判決と企み
銀の粉が静かに消えたあと、大聖堂には重たい沈黙が降りていた。
それは、あまりに現実離れした光景だった。誰もが信じがたい思いで目の前を見つめていた。
つい先ほどまで王の前に毅然と立ち、鋭い視線と揺るぎない声で国を正そうとしていた男──「アンドレ」の姿はもうどこにもなかった。
残されていたのは、まるで月夜に現れる幻のような、儚くも凛とした銀髪の女性。
彼女の名は、アデラ・フォルモーネ。
透き通るような青い瞳は、この場にいる誰よりもまっすぐで、一切の迷いを感じさせなかった。その表情には恐れも逃避もなく、すべてを受け入れる者の覚悟が宿っていた。
アデラは一歩、王に近づき、ひざを折り、深く頭を垂れる。
「もう一度、名乗らせていただきます。」
その声は静かだったが、不思議と大聖堂の隅々まで響いた。
「私は、フォルモーネ公爵家正統後継者、アデラ・フォルモーネ。騎士団長になるため、『アンドレ』という偽りの名のもと、男として生きることを選びました。」
一瞬の間のあと、大聖堂内にどよめきが走った。
「な、なんだと……?」
「女だと……?」
中には怒りをあらわにする者もいた。
「ふざけるな!我らを欺いていたというのか!」
「偽りの名で王の前に立つとは、何たる背信……!」
だがその中に、震えるような声で反論する者もいた。
「……でも、アンドレ様、いや……アデラ様は、私たちの命を何度も救ってくれた!」
「彼女の剣は、いつも正義のために振るわれていたはずだ!」
「女であろうと、関係ない!あの人は俺たちの長だ!」
罵声と擁護の声が交錯する中、大聖堂はまるで感情の渦に呑まれていくようだった。
その混乱を鎮めたのは、玉座に座る王の静かな一声だった。




