究める者どもの塔
「誰だよ…」
尻尾にスリスリとその頬を擦り付ける奴に、俺は語りかける。
気づいたのか、こっちを見ると、目のクマが酷く灰色の髪もバラついた、女だった。
顔はいいんだろうが、日々の生活習慣のせいなのか、その表情には健康的という言葉を感じさせないものがある。
「やっ、失礼したね、うん…珍しいからね、君みたいなの、ついね、ごめんね、お話しよっか、そうすれば君の疑念も解けると思うんだよね、どう?」
喋り方も随分独特だ。
かなり句読点が多いし、スムーズとは言えないような…
まあ、関わらなきゃいい話だしな。
「いえ、それではこれで」
冷静に考えたらこのチンピラが倒れてるの、兵士にチクられるとヤバいんだよな…さっさと逃げ…
「ね、これ、この人たち、倒れてる人、言われたら困っちゃわない?君さ、ここの街の人間じゃないよね?格好からして、冒険者?傭兵とか?」
「………どこでお話しするんですか…?」
こういうのにばっかり会ってしまうのは、俺の運が悪いからに違いない。
しかし、こんな変人がどこに行こうと…
「あそこ」
そう言って、変人はあのデカい塔を指差した。
ーーーーー
それから変人と俺はデカい塔に入ることになった。なってしまった。
玄関の戸を開けると中も大分広く、レンガの中で薪が燃え、コーヒーの匂いが鼻を通る。
少し硬そうなソファもあり、くつろぐためだけに用意されたみたいな空間だ。
まあ、ここで話しってんなら快適そうかな…どうせ暇なんだし丁度よかった。
「?なに座ろうとしてるんだい?」
変人は、上の階に続く階段に足をかけていた。
…嘘だろう。
「何階にいくんですか?」
「最上階!」
「もう帰っていいすか?」
その言葉を聞いてまず帰りたい欲が出た。
こんな寒い国の、こんな高い塔の最上階?地獄が待っているのが目に見える。
「ふーん……君みたいなのって、兵士みたいなね、公的機関にもさ、偏見持たれそうだよね」
変人のくせに脅しが上手い…!
しっかり俺が逃げたらどうなるか分かるよクソッタレ…
「…分かりました」
「返事いいね、好きだよ、そういうのね」
変人は俺に笑いかける。その笑顔自体は美人そのものなんだが、他の要素が強すぎて「怪しい」が勝つ。
諦めてついていくと、案の定寒くなっていく。
「薪とか、火魔法とか使えないのか?」
「研究施設だしね、そんなのをね、使ったらさ、ヤバいでしょ?引火しちゃうよね」
そりゃあんまりに無情というか…………
いや、その前にここ、研究施設だったのか?
いや、なんとなく見当はついていたが……となるとこいつは研究者ってわけで…
世界を変革する発明者や英雄というのは変人とは聞くが……俺がその犠牲にならないことを祈っておいたほうがよさそうだな。
「さ、ついたよ?」
そう言った変人はドアを開き、俺を中に入れた。
中では白衣を着た男達が、色々な小動物に怪しげな薬を投与している。
「まさか…」
俺は変人女の方を見ると、その瞳に絶望した顔の俺が写っている。
「いや、違うから…本当にね、こっちも話しをさ、聞いてみたいだけであって…」
そう言われた俺は、渋々個室のような空間に連れ出されて、無機質な椅子に座らされる。
そして突然、変人女は注射針を取り出した。
「やっぱり俺を実験動物として飼い殺す気だな!?変人女!」
「変人おんっ…!?君礼儀っていうものは………ああいや、名前を言ってなかったか…」
随分とまあ胡散臭い笑顔で、変人女は手を差し出した。
「カルラ・フォンデリー・アルソナ…短い付き合いではあるだろうが、よろしく頼むよ」
「……生助」
カルラと名乗った女は、注射針を持ったまま…
俺が警戒していると、自分の腕にそれを刺した。
注射針の中に、トクトクと血が溜まっていくのが分かる。
その後はガーゼを腕に手際よく取り付けて、小さな紙を一枚俺に差し出した。
「これ舐めて?比較用にそれだけくれれば、簡単な質問一つだけでね、済むから」
大人しく舐めてみると、ねちょっとしたような違和感を下に感じる…
ある程度唾液を含ませたら、すぐにカルラに手渡した。こんなこと、もう二度とやらん…
「ありがとね、それじゃあさ、質問だけど、君父親と母親の種族は?」
「……母親は人間、父親は……よく知らないです」
実際、父親の代わりに先生がいてくれたわけだし、少しでも考えなかったといえば嘘にはなるが、正直どうでもいいし、考えたくない話題だ。
普通に考えれば、尻尾と鱗があるって時点で、魔物の一種であるリザードマンとのハーフだろう。
まあ、俺が暴走した時にドラゴンを退けったて言う話だし、普通の種族とは思えないけどな…
「知りたくないの?父親の所在とか」
「興味ないですよ…俺と母さんを捨てたやつのことなんて…」
多分一生、顔すら合わせることはないだろう。
よくある物語なら、父と子!感動の再会…とでもやりそうだが、実質他人なのにそんな状況になるわけもない。
気まずいだけだし、親である以上感謝はするが、会いたくはないな。
ああ…でも…
「父親の種族がなんなのかだけは知っておきたいですかね」
またいつ暴走するかも分からない。自分のことについて知っておいて損もないだろう。
「そう、じゃあ次の満月……はダメだったんだ〜…」
カルラは随分と落ち込んで憂鬱そうにため息を吐く。
「何か用事でも?」
「その日はね、よく分かんないね、組織からさ、襲撃を受ける未来がね、あるんだよ〜…」
襲撃?また物騒だな……
一応団長に話す情報になるかもしれないし、探っておくか…
「襲撃って…何か予告状でももらったり?」
「いや、私のスキル……」
スキル!?
ゲルドから聞いたことはあるが……セラミスだけじゃなかったのか…
「どんなスキルなんですか…?」
ほとんど目にかかっていた片方の前髪を上げ、美人な顔をよく晒すと、その瞳は、片方が金色に鈍く輝いていた。
「私の目には未来が写る」




