本当の夫婦になるために②
エルアスは忙しなく動いていた手を止める。
それにつられて、アンドレもペンを置いた。
「私がまだ、姉として生きてなかったころ、エリアスとして生活していたときのことです。街に出かけて迷子になったことがあります。そのとき、声をかけてくれた少女がいました。その子の夢は『騎士団長』になることだそうです。私はその言葉に笑いました。女性は騎士団長にはなれないっとね。」
その言葉を聞くアンドレは思った。
(私と同じ考えの女性がいたと思うと嬉しい)
「その様子だとまだ、あなたは気づいてくださらないのですね。」
その言葉に疑問を持つアンドレを他所にエリアスは続けた。
「その子はこう続きました。『私が騎士団長になるからそのとき私の軍師になってよ!』とね。アンドレ、あなたが私に教えてくれたのですよ。目標に性別など関係ない。『やる前に諦めることは意気地無しのすること』。
私は確かに男です。ですが、妻の役割をしても良いと思っています。それに私は夢を叶えている途中なのですよ?あなたを支えることのできる人物になる。その覚悟があります。」
「……。」
「だから、今こうしてエイラとしてあなたの隣であなたを支えながら生きられることが、私は嬉しいのです。そして、私はあなたに昔から今までずっと恋をしています。」
そう言って微笑む彼を見て、アンドレは複雑な気持ちになった。
──だが、その時。
エリアスがふと真剣な表情に戻り、静かに口を開いた。
「この想いが迷惑なことはわかっています。ですが、伝えたかったのです。
アンドレ、あなたには私がどう見えているでしょうか?」
エリアスは真剣なでも、不安そうな声を出しながら、まっすぐアンドレ見つめる。
「契約結婚の相手? それとも……本当の夫婦?」
アンドレは息を呑んだ。
今まで、ずっと目を逸らしてきた。
契約結婚だから、深く考えないようにしていた。
だが──
「私は……。」
言葉が出てこない。
エリアスは笑顔を絶やさなかった。
しかし、その顔に浮かんだ笑みには、どこか哀しげで心の中で何かが崩れかけているようだった。
「大丈夫ですよ。」
彼はそっとアンドレの手を握る。
「答えは、ゆっくりでいいです。悩んでください。」
その温もりを感じた瞬間、アンドレは心の中に秘めていた『もうひとつの秘密』を隠し続けることに、強い罪悪感を覚えた。
エリアスが本当の姿を見せてくれたのに、自分はまだ偽りのままでいる。
このままでは、本当の夫婦にはなれない。気持ちが伝わるはずがない。
アンドレは拳を握りしめ、決意した。
「エリアス……あなたに、話さなければならないことがあります。」
「……?」
「私は……本当の姿は『男性』ではありません。」




