表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
心に風が吹く者たち  作者: もふ神留奈


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/8

『夏休みの終わりと、風の噂』

夏休みが終わった。


静かだった学校に、再び騒がしい朝が戻ってくる。


昇降口。


部活の声。


笑い声。


廊下を走る足音。


窓の外では、まだ少し強い蝉の声が響いていた。


「……うぅ、学校始まっちゃったぁ……」


机へ突っ伏す真尋。


短くなったピンク色の髪が、机の上へ広がる。


「夏休み最終日、夜更かししてたでしょ」


隣の席で、呆れたように凪が言った。


「だって宿題終わんなかったんだもん……」


「終わらせてなかったの間違い」


「ぐぅ……」


反論できず沈む真尋。


教室では、久しぶりに会う生徒達が騒いでいた。


旅行。

海。

祭り。

恋愛話。


夏休みの思い出。


そんな声をぼんやり聞きながら、真尋は窓の外を見る。


青空。

白い雲。


そして、吹き抜ける少し涼しい風。


「……夏、終わっちゃうね」


ぽつりと真尋が言う。


凪も静かに窓の外を見た。


「……まだ暑いけどね」


「でも風は秋っぽい」


その時。


ガタッ!


教室後ろの窓が突然揺れた。


「うわっ!?」


数人の生徒が驚く。


けれど。


風は吹いていない。


「……?」


真尋が振り返る。


すると。


「ねぇねぇ聞いた?」


後ろの女子生徒達が、ひそひそ話していた。


「また?」


「今度はなに?」


「第二校舎の階段!」


その言葉に、真尋の耳がぴくりと動く。


「夕方になると、上から誰か降りてくる音がするんだって」


「でも誰も居ないらしいよ」


「え、やだ怖……」


その瞬間。


真尋と凪の目が合う。


数秒の沈黙。


そして。


真尋がニヤリと笑った。


「……凪ちゃん」


「……嫌な予感しかしない」


「放課後、部室集合ね!」


「決定なんだ……」


小さくため息を吐く凪。


窓から風が吹く。


カーテンが揺れた。


まるで。


新しい“不思議”が、二人を呼んでいるようだった。

キーンコーンカーンコーン――。


予鈴が校舎へ響く。


「それじゃ、わたし戻るね」


凪は椅子から立ち上がった。

真尋は頬杖をつきながら、ひらひら手を振る。


「うん、また放課後ね〜」


教室の扉へ向かう凪。

その途中。


「……お化けだけはやだな……」


ぼそり。

小さく呟く。


「ん?」


「なんでもない!」


ぴしゃりと言い切り、少し早足で廊下へ出ていった。

真尋はその背中を見送りながら、くすりと笑う。


「凪ちゃん、

ほんと苦手なんだなぁ」


窓から風が吹く。

カーテンがふわりと揺れた。


夏の終わり。


だけど学校は、もういつもの日常へ戻っていた。

授業。

チャイム。


黒板を走るチョーク。


退屈そうな声。


その中で真尋は、ノートの端へ小さく文字を書く。


『第二校舎の階段』


その下へ丸を描いた。


――放課後。


夕陽が校舎を赤く染め始める。


ガラガラ――。


古い部室の扉が開く。


「おまたせ〜」


真尋が入ってくる。


机には既に、凪が座っていた。


「……遅い」


「先生に捕まってた」


真尋は荷物を机へ置く。

扇風機が回る。


カタカタと古い音を立てながら、ぬるい風を送っていた。


「で、どうする?」


凪が聞く。

真尋はニヤリと笑った。


「もちろん調査!」


「……はぁ」


深いため息。

だが。


凪はもう帰ろうとはしない。

真尋は鞄から、学校の簡単な見取り図を取り出した。


「噂の場所は第二校舎の北階段。

夕方になると――」


トン。


指を置く。


「上から“誰か”が降りてくる音がする」


部室の窓が、カタリと鳴った。

凪の肩がぴくりと跳ねる。

真尋はそれを見て、少し笑いを堪えた。


ガタッ。


真尋が勢いよく立ち上がる。


「よし、行こ!」


「……はやい」


凪は呆れたように言いながらも、鞄を肩へ掛けた。


部室の窓から、夕方の風が吹き込む。


カーテンがふわりと揺れた。


西日で赤く染まる校舎。


昼間の騒がしさは少しずつ消え、

部活動の声だけが遠く聞こえていた。


ガラガラ――。


部室を出る二人。

廊下を歩く。


「で、その噂って誰から聞いたの?」


凪が聞く。


「クラスの女子達」


「信憑性は?」


「“友達が聴いたらしい”!」


「それ、一番広がるタイプの噂……」


真尋は楽しそうに笑う。


「でも実際、音はしてるみたいなんだよね」


「まぁ、何かしら原因はあると思うけど……」


階段を降りる。

渡り廊下へ出る。


外の空気は、昼より少し涼しくなっていた。


グラウンドでは、まだ運動部が活動している。


その横を抜け、二人は第二校舎へ向かう。


第二校舎。


古いコンクリートの壁。

少し黄ばんだ窓。


本校舎より、どこか静かな空気。


「……やっぱここ、ちょっと怖い」


凪が小さく呟く。


「えー?昼間は普通じゃない?」


「夕方だから嫌なの……」


真尋はくすりと笑う。

その時。


コツ……


小さな音。

二人が足を止める。


コツ……コツ……


上の階。


誰かが、ゆっくり階段を降りてくるような音。

凪の顔が固まる。


「……真尋」


「うん、聴こえるね」


静かな校舎。

風も無い。

なのに。


コツ……コツ……


一定の間隔で、音だけが響いていた。


コツ……コツ……


音を追うように、真尋がずんずん進んでいく。


「ちょ、ちょっと待って真尋!」


凪は慌てて後を追う。


第二校舎の階段。


夕陽が窓から差し込み、長い影を作っていた。


コツ……


音は上から。

真尋は迷いなく階段を上がる。


一段。

また一段。


凪はどこか怯えた様子で、きょろきょろ周囲を見回していた。


「……絶対居るってぇ……」


「居ない居ない」


「その根拠のない大丈夫やめて……」


最上階。

踊り場へ辿り着く。


音は、そこでぴたりと止まった。


静寂。


真尋は辺りを見回す。


窓。

古い壁。

天井。


そして、少し開いた旧校舎へ続く連絡通路。


そこから。


ガン……!


工事音。


続いて。


ギギギ……


金属が軋む音。


それが、階段へ響く。


コツ……コツ……


反響した音が、まるで誰かの足音のように聞こえていた。


「……あ」


凪も気付いたように、連絡通路を見る。


真尋は呆れたように肩を落とした。


「なんだ……旧校舎の改装音の反響音か……」


つまらなそうに言う。


「つまんない……」


「私は安心したんだけど……」


凪は本気でほっとした顔をしていた。


その時。


ヒュウ――……


窓の隙間から、風が吹き込む。


すると。


カン……


階段の下から、小さな音が響いた。


二人が振り返る。

誰も居ない階段。


夕暮れだけが、静かに伸びていた。


「……まぁ、今回はこれで解決かな」


真尋は階段の手すりへ寄りかかりながら言う。


凪はほっとしたように息を吐いた。


「よかった……」


「凪ちゃん、ほんとお化け苦手だね」


「だから違うって……」


むぅっとした顔をする凪。


その時。


「あ、そうだ」


凪が思い出したように顔を上げた。


「次の土曜日、社の掃除行くけど一緒に行く?」


「社?」


「うん。

風間さんのところ」


その名前に、真尋の表情が少し柔らかくなる。


「ちょっと待ってね……」


真尋は鞄から小さなメモ帳を取り出した。


ぱらぱらとページを捲る。


どうやら予定表らしい。


「えーっと……土曜は……」


夕陽の中、真剣な顔で確認する真尋。


凪は静かに待っていた。


そして。


「うん!大丈夫!」


ぱたんとメモ帳を閉じる。


「ミミちゃんいるかな?」


その言葉に、凪は少しだけ微笑んだ。


「……どうだろ」


夏休みが終わってから、まだ社へは行っていない。


あの白黒猫は、変わらずあそこに居るのだろうか。


窓から風が吹く。


夕暮れの空。


どこか、秋の匂いが混ざり始めていた。


「車出す?それとも電車?」


真尋が目を輝かせながら聞く。


夕陽を受けたピンク色の髪が、ふわりと揺れた。


「毎回車だと申し訳ないから、

電車かな……」


凪はそう答える。


「そっか〜」


真尋は少し考える。


「でも、駅から結構歩くよね?」


「うん。まぁ、散歩と思えば」


「秋の風感じながら?」


「……まだ夏」


「もう半分秋だよ」


真尋は窓の外を見る。


赤く染まり始めた空。


吹き抜ける風は、確かに少しだけ涼しくなっていた。


「電車かぁ〜……」


どこか楽しそうに呟く真尋。


「なんか遠足みたい」


「社の掃除なんだけど」


「でもちょっと楽しいじゃん」


真尋は笑う。


その横顔を見て、凪も少しだけ口元を緩めた。


「……お菓子持ってく?」


「持ってく!」


即答。


「あと飲み物!」


「はいはい」


二人は階段を降り始める。


夕暮れの校舎。


窓から吹き込む風。


どこか、夏休みの続きを歩いているような時間だった。



風の噂は、結局風の様に、すんなり吹き抜けて行った。


久しぶりに社へ行く


それが楽しみでならない2人

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ