仮面で隠された想い
婚約発表から数日後、アンドレとエイラは神殿で両家の親のみので密やかに結婚の儀を行なった。
夜、アンドレとエイラの社交会、貴族に向けた婚約披露宴が盛大に執り行われる。
豪奢なシャンデリアが煌めくフォルモーネ公爵家の大広間。
無数のキャンドルが黄金の光を放ち、磨き上げられた大理石の床にゆらめく影を落とす。
会場には色とりどりの衣装を纏った貴族たちが集い、華やかな音楽とともに談笑する。
「スヴェーリエ王国一の美貌と剣術をもつフォルモーネ公爵家の若き跡継ぎと、こちらもまたスヴェーリエ王国一の淑女と謳われるオーケン伯爵家の令嬢……これほど完璧な組み合わせはないわね。」
「二人の間に愛はあるのかしら?」
「おほほ、そんなの関係ないわ。貴族の結婚は家と家の結びつきよ。」
「でも、アンドレ様、自ら伯爵家に迎えにいったそうじゃない。」
「絶対、両思いよ。」
「結婚の儀はもう行われたそうよ。」
「まあ、私拝観したかったのに!」
貴族たちは口々に噂しながら、二人の登場をまつ。
銀の食器に盛られた豪華な料理が香ばしい匂いを漂わせ、ワインの甘やかな芳香がそっと鼻をくすぐった。
そして、ついに婚約披露宴の主役たちが姿を現す。
大広間の扉が静かに開き、優雅な音が奏でる。
中央の大階段から降りてくるのは、ガラスのような繊細さと気品が溢れる霧のような美しさを持つミストブルーのドレスを見に纏い、凛とした立ち姿の「伯爵子息エリアス」──だが、彼の姿は本来のものではなかった。彼の正体は、騎士になるために家出をした伯爵令嬢エイラ、その姉に代わり今夜も「エイラ」として仮面を被っている。
その隣には、黒の生地に繊細な金の刺繍が施された燕尾服を身に纏い、堂々たる歩みで進む「公爵子息アンドレ」。しかし、彼の正体もまた偽りだった。彼は公爵令嬢アデラ──家のために男装し、「アンドレ」として生きる者。
男装の令嬢と女装の子息。
互いの秘密を知るのはこの会場にはいない。
貴族たちも誰も気づかぬまま、二人の婚約を祝福する。
舞踏会という名の社交の場で、彼らは「婚約者として利用する」という契約を交わした。
しかし、仮面の奥に隠された素顔に気づいたとき、彼らは何を選ぶのだろうか——。




