剣なき騎士と神殿の裁き③
そして、翌日。
スヴェーリエ大聖堂の前には、朝早くから人の波が押し寄せていた。
荘厳な白亜の大聖堂の階段には、王族、王宮騎士団、宰相とその取り巻き、名のある貴族たち、アンドレを応援する令嬢方やファンクラブの面々、非番の騎士たち、さらには好奇心旺盛な平民や新聞記者までもが集まっている。
もはや、これは「裁判」ではない。公開処刑にも等しい「見せ物」だった。
そして、大聖堂の大扉が開き、騎士たちに囲まれたアンドレが現れた瞬間──
「キャアアアアアアッ!アンドレ様よ!」
「なんて凛々しいの……っ!」
「陰謀に巻き込まれてもなおあの瞳……、高潔の極み……!」
黄色い声が一斉にあがり、あたりが沸き立つ。まるで舞踏会に現れた王子のような扱いに、護衛の騎士たちが苦い顔をする。
一応、アンドレは参考人でなければ観客でもなく護衛でもない。被疑者の立場でここにいるのである。
一方、貴族たちはひそひそと声を潜める。
「どういうことだ……。これはただの騒動ではないのか?」
「わざわざ大聖堂とは……誰が仕組んだのだ……?」
「まさか、彼を陥れるために宰相が……?」
熱狂と猜疑が渦巻く中、アンドレはただ静かに、大聖堂の奥へと足を踏み入れた。
その背筋は真っすぐに伸び、気品と誇りを失っていなかった。
たとえ、どれほど理不尽な運命に晒されようとも。
重厚な扉が軋むように開かれる音が、スヴェーリエ大聖堂の静寂を裂いた。
石造りの厳粛な大空間に、アンドレの姿が現れる。陽の差さない堂内に、天井の高窓から神々しい光が射し、中央の大理石の通路を照らしていた。
アンドレの足取りは落ち着いていた。だが、心の中では怒りとも焦燥ともつかぬ感情が燃えていた。
(まるで、処刑されに来たかのようだな。だが、私は……負けない)
聖職者たちの清らかな祈りの声が響く中、アンドレは騎士に伴われ、中央の席へと導かれる。被告席とは名ばかりの場所──それは、すべての視線を一点に集める、舞台の中心だった。
傍聴席には煌びやかな衣を纏った貴族たち、そして政敵たちの顔も見える。中にはフォルモーネ公爵家の旗印を持つ者もいるが、家の者たちはいない。まだ面会は許されていないのだろう。
王もいたがいつものように頼りなさそうに見える。
そんな中で、アンドレの目を引いたのは──宰相の冷ややかな視線と、王の偸安な考え方が目に見えてわかるような態度だった。
(あれが、俺を陥れた張本人か……?あの目……他人の運命を弄ぶことを楽しんでいる)




