揺れる心と告白
火の手が消えた王宮の庭には、焦げた草の匂いがまだ微かに漂っていた。
襲撃者たちは撤退し、大きな被害こそなかったものの、これはただの偶発的な襲撃ではなく、王族への明確な敵意の表れとみな、受け止めていた。
アンドレ──いや、アデラは屋敷の中庭で冷たい夜風を浴びながら、沈んだ表情で空を仰ぐ。
(王宮を狙った襲撃……これは一体、誰の仕業だ?それに、公爵家を狙った可能性がある……)
他国からか、それとも国内分裂なのか?
フォルモーネ公爵家が襲撃にあった理由は?王宮と同じときということはわざとか、いや、偶然なのか?
騎士を分断させたかった?それとも王宮に私と父を向かわせて公爵家への襲撃が目標だった?
フォルモーネ公爵家を狙う理由は──
政治的な対立の結果か、それとも自分を排除したい何者かの陰謀か──考えられる可能性はいくつでもあった。
しかし、最も気にかかるのは、彼女自身ではなく「エイラ」を狙った可能性もあることだった。
「──あなたらしくないですね。」
不意に聞こえた優しい声に、アンドレは顔を上げる。
そこには、優雅な微笑みを浮かべた「エイラ」が立っていた。
「こんなところで一人で考え込むなんて、らしくないですよ。」
「……あなたに言われるとは……。それに、今はその格好なのですね。」
アンドレは皮肉めいた笑みを浮かべたが、その瞳は真剣なままだった。
エリアスは静かに近づき、アンドレの隣に腰を下ろす。
「ええ、襲撃のことがあり、「エイラ様」は無事かと言われてしまったので。」
その言葉にアンドレはなにも返すことができなかった。
そんなアンドレのことを察してか、エリアスが切り出した。
「襲撃のこと、考えていたんですか?」
「当然だ。王宮を狙ったのか、それとも……。」
「公爵家を狙ったの、か?」
エリアスの声は穏やかだったが、確信を突くような鋭さがあった。
エリアスは自分が狙われた可能性があることもわかっているように見えた。
アンドレは沈黙する。
エリアスもまた、しばらく口を閉ざしていたが、やがて夜空を見上げながらぽつりと呟いた。
「私はね、アデラ。初めてあなたと契約結婚を決めたとき、「これはうまくいく」と思ったんですよ。」
「……何が言いたいのですか?」
「あなたは家のために男として生き、私は家のために「エイラ」として生きる。この関係なら、お互いに干渉せず、適度な距離を保てるはずだった。」
エリアスは静かに笑う。
「でもね……それが間違いだったと、今は思うんです。」
アンドレは彼の横顔をじっと見つめた。
「何が……間違いだった?」
「……あなたを好きになってしまったこと。」




