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契約結婚と仮面舞踏会  作者: 槙月まき
見せかけの夫婦

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19/91

仮面で隠された想い③

 音楽が流れ始め、二人は優雅に踊り出す。


 軽やかなステップを踏みながら、アンドレはそっと耳打ちした。


「……どうです? 夫婦として見えているでしょうか?」


「ええ、とても。それに、あなたのエスコートはなかなかのものですわ。」


 エイラは微笑んだが、その目にはどこか戸惑いが浮かんでいた。


(こうして夫婦として振る舞うのは当然のはずなのに……どうして、少しだけ心がざわつくのかしら?)


 彼はこれまで、貴族の令嬢として数えきれないほどの舞踏会に参加し、男性と踊ってきた。だが、今こうしてアンドレと踊る時間は、どこか特別に感じられた。


 一方、アンドレもまた、エイラの手のぬくもりを意識していた。


(これは契約だ。私は公爵家のために男装を続けるため、自身の秘密を守るために結婚した。それだけの関係のはずだ)


 だが──




「……あなた、思ったより軽いですね。体調は大丈夫ですか?」


「なっ……!?」


 アンドレの何気ない一言に、エリアスは驚き、足をもつれさせそうになった。


 今のエリアスは「エイラ」であるが、これまで、男として軽いと言われて良い気持ちはしないと思っていた。だが、アンドレに軽いと言われれ、体調を心配されればそれも悪くないと感じた。


 エイラすぐに体勢を立て直し、取り繕うように微笑む。


「まぁ、旦那様ったら。そんなことを言って、私をからかうおつもり?」


「いえ、事実を言ったまでですよ。華奢な方だとは思っていましたが……踊ってみると、想像以上に軽い。」


「……失礼ですわね。」


 エリアスはぷいっと横を向いたが、耳がほんのりと赤く染まっていた。それを見たアンドレは、なぜかくすぐったい気持ちになる。


 確かに毎日のように体調はすぐれない。だが、それはエリアスにとってはいつものこと。


 言葉での心配はされてきたが、ここまで気づかってくれた人はいなかった。


(なぜ、こんな些細なことで気を取られる?)


 これは契約結婚。ただの形式的な関係。


 しかし、アンドレに心配してもらえたことがとても嬉しかった。


 アンドレもまた、女性のことを心配することはあったが、自分から声をかけることはなかった。だが、エイラに不調があるならば、取り除かなければならない、休ませなければと思った。


 仮面の下で芽生え始めたこの小さな感情の正体を、二人はまだ知る由もない。


 「夫」として振る舞うアデラと、「妻」としての役割に戸惑うエリアス。






 その間に生まれる微妙な変化──。

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