新たな役割
「エイラは体調がすぐれないため、しばらくの間、公の場には出席しない。皆は、エイラのサポートをしてくれ。」
アンドレは、そう使用人たちに伝えた。
「かしこまりました。」
屋敷の使用人たちは当然のことのように受け入れる。
もともと、エイラは病弱な姫君として知られていた。
婚約から結婚までの間、普段とは違い、何度も社交界に顔を出した。疲れるのもわかる。
さらに、最低限だったがお世話をする侍女はエイラの顔色が悪いことを察していた。
「いずれ体調が回復されることを心からお祈りしております。」
そう言って執事と侍女が静かに頭を下げる。
だが、それは建前だ。
本当の理由は、エイラとして生きていたエリアスが薬を飲み、体調がさらに悪くなることを避ける為だ。
「……でも、これでは申し訳ないです。」
夜、アンドレの書斎にエリアスが訪れ、そう言った。
「申し訳ない?」
アンドレは片付けていた書類を机の上に置きながら、エリアスを見上げる。
「今まで表向きの貴族の妻としての務めを果たしてきたのはエイラでした。しかし、その役割ができないとなると、あなたの妻は『存在しない』のと同じことになってしまいます……。」
エリアスはどこか居心地が悪そうに手を組む。
アンドレは眉をひそめた。
「別に、気にする必要はありません。エリアスが無理をすることはないです。それに私一人でもなんとかできなければ、それこそ『夫』失格でしょう。」
「でも……それでは、あなたにすべての負担がかかるでしょう?」
エリアスは真剣な表情でアンドレを見つめた。
「公爵家の仕事はたくさんあるはずです。よそ者の私ですが、こんな私にもできることはあります。」
アンドレは一瞬、エリアスの言葉に戸惑った。
「……エリアス、まさか……。」
「公爵家の管理を、手伝わせてくれませんか?頭には多少自信があります。公爵家の不利になることはしないと誓います。」
アンドレは驚きに目を見開いた。
「あなたが、公爵家の内部の仕事を手伝う?」
「ええ。貴族の妻としての務めを果たせないなら、せめて公爵家を支える仕事をしたいのです。」




