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契約結婚と仮面舞踏会  作者: 槙月まき
見せかけの夫婦

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20/91

揺れる境界線

 婚約披露宴が終わった後も、アンドレとエイラは社交界で理想の夫婦として扱われ続けていた。貴族たちは彼らの関係を賞賛し、祝福の言葉を送る。

 しかし、それはただの表面上のものであり、二人にとっては「契約」の一部に過ぎなかった。


 そして迎えた、とある夜。


 婚約発表後の最初の公式な晩餐会に出席するため、エイラは広い鏡の前でドレスの裾を整えていた。薄紫のシルクのドレスは彼の華奢な体を引き立て、鏡の中の「令嬢」は完璧なまでに美しく仕上がっていた。


 しかし──


(……まるで、私ではない誰かみたい)


 鏡越しに映る自分の姿を見つめながら、エリアスはふとそんな考えを抱いた。


 彼は幼い頃から「エイラ」として生きることを余儀なくされてきた。だが、それはあくまで家を守るための仮面であり、本来の自分とは異なる存在だった。


 それでも、これまではそれで問題なかった。


 けれども今──「夫」として堂々と振る舞うアンドレの隣に立つたびに、彼の中で小さな違和感が芽生えていた。


(アンドレは、公爵子息として完璧であり、彼は堂々としていて……まるで、本当に”公爵家の跡継ぎ”として不自由なく生きているように見える)


 一方、自分はどうだろう?


(私は……このままでいいの?)


 その時、控室の扉がノックされた。


「準備はできましたか?」


 アンドレの声が響く。


 エリアスは小さく息を吐き、いつもの優雅な笑みを浮かべながら扉を開けた。


「お待たせしましたわ、ご主人様。」


「……よく似合っていますね。」


 アンドレは一瞬、エリアスの姿をじっと見つめた。


 それは、今まで何度も交わしたはずの言葉だった。


 けれども、なぜかこの時だけは、その視線がいつもより少しだけ長く感じられた。






 晩餐会の会場では、多くの貴族たちが二人の到着を待ち構えていた。


「まぁ! なんてお似合いのご夫婦なのかしら!」


「まるで、絵画から抜け出したようですわね。」


「アンドレ様は今宵も麗しい……エイラ様が羨ましいわ。」


 貴族たちの視線が二人に集まる中、アンドレは自然な仕草でエイラの腰に手を添えた。


「……っ!」


 それは公爵家の跡継ぎとして、堂々と夫婦らしさを演出するための行動。


 だが、エリアスはそのぬくもりに、思わず体を強張らせた。


(おかしい……今まで誰かに触れられることなんて、何度もあったのに)


 なぜか、アンドレに触れられると、それが妙に意識されてしまう。


「どうかしましたか?」


 アンドレが小さく囁く。


 エリアスはすぐに微笑みを作り、軽く首を振った。


「いえ、なんでもありませんわ」


 何も問題はない。


 これは契約結婚。


 ただの演技。


 そう──演技のはずなのに、どうしてこんなにも胸がざわつくのだろう?

 お久しぶりです。


 大阪旅行に行っていました。

 初の大阪、お好み焼き、たこ焼き、串カツどれも美味しかったです!

 また行きたいな。 2025.3.29

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