶりでございます」

 軽く夫人へ挨拶して、ミーナの方へと歩み寄った。

 

 「ミーナ嬢、先程はヴィターリ家の方とは知らず失礼いたしました」

 「改めまして、エルネスト=フォン=カリスです」



 ♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 


  ――今思えば、あの時からだったな。


 「……面倒なやつに捕まったのは」

 

  苦笑しながら、屋台の並ぶ通りへと足を向けた。


 

 教会が近づいてくると人の多さも増え始め、人の波にのまれた。

 『ここまでくると人が多いな。まっすぐ行きたいけど、思うように行けない』

 

 あきらめ流れに任せ進んだ。

 しばらく歩くと、分かれ道で人の流れが変わり脇の道へと逃れることが出来た。

 もみくちゃにされて、苦しかったな。

 

 顔を上げあたりを見回した。

 「えっと、ここは……」

 大人にまぎれ進んでいたせいで、どこに来ていたか一瞬わからなかった。


 流れに任せて着いたここは、ミーナが【雲菓子】を買っていた路地だ。

 あの日よりも人は少し減っているように感じる。


 『先に買ってから行くか、その方がみんなと遊ぶ時間も増えそうだしな』


 ミーナと抜けてきた路地を今度は一人で進む。

 前に通った時より歩きやすい。いくつか店が変わり、目新しい屋台を横目に雲菓子を買いに向かう。


 屋台が近づくと、呼び込みの声が聞こえる。

 「サクサクだよ!新作の雲菓子は二週目の今日からだよ!」


 もう一週間もたっていたんだな。課題の合間にも、時折思い出していた雲菓子。

 やっと食べれる、少しぐらい先に食べてもいいかな。


 ふいにミーナの言ったことを思い出した。

 「待つ時間はね食事の最高のエッセンスなんだよ!」


 ――待つ。みんなと食べる方が美味しいのかもな。

 「すみません、新作ってどんな味ですか」

 

 「いらっしゃい!お兄ちゃんお目が高いね。新作はレモンだよ」

 「しかも、このレモンがかなりの変わり物」

 「一昔前までは頑固な爺さんがなかなか売ってくれない事で有名なレモンだったんだ。だが、どういうわけか最近この辺まで届くようになった最高品質のレモン!それを贅沢に使った雲菓子さ」


 「じゃあ、新作のレモンを八個と――」

 ミーナが買っていた桃色を探す。

 

 『こんなに種類があったんだな』

 ガラスに蓋がされ、いろんな色の雲菓子が並んでいる。

 桃色桃色――桃色、あった。


 「こっちのイチゴも八個おねがいします」

 

 「あいよ、すぐに食べるかい?」

 「いえ、袋は縛っておいてもらえますか?」

 確かすぐに食べないと、とかなんとかミーナが言っていたはずだ。

 

 「おっ、わかってるねー。おまけに一個ずつ入れておくからまた気に来てくれよ」

 正解だったようだ。

 

 「また、友達ときます」

 銅貨を一枚渡し屋台をはなれた。


 雲菓子も買ったし、広場まで向かうか。

 振り向いたとき、目の端で大きな荷物を抱えた人が、屋台の前で止まっているのが見えた。


 『あの店は確か、知ってる香りなんだが何かよくわからなかった店だ』

 結局あれが何だったのかわからなかったな。


 ミーナの事だから聞きに来てるかもしれないが、一応近づいてみるか。

 そう思い、屋台へと向かった。

 


  ♦︎♢♦︎♢♦︎♢

 

 

 「これは、もしかして〝Ⅵ〟のバニラビーンズか?」


 近づくと店主と話す男の声が聞こえた。

 『バニラ?バニラってミーナとの話に出てくるあのバニラか?』


 知っている言葉に耳を傾け、屋台の近くにある長椅子へ座った。


 「おっ!お客さんお目が高いね。その通りだよ、これは〝Ⅵ〟の国でも最高の品さ」

 「いやー私は色々な国に行くのが好きでね。〝Ⅵ〟の国まで仕入れに行ったときに見つけたんだよ」


 その価値が分かった男に、店主は嬉しそうに話を続ける。

 「いやーでも、この町じゃ中々売れなくてね。どうだい買っていかないかい?」


 黒茶色の棒――あれがバニラだったのか。バニラは甘い香りがする粒粒だったはずだ。実物を見たことなくてわからなかった。並べられてバニラの束に目を送るとその価格に驚いた。


 

【特価十本/銀貨一枚】と書かれている。

 『屋台で銀貨……うそだろ。そんな価格で売れるわけ――』


 

 「ちょうどなくなったところだったんだ、全部もらえるか?」


 「全部!」『全部!』

 驚きを隠せない店主と俺の反応は同じだった。

 

 最近習った社会学でも【祝願祭】についてだった。

 そこでは屋台の平均的な売り上げを元に、来客数の割り出し方などをポルトの平均的な日収や月収を比較しながら習った。


 銀貨一枚で屋台の半日分の売り上げだったはずだ。

 


 「……百五十本と少しあるんだが、本当に大丈夫なのか?」

 「全部買ってくれるから、すこしぐらいまけても銀貨十五枚だが」

 「いろんな意味で大丈夫かい?」

 

 『ポルトの平均的な月収の半分以上だ……』

 今もお小遣いをもらって街に来ているが、それでも銀貨一枚。

 骨董市にでも行かない限り、屋台周りだけなら三日は遊べる。


 

 「すぐになくなるから大丈夫だよ」

 

 「そっ……そうかい。なら包んでしまうからちょっと待っててくれ」

 そういうと店先に並べたバニラビーンズを包み始めた。


 「こっちの瓶に入っているはバニラのシロップか?」

 

 「そうだよ、客引き用にシロップを炊いていたんだ。甘い香りが漂うからいっぱい来てくれるんだけどね。でも、シロップは売れても物が売れなくて」

 「はいよ、シロップもおまけにつけといたから持って行ってくんな」


 「ありがとう」

 男は銀貨十五枚を店主に渡して、去っていった。

 


 座っていた長椅子から立ち上がり、男の後ろ姿を目で追う。

 あんな大金持ち歩くなんてあの男だれなんだ。

 後姿は羽織っていた外套のフードと背負う大きな荷物で背格好もわからなかった。


 『あれが、バニラだったんだな』

 ミーナに会ったら話してやろう――。

 どんな反応するだろうな、シロップだけでも買いに来そうだ。


 「さて、のんびり向かうか」

 

 大きくなる音楽のなる方へと歩き始めた。

 


ここまで読んでいただきありがとうございます!


今回はエルとミーナの出会いと、祝願祭の賑わいを描いてみました。

こういう“何も起きていない時間”って、個人的にすごく好きです。


……ただ、気づいた方もいるかもしれませんが、

少しだけ「違和感」も混ぜてあります。


何気ない出来事が、あとからどう繋がるのか。

次回以降、少しずつ見えてくる予定です。


引き続き読んでいただけたら嬉しいです!

次回の更新は明日19時30分です。

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