reverse of time
例えば、こんな日常の風景は如何だろうか。
草原。
キミは女の子で―― 手頃な石に異性の友人と腰掛けながら、鰯雲が漂う夏宵の空を見上げている。
とうに帰る時間は過ぎているけども、キミたちはなんともなしに、ただ空を見上げるだけの時間を過ごしていた。
「あのさ」
隣の少年が、何かを切り出すように突然声を上げた。
少しびっくりしたキミだったけど、すぐに「なぁに?」って優しく微笑んだ。
頬をにわかに赤く染め上げた彼は、「ボクさ、ボクさ!」となにかを一生懸命伝えようとしてきている。
キミは急かすことをせず、黙ってそれを見守った。
「ボク、大きくなったら《大空騎士》に成りたいんだ!」
突然の夢の吐露。
キミはそれに、「危ないよ」だとか「死んじゃうかも」だとか、そういった茶々を入れずに「へぇ」、と頷く。
だんだん彼の夢の話はヒートアップしていって、なぜ大空騎士に成りたいのか。大空騎士がどんなに格好いいか。
全部語って聞かせてくれた。
「だからボクは、大空騎士になって悪い《翼竜》をやっつけたいんだ!」
それがどんなに危ない仕事か知っているキミは、つい心配になって口を出す。
試験を受けないと猟団には入れないだとか、猟団の中での上下関係は絶対だとか。
キミには猟団に入団したものの、厳しさに堪えきれず帰ってきた兄が居たので、その辺りの知識はあったのだ。
「ボクは大丈夫だよ!」
彼は意気揚々と宣言したが、キミは大丈夫だとは思えなかった。
なぜなら…… 要するに、そう。
彼が“ヘタレ”だったから。
女の子のキミと喧嘩して負けるような少年が、厳しい規律や、増して《翼竜》相手にどこまで保つかなんて、まだ幼いキミにだってすぐに予想できる。
「どうしても、大空騎士に成りたいから……
お父さんだって、「そういう気持ちがあれば絶対になれる」って言ってたし」
彼のお父さんがどうかは知らないが、たしかにその通りだとは思った。
いくら技術があろうが、気持ちが伴ってなければどうにもならないことだってある。
だから、そうやってひたむきに夢を見られることは、キミにとって“憧れ”だった。
「わたしは、いったい何になるんだろうね?」
唐突に呟いた言葉は、少年をビビらせ
、キミ自体を惑わした。
普通に考えれば、キミは生まれた町で普通の町娘となり、成長して、それなりの男と結婚して―― と、まるで母親と同じような人生を歩むことになるのだろう。
しかし、それじゃあつまらないじゃないか。
キミは紫色に澄み渡った、無数の星を頂く宵口の“大空”を見上げて。
わたしもいつか、“あの場所”を旅する日が来るといいな、と。
隣でどうしていいかわからずにテンパる少年を置き去りにして、まだ見ぬ旅(未来)のビジョンに思いを馳せるのだった。
――結局、その日は遅くなりすぎて。
母親にお仕置きを食らったことも、今や遠き日の彼方。
そんな「ある誰かさん」の、幼い夏の日常の一ページ。
#Record 1
「例えば、こんな日常」
〜Once upon a time...〜




