揺れる境界線
婚約披露宴が終わった後も、アンドレとエイラは社交界で理想の夫婦として扱われ続けていた。貴族たちは彼らの関係を賞賛し、祝福の言葉を送る。
しかし、それはただの表面上のものであり、二人にとっては「契約」の一部に過ぎなかった。
そして迎えた、とある夜。
婚約発表後の最初の公式な晩餐会に出席するため、エイラは広い鏡の前でドレスの裾を整えていた。薄紫のシルクのドレスは彼の華奢な体を引き立て、鏡の中の「令嬢」は完璧なまでに美しく仕上がっていた。
しかし──
(……まるで、私ではない誰かみたい)
鏡越しに映る自分の姿を見つめながら、エリアスはふとそんな考えを抱いた。
彼は幼い頃から「エイラ」として生きることを余儀なくされてきた。だが、それはあくまで家を守るための仮面であり、本来の自分とは異なる存在だった。
それでも、これまではそれで問題なかった。
けれども今──「夫」として堂々と振る舞うアンドレの隣に立つたびに、彼の中で小さな違和感が芽生えていた。
(アンドレは、公爵子息として完璧であり、彼は堂々としていて……まるで、本当に”公爵家の跡継ぎ”として不自由なく生きているように見える)
一方、自分はどうだろう?
(私は……このままでいいの?)
その時、控室の扉がノックされた。
「準備はできましたか?」
アンドレの声が響く。
エリアスは小さく息を吐き、いつもの優雅な笑みを浮かべながら扉を開けた。
「お待たせしましたわ、ご主人様。」
「……よく似合っていますね。」
アンドレは一瞬、エリアスの姿をじっと見つめた。
それは、今まで何度も交わしたはずの言葉だった。
けれども、なぜかこの時だけは、その視線がいつもより少しだけ長く感じられた。
晩餐会の会場では、多くの貴族たちが二人の到着を待ち構えていた。
「まぁ! なんてお似合いのご夫婦なのかしら!」
「まるで、絵画から抜け出したようですわね。」
「アンドレ様は今宵も麗しい……エイラ様が羨ましいわ。」
貴族たちの視線が二人に集まる中、アンドレは自然な仕草でエイラの腰に手を添えた。
「……っ!」
それは公爵家の跡継ぎとして、堂々と夫婦らしさを演出するための行動。
だが、エリアスはそのぬくもりに、思わず体を強張らせた。
(おかしい……今まで誰かに触れられることなんて、何度もあったのに)
なぜか、アンドレに触れられると、それが妙に意識されてしまう。
「どうかしましたか?」
アンドレが小さく囁く。
エリアスはすぐに微笑みを作り、軽く首を振った。
「いえ、なんでもありませんわ」
何も問題はない。
これは契約結婚。
ただの演技。
そう──演技のはずなのに、どうしてこんなにも胸がざわつくのだろう?
お久しぶりです。
大阪旅行に行っていました。
初の大阪、お好み焼き、たこ焼き、串カツどれも美味しかったです!
また行きたいな。 2025.3.29




