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契約結婚と仮面舞踏会  作者: 槙月まき
真実の石

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59/91

判決と企み

 銀の粉が静かに消えたあと、大聖堂には重たい沈黙が降りていた。


 それは、あまりに現実離れした光景だった。誰もが信じがたい思いで目の前を見つめていた。

 つい先ほどまで王の前に毅然と立ち、鋭い視線と揺るぎない声で国を正そうとしていた男──「アンドレ」の姿はもうどこにもなかった。


 残されていたのは、まるで月夜に現れる幻のような、儚くも凛とした銀髪の女性。


 彼女の名は、アデラ・フォルモーネ。


 透き通るような青い瞳は、この場にいる誰よりもまっすぐで、一切の迷いを感じさせなかった。その表情には恐れも逃避もなく、すべてを受け入れる者の覚悟が宿っていた。


 アデラは一歩、王に近づき、ひざを折り、深く頭を垂れる。


「もう一度、名乗らせていただきます。」


 その声は静かだったが、不思議と大聖堂の隅々まで響いた。


「私は、フォルモーネ公爵家正統後継者、アデラ・フォルモーネ。騎士団長になるため、『アンドレ』という偽りの名のもと、男として生きることを選びました。」


 一瞬の間のあと、大聖堂内にどよめきが走った。


「な、なんだと……?」


「女だと……?」


 中には怒りをあらわにする者もいた。


「ふざけるな!我らを欺いていたというのか!」


「偽りの名で王の前に立つとは、何たる背信……!」


 だがその中に、震えるような声で反論する者もいた。


「……でも、アンドレ様、いや……アデラ様は、私たちの命を何度も救ってくれた!」


「彼女の剣は、いつも正義のために振るわれていたはずだ!」


「女であろうと、関係ない!あの人は俺たちの長だ!」


 罵声と擁護の声が交錯する中、大聖堂はまるで感情の渦に呑まれていくようだった。


 その混乱を鎮めたのは、玉座に座る王の静かな一声だった。

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