剣なき騎士と神殿の裁き④
審問官が進み出て、声高に告発の文を読み上げた。
「アンドレ・フォルモーネ。貴殿は王宮襲撃事件に関与し、その扉を開いた疑いがある。この行いは王家への反逆に等しく、最大級の罪とするものである──。」
周囲がざわついた。だがアンドレは顔色一つ変えなかった。事実無根であることを誰よりも知っているからだ。
(……罠にしては雑だな。証拠を捏造してでも罪を着せたいという焦りか。もしかして、俺の力を……恐れている?)
神殿に設けられた「真実の石」の前に立つよう命じられる。これはサンニー女神の神託を受けるための儀式で、祈りを捧げながら、偽りの言葉を述べると石が赤く染まるようになっている。
神話めいているが、実際はその場の空気や人心を操るための「儀式」に過ぎない。とされているが、本当に嘘をつくと赤く染まることは上流貴族のみが知ることであった。
それでも、アンドレは真っ直ぐに石の前に立ち、静かに目を閉じた。
「この身に、偽りなし──私は、王宮襲撃に一切関与していない。」
……何も起こらない……。
石は沈黙を保っていた。光も、赤も、何一つ反応しない。
けれど、審問官はそれを無視するように書類をめくった。
「神託が下されなかったとしても、証拠がある。王族のみが使用を許されている扉に確かにアンドレ殿が使用した形跡があった。その証拠として鍵がフォルモーネ公爵家から見つかった。」
どよめきが起きる。アンドレの眉がわずかに動いた。
扉とは一種の隠語のようなもので王族のみが襲撃などの緊急事態に逃れるために使用する隠し通路のようなものであった。だが、その隠し通路を王族以外が使用する場合は鍵が必要であった。
(扉……?王族の持つ扉は、すなわち隠し通路のことだろう。鍵は厳重に保管してあったはず。盗まれたのか?それとも、偽物か……?)
すでに「有罪ありき」で裁判が進められている気配があった。冷静でいなければならない──そう思えば思うほど、心が焦っていく。
すると、そのとき。
大聖堂の外から、鋭く、だが清冽な声が響いた。
「待ってください!その証拠、精査が不十分です!」
場内が驚きに揺れた。
人々の視線が大聖堂の扉に集まる中、堂々と現れたのは──
フォルモーネ公爵家の若き政務見習いのアス──いや、エリアスだった。
彼は、自らの正体を隠して裁判の場に乗り込んできたのだ。フォルモーネ公爵家のものはこの会場には入ることができない。しかし、アスはまだ、見習いの立場であり、エリアスの仮の姿として公爵家でのみ働いていたため、王宮の騎士にはわからなかったのだ。
堂内が凍りつくような緊張に包まれる中、彼の声が響いた。
「その鍵──そもそも、スヴェーリエ王国の正式な印章が刻まれていません。偽造されたものです。証拠としては不十分です!」
──そして、その瞬間。
アンドレの胸に、光が差した。
(アス……いや、「エリアス」。あなたが来てくれたのですね……!)
反撃の狼煙が、今、上がろうとしていた──。




