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心に風が吹く者たち  作者: もふ神留奈


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7/8

『夏の終わりの寄り道』

土曜日。


空はよく晴れていた。


夏の暑さはまだ残っているけれど、時折吹く風だけが少し涼しい。


待ち合わせ場所は、駅のそばにある大きな木。


その根元に置かれた、古い木製ベンチ。


休日の駅前は、家族連れや買い物客で少し賑わっていた。


凪は先に到着していた。


ベンチへ腰掛け、風に揺れる葉をぼんやり見上げる。


その時。


「あっ!凪ちゃーん!」


遠くから聞こえる元気な声。


振り返ると。


大きなリュック。


紙袋。


肩掛け鞄。


さらに両手にも荷物。


完全に荷物まみれになった真尋が、ふらふらしながら歩いてきていた。


「……真尋」


「ふへぇ……暑い……」


ベンチへ荷物をどさどさ置く真尋。


凪は呆れた顔になる。


「……何その荷物」


真尋はニヤリと笑った。


「えへへ!秘密!」


「絶対掃除の量じゃない」


「まぁまぁ!」


リュックをぎゅっと抱える真尋。


凪はため息を吐く。


「……重そう」


「重い!」


「じゃあ減らしてきて」


「やだ!」


即答。


駅前を風が吹き抜ける。


木の葉がさらさら揺れた。


真尋は嬉しそうに空を見る。


「なんかいい天気だね〜」


「うん。

掃除日和」


「ピクニック日和とも言う」


「掃除です」


「えー」


頬を膨らませる真尋。


凪は少し笑った。


「電車、あと五分くらい」


「じゃあ飲み物買ってくる!」


真尋は荷物を半分だけ置いて、自販機へ走っていく。


その背中を見ながら、凪は静かに目を細めた。


夏休みは終わった。


でも。


こうして過ごす時間は、まだ続いている気がした。

ガタンゴトン――。


電車がゆっくり走る。

車内へ入った瞬間、ひんやりした空気が二人を包んだ。


「生き返るぅ〜……」


真尋は窓際の席へ座り、ぐったり身体を預ける。

凪も向かい側へ腰掛けた。

休日の午前中。

車内はそこまで混んでいない。

窓の外では、流れる景色の向こうに入道雲が浮かんでいた。

すると。

ごそごそ。

真尋が大荷物を漁り始める。


「……なにしてるの?」


「ふふふ」


得意げな顔。

そして。


「じゃーん!」


取り出されたのは、使い捨てのお弁当箱。


「……朝から?」


「朝弁!」


真尋は嬉しそうに蓋を開ける。

中には。

俵型のおにぎり。

丁寧に巻かれた海苔。

タコさんウィンナー。

唐揚げ。

玉子焼き。

小さめのハンバーグ。

彩り良く、綺麗に詰められていた。


「……すご」


凪が少し驚いた顔をする。


「今回はちゃんと使い捨て!」


「前回怒られたから?」


「怒られた」


以前、普通のお弁当箱を持ってきて、帰りに荷物になったらしい。

真尋は早速、おにぎりをぱくりと食べる。


「ん〜……おいしい……」


幸せそうな顔。

凪は呆れながらも、少し笑っていた。


「真尋ってほんとよく食べる」


「動くからね!」


「掃除前なんだけど」


「だからエネルギー補給!」


窓の外から、強い夏の日差しが差し込む。


でも。


電車の中だけは、どこか穏やかな時間が流れていた。


ガタン……ゴトン……


規則的な揺れ。


真尋はゆっくりお弁当を食べていた。


「ん〜……」


小さなハンバーグを頬張りながら、幸せそうに目を細める。


窓の外。


流れる景色が少しずつ変わっていく。

住宅街。

畑。


そして――。


青く広がる海。


「……あ」


真尋が小さく声を漏らした。


「海だ」


夏の日差しを反射して、きらきら光る海面。

その景色を見ながら、真尋はどこか嬉しそうに笑っていた。

凪は、そんな真尋をぼんやり見つめる。

窓ガラスへ映る、柔らかな横顔。


その時。


凪の視線が止まる。

窓へ反射していた。

少し離れた車両の扉付近。


黒い服。

見覚えのある男。

こちらを見ている。


――真尋の護衛。


凪はすぐに気付いた。


どうやら、少し離れてこっそり着いて来ているらしい。

真尋は気付いていない。

海を見ながら、のんびり玉子焼きを食べていた。


「ん〜……甘い」


凪は小さく息を吐く。


(……心配しすぎ)


でも。


その気持ちも、少しだけ分かる気がした。

風が揺れる。

電車は海沿いを、ゆっくり走っていく。


「で、その荷物、他に何が入ってるの?」


凪が呆れたように聞く。

真尋は、にやにやしながら指を立てた。


「まだ秘密だよ!社に着いてから!」


「絶対掃除関係ない物入ってる……」


「失礼な!」


ぷんすかする真尋。

その時。

窓の外の景色が、少しずつ変わり始める。


建物が減り。

緑が増え。

遠くには山。

海風も、少し強くなってきた。


「あっ」


真尋が勢いよく立ち上がる。


「もうすぐ着く!準備しなきゃ!」


「まだ駅着いてないよ?」


「降りる準備は早めに!」


ごそごそごそ。


再び大荷物を漁り始める真尋。


すると。


「じゃーん!」


取り出したのは、折り畳み式の小さなキャリー。


「……持ってきてたんだ」


「流石に重かった……」


真尋は疲れた顔で言う。


「だから、これ使う!」


ガチャガチャ。

慣れた手つきで組み立てる。


カチッ。


小さな車輪が開いた。


「おぉ……」


凪が少し感心した声を漏らす。


「でしょ?」


真尋は得意げだった。


「最初から使えばよかったのに」


「駅まで階段多かったんだもん……」


「計画性……」


真尋は荷物をキャリーへ乗せる。

その量は、もはや小旅行だった。

電車がゆっくり減速し始める。

アナウンスが流れる。

窓の外には、見慣れた小さな駅が見えてきていた。


プシュー――。


電車の扉が開く。

真尋はキャリーを引きながら、よいしょっとホームへ降りた。


凪も後に続く。

小さな無人駅。

潮の匂いを含んだ風が吹き抜ける。


ガタンゴトン……


二人を降ろした電車は、ゆっくり発車していった。

凪は何気なく、窓を見送る。


けれど。


黒服の護衛は、降りて来なかった。

そのまま電車に残り、こちらを見ていた。

やがて電車は小さくなり、見えなくなる。


「……行ったね」


真尋がぽつりと言う。

キャリーの持ち手を握りながら、少し苦笑していた。


「ごめんね……護衛がこっそり着いてきてるから、

気になるでしょ?」


凪は少し驚く。


「気付いてたんだ」


「うん!」


真尋はあっさり頷く。


「いつも着いてくるから、嫌でも目に入るよ……」


どこか慣れたような言い方だった。

駅前を風が吹く。

真尋の短いピンク髪が揺れる。


「まぁ、今日は降りて来なかったみたいだけどね」


「……心配なんだと思う」


「過保護だよ〜」


そう言いながらも、真尋の声は少し柔らかかった。

凪は静かに歩き出す。


「行こっか」


「うん!」


キャリーの車輪が、ガラガラと音を立てる。

夏の終わりの空の下。

二人は、社へ続く道を歩き始めた。

駅を離れ、二人はゆっくり山道を歩いていく。


夏の終わりの蝉の声。

草の揺れる音。

遠くで鳴く鳥。


真尋は相変わらず、頻繁に立ち止まっていた。

カシャ。カシャ。

カメラを向けて、景色を撮っている。


「……また撮ってる」


「だって綺麗なんだもん!」


真尋は笑いながら、空へカメラを向ける。


白い雲。

青空。

揺れる木々。


「後で見返すと、その時の空気思い出せるんだよ?」


「……へぇ」


凪は少しだけ感心したように呟く。

真尋は、道端の花まで撮り始めていた。


「これも可愛い」


「よくそんな撮る物あるね」


「いっぱいあるよ!」


カシャ。

今度は凪へカメラが向く。


「……なんで」


「記念!」


「消して」


「えー」


そんなやり取りをしながら、二人は山道を進む。

やがて。

木々の間から、見慣れた石階段が見えてきた。


「あ」


真尋が足を止める。

古びた石段。

少し苔むした階段が、上へ長く続いている。

その先には、木々に囲まれた社。

風が吹く。

葉が揺れる音が、どこか懐かしく響いた。


「……久しぶりだね」


真尋が小さく呟く。

凪も静かに頷く。


「うん」


二人は顔を見合わせる。

そして。

ゆっくり石階段を登り始めた。

石段を登る。

蝉の声。

木漏れ日。

時折吹き抜ける風。


けれど。


「はぁ……はぁ……」


真尋は、既に限界だった。


石段の途中。


ちょうど三分の一ほど登った辺りで、その場へへたり込む。


「む、むりぃ……」


大量の荷物を、ひとまとめにして抱えているせいだ。

キャリーは石段では使えず、完全に荷物の塊になっていた。

凪は少し呆れながら見下ろす。


「……だから言ったのに」


「だって……まとめた方が一回で済むかなって……」


「無理して倒れたら意味ない」


真尋は石段へ突っ伏した。


「文明の利器が……石段に敗北した……」


「大袈裟」


凪はしゃがみ込み、荷物を見る。


「荷物崩して運べば?」


「……へ?」


「大きいの持ってあげるから、真尋は小さいの二つ運んで」


真尋が顔を上げる。


「はぁ……はぁ……うん……そうする……ありがとう……」


完全に息切れしていた。

凪は苦笑しながら、一番大きな荷物を持ち上げる。


「……重」


「でしょ?」


「なんでこんな持ってきたの」


「夢と希望!」


「絶対違う」


真尋はへろへろになりながら立ち上がる。

二人で荷物を分ける。

風が吹く。

木々がざわりと揺れた。

その時。


にゃあ。


上の方から、聞き慣れた声。

真尋がぱっと顔を上げる。


「……ミミちゃん?」


石階段の一番上。

そこから。

白黒の猫――ミミが、じっと二人を見下ろしていた。


風が吹く。

白と黒に分かれた毛並みが、ふわりと揺れる。


「ミミちゃん……」


真尋が嬉しそうに顔を上げる。

ミミは鳴かない。

ただ、静かにそこへ座っていた。

まるで。

二人が来るのを、待っていたみたいに。


「真尋、ほら。

もうひと踏ん張り」


凪が後ろから声を掛ける。


「うん!

頑張る……」


へろへろになりながら、真尋は再び石段を登り始める。


一段また一段。


荷物を抱え、息を切らしながら。

その様子を、ミミはずっと見ていた。


やがて――。


「つ、着いたぁ……!」


最後の段を登り切り、真尋はその場へ座り込む。


社の前。

木々に囲まれた静かな空間。

山の空気。

土の匂い。

吹き抜ける風。


下界の暑さが、少しだけ遠く感じる。

凪も荷物を置き、小さく息を吐いた。


「お疲れ」


「石段きついぃ……」


その時。


にゃあ。


ミミが、真尋の足元へ歩いて来る。


「ミミちゃ〜ん!」


真尋は一気に元気になった。

しゃがみ込み、嬉しそうに両手を伸ばす。

ミミは逃げずに、そのまま真尋の近くへ座る。

凪はそんな様子を見ながら、少しだけ微笑んだ。

風が吹く。

木々がざわめく。

社は今日も、静かにそこにあった。


「じゃあ、少し休んだら掃除やろっか」


凪が社の縁側へ腰掛けながら言う。


「うん!荷物も崩しちゃうね!」


真尋は元気よく頷いた。

社の中へ入る二人。

木の香り。

少しひんやりした空気。

夏の終わりの風が、開けた障子を揺らしていた。


真尋は、大きな荷物を社の床へ下ろす。


「よいしょっと……」


そして。

ごそごそ。

バッグを開き始める。


「……?」


凪が覗き込む。

次の瞬間。


「じゃーん!」


中から、妙に本格的な機械類が現れた。


ソーラーパネル。

防犯カメラ。

小型蓄電器。

配線。

工具箱。

その他いろいろ。


「……」


凪は無言になる。

真尋は得意げだった。


「どう?」


「……確かに、その荷物なら重いはず……」


「重かった……」


真尋は遠い目をした。


凪はソーラーパネルを持ち上げる。


「なんでこんなの持ってきたの」


「社、防犯設備無いから!」


「いやまぁ……確かに山の中だけど……」


「あと夜の動物観察もできる!」


「そっちが本命でしょ」


図星だった。

真尋は視線を逸らす。

凪は呆れた顔になる。


「運んでもらえばよかったんじゃ……」


「……あ」


真尋が固まる。

数秒の沈黙。


「……うん……ほ、ほら!筋トレって事で!」


明らかに誤魔化していた。

凪はじとっと見る。


「……思いついてなかっただけでしょ」


「はい……」


しゅんと肩を落とす真尋。

その時。

にゃあ。


ミミが機械類の横へ座り、じっと防犯カメラを見つめていた。


「ミミちゃんも気になる?」


真尋が笑いながら聞く。


ミミは、静かに尻尾を揺らしていた。


「よしっ」


真尋は荷物の中から、金属製の棒を取り出した。


先端には、小型のソーラーパネルが付いている。


「これをね〜……」


社の横。


一番日当たりの良い場所を探し始める。

凪はその様子を眺めていた。


「……本格的」


「でしょ?」


真尋は嬉しそうに笑う。

そして。

工具箱を開いた。

カチャ。

ドライバー。

レンチ。

固定金具。

慣れた手つきで取り出していく。


「……あれ」


凪が少し目を丸くした。


「真尋、工具慣れてる?」


「ん?うん、結構好き」


真尋は地面へしゃがみ込み、手際よく固定器具を組み立てていく。

ネジ締め。

配線。

角度調整。

思っていた以上に慣れていた。


「お父さんに教わったの?」


「動画!」


「独学なんだ……」


真尋はソーラーパネル付きの棒を、地面へしっかり固定する。

夏の日差しを受け、パネルがきらりと光った。

続いて。

小型蓄電器へ配線を繋ぐ。

ぴこん。

小さなランプが点灯した。


「お、入った」


電気が流れているらしい。

真尋は満足そうに頷く。


「次、防犯カメラ!」


取り出したのは、手のひらサイズの軽量カメラ。


「こんな小さいんだ」


「最近のすごいよ〜」


真尋は脚立へ登り、社の壁へカメラを取り付けていく。


東。西。南。北。

四方向。

小型だから目立たない。


凪は下から見上げながら、少し感心していた。


「……なんか、本当に秘密基地作ってるみたい」


「不思議研究部の観測拠点!」


真尋は得意げだった。


風が吹く。

木々が揺れる。


その様子を、少し離れた場所からミミが静かに見つめていた。


「次は配線っと……」


真尋は蓄電器の横へしゃがみ込む。


ごちゃごちゃと並ぶコード。


そこへ、慣れた様子でプラグを繋いでいく。


カチ。カチ。


「カメラ四台分……あと電波用のルーター」


「こんな山の中でも使えるの?」


「簡易回線使うやつだから、意外といける!」


真尋は楽しそうだった。

凪はその様子を見ながら、少し呆れ半分で言う。


「……ほんと準備いいね」


「ロマンだから!」


「ロマンで社を監視設備化しないで」


「えー」


真尋は口を尖らせながら、最後の配線を接続する。


すると。

ぴこん。

小さなランプが点灯した。


「お、起動した!」


続いて。


真尋はポーチから、小さなタブレットを取り出す。


手のひらサイズ。

薄くて軽い。


「……また小さい機械」


「最近こういうの好きなんだよね〜」


どうやら、ミニサイズ電子機器にハマっているらしい。


タブレットを起動。

数秒後。

画面へ、四分割された映像が映し出された。

社の正面。

裏側。

横。

石段方向。


「おぉ〜!」


真尋の目が輝く。


「映った!」


凪も隣から覗き込む。


「……ちゃんと映ってる」


「夜は赤外線モードもあるよ!」


「本格的……」


真尋は嬉しそうに、画面を操作していく。


その時。

画面の端。

石段側の映像に、白黒の何かが映った。


「あ、ミミちゃん」


カメラの前を、ミミがゆっくり横切っていた。

タブレット越しにこちらを見るミミ。


まるで。


カメラの存在を、理解しているみたいだった。


「あと……これも用意した!」


真尋が、最後に残っていた一番大きな箱を持ち上げる。


どん。


箱には大きく。


『自動餌やり器』

と書かれていた。


しかも。


『大容量10kg対応』


「……」


凪は無言になる。

ゆっくり、真尋を見る。


「……まさか」


「ん?」


「一つのバッグに入ってたのって、カリカリ?」


真尋は満面の笑みで頷いた。


「うん!」


「だからあんな重かったんだ……」


凪は納得した顔になる。

真尋は嬉しそうに箱を開封し始めた。


「これね、時間設定もできるんだよ!」


「完全に長期運用前提……」


「ミミちゃんのご飯大事!」


真尋は社の軒下へ、自動餌やり器を設置する。

電源確認。

フード投入。

ざらざらざら……

大量のカリカリが中へ入っていく。

その音に反応したのか。


にゃあ。


ミミが近付いてきた。


「ミミちゃん!」


真尋はしゃがみ込み、餌やり器を指差す。


「ここ押してみて!」


「猫に言っても分かるわけ無いでしょ……」


凪が呆れる。


ミミは、新しい機械をじっと見つめる。

そして。

クンクン。

匂いを嗅ぐ。

さらに。

ちょん。


前足で、小さなスイッチへ触れた。


カラカラカラ……


中からカリカリが出てきた。


「あっ」


真尋と凪が同時に声を漏らす。

ミミは、出てきた餌の匂いを嗅ぐ。


そして。


ぽりぽり。


普通に食べ始めた。


「すごっ!?」


真尋が目を輝かせる。

凪も少し驚いていた。


「……理解した?」


ミミは何事も無かったように、静かにカリカリを食べ続けていた。

その様子を見ながら、真尋はどこか嬉しそうに笑っていた。


「この餌やり器にもカメラ付いてるから、ミミちゃんが食べてるか分かるよ!」


真尋はタブレットを操作しながら言う。

画面には、餌やり器の真正面映像。

ちょうど今、カリカリを食べているミミが映っていた。


「ほんとだ……」


凪は少し感心したように呟く。


「しかも通知も来る!」


「完全に監視システム……」


「見守りシステムです〜」


真尋は楽しそうに笑った。

凪は、社へ並んだ機械類を見回す。


ソーラーパネル。

蓄電器。

カメラ。

通信機器。

自動餌やり器。


どう考えても、高校生が気軽に揃える量ではない。


「……こんなに沢山色々買って、高かったでしょ?」


すると。


真尋は首を傾げた。


「うーん……わかんない!」


「わかんない?」


「お母様にオネダリしたら、最新機種で全部用意してくれた!」


凪は静かに空を見る。


「あぁ……そういう世界の人だった……」


「?」


真尋は不思議そうだった。

凪は少し呆れながら笑う。


「真尋って、たまに金銭感覚バグってるよね」


「えっ」


「普通、社に監視カメラ四台とソーラー設備持ち込まない」


「ロマンじゃん!」


「ロマンで片付けるには規模が大きいの」


ミミはそんな会話など気にせず、ぽりぽりカリカリを食べ続けていた。


「さて、そろそろ掃除しよっか」


凪が立ち上がりながら言う。


「はーい」


真尋も返事をする。

その時。

凪は少し周囲を見回した。

木々。

石段。

静かな山。


「……護衛の人、近くに居ないよね?」


「ん?ちょっと待っててね」


真尋は、またタブレットを取り出した。

ぺしぺし画面を操作する。

すると。

地図のような画面が表示された。

小さな点が、いくつか動いている。


「……え」


凪が固まる。


「なにそれ」


「護衛さん達の位置情報!」


「なんで見れるの」


「共有されてるから!」


さらっと恐ろしい事を言う真尋。

どうやら、護衛側と位置共有されているらしい。

真尋は画面を拡大した。


「んー……」


指で地図を動かす。

そして。


「あ、駅に居るね」


「駅?」


「うん。あの後、折り返しの電車で戻ってきたのかな?」


どうやら、駅周辺から動いていないらしい。


凪は呆れたように息を吐く。


「ほんと徹底してる……」


「ね〜」


真尋は苦笑した。


でも。


その声には、少し安心したような響きも混ざっていた

凪は竹箒を手に取った。


「じゃ、始めますか」


「おー!」


竹箒で、石畳を掃く音が響く。


さっ、さっ――。


夏の終わりの乾いた葉。

小枝。

風で運ばれてきた草。

二人は慣れた様子で掃除を進めていく。


「前より葉っぱ少ないね」


真尋が言う。


「まだ秋じゃないからね」


凪は落ち葉を集めながら答えた。

社の周囲は、静かな風に包まれている。

時折。

ミミが掃除の様子を見に来ては、またどこかへ歩いていく。


やがて。


「これくらいかな」


凪が、集めた枝や葉を見下ろす。

真尋も頷いた。

二人はそれを、いつもの場所へ運ぶ。

レンガ造りの囲い。

落ち葉や枝を燃やすための、小さな焼却場。

真尋はしゃがみ込み、慣れた手つきで新聞紙を詰める。


「火つけるね」


ライターを近付ける。


ぼっ。


小さな火。


乾いた葉へ移り、ぱちぱちと音を立て始めた。

煙がゆっくり空へ昇る。

少し焦げた葉の匂い。

夏の終わりの匂いだった。

真尋は火を眺めながら、ぽつりと呟く。


「なんか……ここ来ると落ち着くね」


凪も静かに炎を見る。


「……うん」


落ち葉を燃やす煙が、ゆっくり空へ昇っていく。


その横で。


凪は竹箒を肩へ乗せながら、ふと思い出したように言った。


「せっかくだから、風を扱う練習だと思って、風で集めてみる?」


「えっ」


真尋が目を丸くする。


「い、いきなり……」


「大丈夫。

前よりずっと安定してるから」


真尋は少し不安そうに、集まった落ち葉を見る。


でも。


「……で、でも頑張る!」


ぎゅっと拳を握った。

凪は少し笑う。


「うん。焦らなくていいから」


真尋は目を閉じる。

静かに集中する。

その瞬間。


ふわり――。


周囲の空気が、ゆっくり流れ始めた。

木々が揺れる。

髪が揺れる。


「その調子……ゆっくり……ゆっくり……」


凪が静かな声で導く。


カサ……。

落ち葉が動く。

さらに。


カサカサカサ……

地面を滑るように、葉っぱ達が風に押され始めた。

真尋の周囲で、小さな風が渦を巻く。


「力まないで……」


「んっ……」


真尋は眉を寄せながら、慎重に集中を続ける。


風は暴れない。

優しく。

ゆっくり。

落ち葉だけを押すように流れていく。


やがて。


渦を描きながら、葉っぱ達が一箇所へ集まり始めた。


カサササ……


綺麗にまとまる落ち葉。


そして。


ふっ。


風が止む。


「ぷはぁっ……はぁ……はぁ……」


真尋はその場へ座り込んだ。

かなり集中していたらしい。

凪は集まった落ち葉を見る。


「……うん」


優しく頷く。


「安定して操れてたよ」


「ほんと……?」


「うん。前よりずっと自然」


真尋の顔が、ぱっと明るくなる。


すると。


ぽん。


凪が、その頭を優しく撫でた。


「よくできました」


「……えへへ」


真尋は嬉しそうに笑う。


「じゃ、最後まとめちゃうね」


真尋は息を整えながら立ち上がる。


集まった落ち葉は、綺麗に渦状になっていた。


「便利だね……」


凪が少し感心したように呟く。


「えへへ」


まだ少し照れ臭そうな真尋。


二人は落ち葉を、ささっと両手で掬い集める。


カサカサ……


乾いた葉の音。


そして。


燃えている火の中へ、そっと入れた。


ぼっ。


火が少し大きくなる。


ぱちぱちと音を立てながら、葉っぱは赤く燃えていった。


煙が空へ昇る。


真尋は炎を見つめながら、どこか嬉しそうだった。


「前より、ちゃんと使えるようになってる気がする」


「うん。感情に引っ張られにくくなってる」


凪は静かに答える。


以前の真尋は、感情で風が乱れやすかった。


でも今は違う。

ゆっくり。

丁寧に。

風を流せている。


その時。


にゃあ。


ミミが、二人の間へやって来た。


真尋はしゃがみ込み、優しく撫でる。


「ミミちゃんにも風感じた?」


ミミは答えず、気持ち良さそうに目を細めていた。


ぱちぱち――。


火の燃える音。

揺れる木々。

吹き抜ける風。


その時。


ふわりと、風が真尋の耳元を流れた。

まるで、誰かが近くで囁いたみたいに。


『へなちょこな風だった』


微かに。

ほんの微かに。

そんな声が聴こえた気がした。


「……え?」


真尋が顔を上げる。

きょろきょろと周囲を見る。

でも。

居るのは凪とミミだけ。


「凪ちゃん?何か言った?」


凪は不思議そうに首を傾げた。


「ん?何も言ってないよ?」


「……そっか」


真尋は少しだけ考える。


今の声。


風の音だったのか。

気のせいだったのか。


ミミは、静かに真尋を見上げていた。

その白黒の瞳は、どこか楽しそうにも見えた。

掃除もひと段落し。

燃やしていた火も、小さく落ち着いてきた。


「お腹空いたぁ……」


真尋が、石段へぐったり寄りかかる。

凪は少し笑った。


「じゃ、お昼にしよっか」


「する!」


二人は社の階段へ、レジャーシートを敷く。


木漏れ日。

山の風。

遠くで鳴く蝉。

街の音は、ほとんど聞こえない。


真尋は嬉しそうに、荷物をごそごそ漁った。


「今日はサンドイッチ!」


取り出されたのは、綺麗に包まれたサンドイッチ達。


たまご。

ハムとレタス。

ツナ。

フルーツサンドまで入っていた。


「……種類多い」


「いっぱい作った!」


真尋は、たまごサンドをぱくりと食べる。


「ん〜……おいしい……」


幸せそうな顔。


凪も、ハムサンドを手に取る。

風が吹く。


レジャーシートの端が、ぱたぱた揺れた。


その時。


にゃあ。


ミミが、二人の隣へやって来る。


「ミミちゃんもお昼?」


真尋が笑う。


ミミは、そのまま真尋の隣へ丸く座った。


山の空気。

穏やかな風。

ゆっくり流れる時間。


社の昼は、静かで優しかった。


お昼を食べ終わり。


サンドイッチの包みを片付け、レジャーシートを畳む。


「よしっ」


真尋が立ち上がる。


「次はお家の方だね」


「うん」


凪も頷いた。


社へ吹く風は、少しずつ昼の暖かさを帯びている。


ミミは階段の上から、静かに二人を見送っていた。


「また来るね、ミミちゃん!」


真尋が手を振る。


ミミは返事の代わりに、細く目を閉じた。


そして。


二人は社を後にする。


石段を下り。

木々の間を抜け。

山道を歩いていく。


来る時と違って、荷物はほとんど無くなっていた。


「軽っ!」


真尋が驚いた声を出す。


「そりゃ、カリカリ十キロ消えたからね……」


「文明ってすごい」


「荷物置いてきただけ」


真尋は笑いながら、軽くなったバッグを揺らす。


風が吹く。

葉が揺れる。

山道を抜けると、少しずつ人の生活音が聞こえ始めた。


そして。


ドールハウスの様な家が見えてくる。

かつて風間さんが住んでいた家。


今は。

凪が継いだ家。

真尋は門の前で足を止めた。


「……なんか、まだ風間さん出てきそう」


凪は静かに家を見る。


縁側。

庭。

開いた窓。


そこには確かに、まだ面影が残っていた。


ガララ……


玄関を開ける。

その瞬間。

ふわりと風が家の中を駆け抜けた。

開け放たれた窓。

揺れるカーテン。

こもっていた湿気が、ゆっくり外へ流れていく。


どこか懐かしい空気。

真尋は縁側へ座り込み、大きく伸びをした。


「ふにゃぁ〜……」


完全に気が抜けている。


凪は苦笑しながら、窓の鍵を確認して回った。


「真尋、おやつ何か食べる?」


「甘いの食べる!」


即答。


しかし。


次の瞬間。


「パンケーキ!」


そこまで勢いよく言ったあと。


「……の前に、お昼寝したい……」


目を擦る真尋。


どうやら、かなり眠いらしい。

社で動き回り、石段も登った。

さらに朝から食べ続けている。

眠くなるのも当然だった。


凪は少し笑う。


「寝れば?」


「うん……五分だけ……」


そう言いながら。


真尋はそのまま、ソファへごろんと横になった。


「五分で起きないやつ……」


凪が呆れたように呟く。

風が吹く。


真尋の短いピンク髪が、さらりと揺れた。

気持ち良さそうに目を閉じる真尋。


五分後。


「……」

真尋は起きなかった。


風に揺れるカーテン。

静かな部屋。


真尋はタオルケットに包まり、すやすや眠っている。


「ふふ……やっぱり起きない」


凪は小さく笑った。

ずり落ちかけていたタオルケットを、そっと掛け直す。


その時。


「……うぅ……」


真尋の表情が曇る。

眉を顰め。

小さく唸るような声。


そして。


つぅ……目尻から涙が零れた。

凪の表情が少し変わる。


「……真尋?」

寝言は返ってこない。


ただ、苦しそうに顔を歪めている。

凪は静かに隣へ座った。


そして。


優しく頭を撫でる。


「……大丈夫……大丈夫だよ」


風が吹く。


カーテンが揺れる。


真尋の髪を、優しい風が撫でていく。


「……うぅ……うん……」


小さな声。


少しだけ、表情が緩む。


凪はそのまま、ゆっくり頭を撫で続けた。


真尋は時々、寂しそうな顔をする。


でも。


こうして安心したみたいに眠る姿を見ると。


少しだけ。


守ってあげたいと思ってしまう。


それから一時間ほど経った頃。


縁側を吹き抜ける風が、少しだけ涼しくなっていた。


「……ん……」


真尋がゆっくり目を開ける。


ぼんやり天井を見上げ、数回瞬きをした。


「……ふぅ……何か目が痛い……」


寝起きの掠れた声。


凪は台所から戻ってきながら、小さく笑った。


「ほら、これで顔拭いたら?」


差し出されたのは、冷たいおしぼり。


「……ん?ありがとう……」


真尋は受け取り、目元へ当てる。


次の瞬間。


「……冷たくて気持ちいい!」


ぱっと顔が明るくなる。

凪は少し得意げだった。


「冷凍で冷やしておいたよ」


「最高……」


真尋はおしぼりを頬へ押し当てながら、幸せそうに息を吐く。


凪はそんな様子を見て、少し安心したように目を細めた。


さっきまで泣いていた事を、真尋は覚えていないらしい。


「パンケーキ食べれる?」


「うん!

食べれる!」


即答。


完全復活だった。

凪は思わず笑ってしまう。


「ほんと現金」


「甘い物は世界を救う!」


真尋は元気よく立ち上がる。


その姿を見ながら、凪は静かに思う。


……夢を忘れているなら、その方がきっといい。


しばらくして。


甘い香りが、部屋の中へ広がり始める。


「できたよー」


凪が、お盆を持って戻ってきた。

テーブルへ並べられたのは。

ふわふわのパンケーキ。

三枚重ね。

横には、たっぷりのホイップクリーム。

さらに小さく切られた果物まで添えられている。


「わぁ……!」


真尋の目が一気に輝いた。


「はい、お待たせ」


凪は、湯気の立つカップも置く。


ふわりと、甘い香りが広がる。


「……紅茶?」


「いちごの紅茶。パンケーキに合うかなって」


真尋はぱちぱち瞬きをした。


「おしゃれ……」


「たまたま家にあっただけ」


「絶対慣れてる人のやつ……」


真尋はもう待ちきれない様子だった。

両手を合わせる。


「わーい!

いただきます!」


早速、パンケーキへフォークを入れる。


ふわり。


柔らかな感触。


ホイップをたっぷり付けて、ぱくり。


「ん〜〜〜っ!!」


幸せそうに身体を揺らす。


「おいしいぃ……」


凪は紅茶を飲みながら、少し笑った。


「よかった」


窓から風が吹く。

カーテンが揺れる。


午後の日差しが、部屋を柔らかく照らしていた。


食器を洗い終わり。

テーブルを片付け。

使ったタオルも畳む。


静かだった家の中に、再びゆっくりした時間が戻っていた。


「ふぅ……」


真尋が伸びをする。


「いっぱい食べた……」


「いつもの事でしょ」


凪は苦笑しながら、窓際へ向かった。


少し傾き始めた日差し。


吹き抜ける風は、来た時より少し涼しく感じる。


「さぁ、そろそろ帰る準備しよっか、真尋」


「うん!」


真尋も立ち上がる。

二人は手分けして、窓を閉めて回る。


ガララ……


古い窓が閉まる音。

カーテンを整え。

鍵を確認する。


風が通らなくなった家は、少しだけ静かになった。


真尋は最後に、縁側を振り返る。


「……なんか、

また来たくなるね」


凪は小さく頷いた。


「ここ、落ち着くから」


夕方の光が、畳を赤く染めている。

風間さんが居なくなっても。

この家にはまだ、優しい空気が残っていた。


山道を下り。


海沿いの道を歩く。

夕方の風は、昼間よりずっと涼しくなっていた。

山道を下り。

海沿いの道を歩く。

夕方の風は、昼間よりずっと涼しくなっていた。

真尋は歩きながら、また小さなタブレットを開いている。


「……」


じーっと画面を見る真尋。


凪は少し呆れたように聞く。


「また見てるの?」


「うん」


地図画面。


そこには、小さな点が一つ表示されていた。

駅周辺。

ほとんど動いていない。

真尋は苦笑する。


「護衛の影野さん……何時間駅に居るつもりなんだろ……」


「影野さんなんだ」


「うん。昔から担当の人」


真尋は少し困ったように笑う。


「絶対、近付きすぎない距離で見守るんだよね……」


「仕事熱心」


「たまに先回りしてる時ある」


「怖い怖い」


二人は笑う。

海風が吹き抜ける。


夕陽が、道をオレンジ色に染めていた。


その時。


タブレットの画面が、ぴこんと光る。


「あ」


真尋が立ち止まる。


「どうしたの?」


「影野さんからメッセージ」


真尋は画面を読む。


そして。


少し吹き出した。


「なんて?」


真尋は笑いを堪えながら答える。


「“熱中症に気を付けてください。

あと荷物重そうだったので次回は呼んでください”だって」


凪は静かに真尋を見る。


「……完全に見られてたね」


「うん……」


真尋は少し恥ずかしそうに笑った。


夕暮れの道。


二人の影が、ゆっくり伸びていた。

駅へ着く頃には、空はすっかり夕焼け色になっていた。

オレンジ色の光が小さな駅舎を照らしている。


「つかれたぁ〜……」


真尋は軽く伸びをする。


その時。


駅前へ停まっていた、黒い車のドアが静かに開いた。

スーツ姿の男性が降りてくる。


「お帰りなさいませ」


深く一礼。


真尋は苦笑した。


「影野さん……」


どうやら、先回りしていたらしい。

影野は二人へ近付き、静かに言った。


「帰りはお送りします。」


凪は少し驚く。

真尋は困ったように笑った。


「えぇ〜……電車で帰る予定だったのに」


「荷物がありますので」


そう言いながら、ちらりと真尋のバッグを見る。

真尋は少し気まずそうに視線を逸らした。


「……見てたんだ」


「途中からですが」


「ほぼ全部じゃん……」


凪は思わず笑ってしまう。


影野は表情をほとんど変えないまま、真尋の荷物を自然に持ち上げた。


軽々と。


「うわ、すご」


「慣れておりますので」


真尋はむぅっと頬を膨らませる。


「最初から頼めばよかった……」


「その方が良かったかと」


即答だった。

凪は吹き出しそうになる。

夕方の風が吹く。

駅前の木々が揺れる。


そして二人は、黒い車へ乗り込んだ。

静かなエンジン音と共に、車はゆっくり走り出す。

「観て!観て!」


帰りの車の中。


真尋が嬉しそうに、

タブレットを凪へ突き出した。


画面いっぱいに映っていたのは――。


カリカリを食べるミミ。


しかも。


かなり近い。


どうやら、

餌やり器のカメラへ顔を近付けているらしい。


「……ふふ」


凪は思わず笑った。


「可愛い……」


ミミは夢中で、

ぽりぽりカリカリを食べ続けている。


真尋は完全に悶えていた。


「あぁ〜……可愛い〜……ペット飼いたい……!」


その言葉に、凪は少しだけ真面目な顔になる。


「お世話大変だから、可愛いだけで飼わない方がいいよ」


真尋はきょとんとしたあと、小さく頷いた。


「……確かにそっか……」


タブレットを見つめながら呟く。


「最後まで面倒を見る責任あるよね」


「うん」


窓の外。


夕焼けが、静かに流れていく。


真尋は、もう一度ミミの映像を見る。


そして。


「……でも、こうやって会いに行けるのもいいね」


凪は少し微笑んだ。


「うん。

それも悪くない」


車は夕暮れの道を、静かに走っていった。

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