prologue#3
「僕は常に大空に憧れを抱いている」
「でも、憧れは刹那的なものだわ」
「一般的なものはそうかもしれない。でも、僕のはそう―― ニュアンス、が、違う」
暗闇の中を手探りで進むかのような、慎重な言葉選び。彼が少しでも悩む場面を見たことがなかった女性は、少し意外に思いながらも邪魔をしないように黙って耳を傾けていた。
「航空は僕にとって、毎回一度きりの旅なんだよ。例え見知った空路でも、大空は一度として同じ顔を見せない。
その日その日によって変わる、“無二の大空”を旅することに憧れを抱くことはそんなに変だろうか?」
わからなくもない。
“未知のもの”に向かう楽しみもまた、憧れとなり得るのだから。
しかし、理解はせども、心は追いつかない。
彼女にとっての大空は――
「わたしにとって大空は、ある時から“苦しみ”の場所に変わったわ」
「……?」
これは、誰にも話したことがない。
事情を知る、当事者たち以外には誰にも。
でも、だからこそ。
彼には話さなければならない気がした。
青年は女性の纏う空気の変化を感じ、にわかに表情を変えながら向き直る。
「出来れば聞かせてもらいたいね、その「ある時」のこと」
その時の彼の笑顔は、切ないような、悲しいような。しかし不思議と力のあるものだった。
これなら話をしてもいい、と。
不覚にも心の扉をほんの少しだけ。
開いて顔を覗かせて――
「聞いてもつまらないわよ、きっと」
「物語がつまらないかどうかは、聞き手が決めることだよ、語り手さん?」
そう言って、やはり不適に笑う青年の顔を見ていると、乗せられたような、はめられたような―― そんな気持ちがこみ上げてくるが、今更引き返せない。
女性はふぅ、と深く嘆息すると、諦めたように口を開いた。
「わかった。話すわよ。
例えば――
こんな日常。




