終焉の咆哮へ
アデラがフォルモーネ公爵邸に戻ってから数日、ようやく屋敷に静けさが戻り始めた頃、王宮から一通の封書が届けられた。王室の紋章が刻まれた重厚な書翰。息を呑みながら中身を見ると、王の署名とともに、簡潔な文が綴られていた。
──アデラの処遇に関する決定。王宮へ参上せよ。
かすかに震える手でその文を読み返し、アデラは静かに目を閉じた。予感はあった。だが、その時が本当に来たことを、心のどこかでまだ信じたくなかったのだ。
謁見の間は異様なほど静まり返っていた。まるで、空気そのものが重たく張り詰めているようだった。
スヴェーリエ王の視線は鋭く、威圧感に満ちていた。彼はアデラの挨拶に短く頷くと、言葉少なに言い放った。
「アンドレ……否、アデラ。お前が女であったこと、すでに王国中に知れ渡っておる。騎士団の威信、貴族たちの信頼──そして国の威光に関わる問題だ。」
アデラは下を向かず、その視線をまっすぐに受け止めた。言い訳も反論も意味をなさないと理解していた。ただ、静かに、気高くその言葉を受け入れる。
「だが、我はお前を敵とは思わぬ。むしろ、あの混乱の中で城を守った功績、そして忠誠は忘れてはおらぬ。ゆえに、試練を与える。」
王は一拍置いて続けた。
「『終焉の咆哮』──王家の記録にも残る、北の凍てつく森。そこに封じられし古の宝石を持ち帰って来い。それをもって、王家への忠誠を示すのだ。」
アデラの口元がきゅっと引き結ばれた。
「……謹んでお受けします。」
「ただし、同行者は許されぬ。これは、お前一人の任務だ。」
その言葉に、謁見の間の空気がさらに冷たく張り詰めた。
だいたい予想はつく、宰相が言ったのだろう。
終焉の咆哮とは別名「帰還なき森」一年中、寒く、雪が降り吹雪とともに竜が鳴くという言い伝えがある森だ。宝石もあるかわからない。
──帰ってこられる者などいない。
それが、この命令に込められた、黙示録のような意味だった。




