覚悟
「アアアアアアア!!!!!!!………グッ!!」
俺は、唇を噛み、心の暴走に耐えた。
唇の痛みを消すように舐めると、生ぬるい温度の鉄の味がする。
……何また暴走しようとしてんだよ……俺は。
「…ビビらせんなよ」
クロヌノが白白しく俺に話しかける…
でも、冷静になると、シーヤさんを殺したのは当然だ。
きっと、俺だって立場が違えばきっとちゃんとトドメをさす。そうしないと、自分が危ないから。
ここは殺し合いの場所で、そんな情は持ってくるべきじゃない。
そう…その通りなんだけどな…
心は無性に、今もいらだたしい。
守られて、守れなかったこと……まだ十分に強くはなかったことが、いらだたしい。
「続きをやろう」
それでも、俺は決めただろう。
幸せになることを。
「ああ、一方的な殺し合いだな!!」
ただ心を覚醒に任せるな。
自分自身で、覚悟を決めろ。
ーーーーー
家屋の上で、バレットは不利な戦いを強いられていた。
落ちればその隙に殺され、このままでも剣の小回りが聞く分この狭い空間ではあちらが上…
何とか剣を受けてはいるが、その度に傷を受け、鎧ももう役に立たないほどにボロボロだ。
一度休憩でも取るようにバレットから離れた仮面の男は、警戒しながらも挑発する。
「どうやら、勝敗は決まったようだが…?」
「知らねえよ、俺アホだからわかんねえ」
「…そうらしいな。私たちの目的を言っても伝わらんだろうが、我々は」
「知るか」
花の仮面は、イライラしながら手の指をうごうごと動かす。
落ち着いたのか、戦いに戻ろうと、剣を構え直した。
そしてそれは、誰しもが諦めるであろう場面。
「諦めろ!大人しく私たちの目的のぎせ…」
「オラアアアアア!!」
だが、やはりバレットはバカだった。
彼はまた、大剣を思いっきり下に振ったのだ。
当然家屋は破壊されて、再び二人は落下する。
(やはりバカかこいつ!?このままなら私はまた…)
そう、さっきの二の舞であり、鎧が薄い部分を切れば、おそらく殺されるだろう。
しかし、バレットは………兜を脱ぎ捨てて、ぶん投げた。
「はっア!?ハア!?」
花の仮面が驚くが、さすがに剣で振り落とす。
だが時すでに遅く…大剣が、横腹を貫くように飛んできた。
「カッ…!?」
重い音が響いた後、バレットは地面に倒れていた。
「いてて…」
それは、さっきと同じ状況…
違うとすれば……
「キャアアアアア!?」
家屋に住んでいた人間の悲鳴と…
「ク…ソ…」
花の仮面が、倒れていたことだけ。
ーーーーー
覚悟を決めたはいいが、もう体力もない。今の俺が取れる選択肢は、あまりに少ない。
「…今なら逃してやろうか?」
「遠慮する…!」
この手合いは殺すことそのものが目的だろう。逃げても後ろから刺されて死ぬのが目に見える。
……この一撃に、全てを賭けるしかない。
俺は、居合いの姿勢を取る。
「1回目がまぐれとか思っちゃったか?マヌケ」
そう、生半可な居合では、一撃目で弾かれて終わる。
だが、俺は一度ドラゴンの皮膚を貫けるほどの力を見せたはずなんだ……
心が怒り狂ってくるなら、それを制御しろ…!
怒りを、生きたいという欲望に変えて見せろ!!
「死ねえええ!!!」
「おおおお!!」
回転はしない。
龍砕によるただの居合い切り…だが、全てを賭けた居合いだ。
居合いの途中矢を肩に受けるが、止まりはしない。
「なっ!?」
「龍天!!」
クロヌノを通りすぎた俺は、今にも切れそうなほどの息をする。
すでに、クロヌノは倒れていた。
ああ、でもまずい……俺も…もう…
仮面の男の一人が、俺を狙って……
「オラァ!!」
仮面の男を、バレット団長が殴り倒した。
「団長…」
「セイスケ!これで全部片付いたぞ!」
…そうか…片付いた…か…やっぱりバレット団長は強いんだな…
一応土壇場で力を出せたとしても…俺は…
「クソ…!」
隣で、呻き声が聞こえる。クロヌノだ。
苦しそうに、腹から血を出しながら怨嗟の声を吐いている。
「クソったれ!なんでお前が…!絆の力か!?ああ!?」
絆の力なんてない。ただ、俺が生きるために奮った力だ。
「テメェら人間は、いつもそうだ…!そうやって自分達を正義に仕立て上げて、殺しを正当化して燃やし尽くして……」
正義なんてどっちにもない。殺し殺される時点で、正義なんて無い。
「……くそおお…俺が、可哀想とは思わねえのかよおお…」
…可哀想とは……今までは思ってた。でも、今は違う。
「みんな、生きるために戦っていて、俺も生きるために殺してる。少なくとも俺は、自分の意思で戦場に立ったお前ら戦士達との戦いを、誇るべきだと思ってる」
…それが、名もない戦士が、あの戦士達が教えてくれたことだ。
クロヌノは、俺の答えに動揺したあと、少し笑って、自分が巻いていた布を外す。
すると、耳が人間のものとは思えないほどに尖っていた。御伽話で聞いたことはある…
エルフの一族だ。
それでも髪の色は黒いし、耳の先は丸い。となると、こいつもハーフなんだろう。
「これやるよ……ほら、来いよ」
俺は、近づく。
すると、俺の首を掴み、クロヌノは…俺の耳元で囁いた。
「俺の……は…………………だ……」
「いい名前だな……俺は、生助。ただの生助だ」
「……ハハッ………だせえ………な……ま……え………」
俺は、もう減らず口も叩けない○○から、布を受け取った。
きっと、俺は生涯誰にも、この戦士の名を口にすることはないだろう。
もしかしたら、○○は、本当の自分のことを見て欲しかったのかもしれない。
そうでないと、最後に自分の名前を残したいだなんて思わないはずだから…
「お前も、俺と同じだったのか…?」
その答えを、俺はもう知ることはない。
そして俺は、肩からの出血のせいか、フラフラする頭を何とかしようと踏ん張るが、上手くいかず、意識が暗転していった。
「!?おい!セイスケ!?」
「バレット……さん…」
…今は……休ませ……て………




