仮面で隠された想い③
音楽が流れ始め、二人は優雅に踊り出す。
軽やかなステップを踏みながら、アンドレはそっと耳打ちした。
「……どうです? 夫婦として見えているでしょうか?」
「ええ、とても。それに、あなたのエスコートはなかなかのものですわ。」
エイラは微笑んだが、その目にはどこか戸惑いが浮かんでいた。
(こうして夫婦として振る舞うのは当然のはずなのに……どうして、少しだけ心がざわつくのかしら?)
彼はこれまで、貴族の令嬢として数えきれないほどの舞踏会に参加し、男性と踊ってきた。だが、今こうしてアンドレと踊る時間は、どこか特別に感じられた。
一方、アンドレもまた、エイラの手のぬくもりを意識していた。
(これは契約だ。私は公爵家のために男装を続けるため、自身の秘密を守るために結婚した。それだけの関係のはずだ)
だが──
「……あなた、思ったより軽いですね。体調は大丈夫ですか?」
「なっ……!?」
アンドレの何気ない一言に、エリアスは驚き、足をもつれさせそうになった。
今のエリアスは「エイラ」であるが、これまで、男として軽いと言われて良い気持ちはしないと思っていた。だが、アンドレに軽いと言われれ、体調を心配されればそれも悪くないと感じた。
エイラすぐに体勢を立て直し、取り繕うように微笑む。
「まぁ、旦那様ったら。そんなことを言って、私をからかうおつもり?」
「いえ、事実を言ったまでですよ。華奢な方だとは思っていましたが……踊ってみると、想像以上に軽い。」
「……失礼ですわね。」
エリアスはぷいっと横を向いたが、耳がほんのりと赤く染まっていた。それを見たアンドレは、なぜかくすぐったい気持ちになる。
確かに毎日のように体調はすぐれない。だが、それはエリアスにとってはいつものこと。
言葉での心配はされてきたが、ここまで気づかってくれた人はいなかった。
(なぜ、こんな些細なことで気を取られる?)
これは契約結婚。ただの形式的な関係。
しかし、アンドレに心配してもらえたことがとても嬉しかった。
アンドレもまた、女性のことを心配することはあったが、自分から声をかけることはなかった。だが、エイラに不調があるならば、取り除かなければならない、休ませなければと思った。
仮面の下で芽生え始めたこの小さな感情の正体を、二人はまだ知る由もない。
「夫」として振る舞うアデラと、「妻」としての役割に戸惑うエリアス。
その間に生まれる微妙な変化──。




