骸の魔術師
朝起きて、私たちは早速協会に来た。
カラーグさんは依頼達成の報告をしてくると受付の方に行って、私は依頼版を見ることにした。
うーん…割合がよさそうなのは…
「お嬢ちゃん、可愛いね」
隣から声が聞こえて、少しゾワっとする。
太めの声…センパイがいなくなってからは聞き慣れてるけど…これは…
ナンパというやつだ…!
「私!今から依頼を受けるので!」
そう言って、思いっきり断るように両手をパーにして前に突き出す。
フッ……決まった。
「……お嬢ちゃん冒険者なの?」
「?はい」
声のする方をみると、髭の生えた人の良さそうな人がいた。
背格好が高くて、高級そうな帽子と上着を羽織っている。
おじさんというよりは、おじさまと言った方がよさそうな格好よさはある。
けど!ナンパはナンパ!きっちり断ら…
「ちょっとごめんな、一緒に別の部屋に行こっか」
そう言われて、腕をがっしり掴まれる。優しめの力なのに、全然離れない。
まずい、怖くて、断れない…!センパ…
「おい…!そいつは俺の仲間……で…」
涙が出てきたところで、カラーグさんが私の腕を掴んでいた人の腕を握って上にあげる。
でも、すぐにその腕を緩めて、動揺を顔に表す。
それは、おじさんの方も同じだった。
「ゴル坊…」
「久しぶりです…協会長」
え?このおじさんが協会長で、カラーグさんと知り合いで…………え?
「あの…?」
「ゴル坊……お嬢ちゃんも一緒に、客室のある別館に来てくれ」
そう言ってすぐに、おじさんは奥にある、少し長い廊下を進んでいく。
カラーグさんはついてこいと会釈をするように私と目を合わせてから、おじさんについていった。
ーーーーー
イェルとは段違い…とはいかないけれど、大きさやら片付けられた感じやら…高級そうな絵画も含めて、かなり緊張しちゃうくらいの部屋に私達は入って、座らされた。
緊張しながら少し待つと、メイドっぽい感じの綺麗な人が紅茶やそれに合いそうな、見たこともないようなお菓子を持ってきてくれた。
おじさん…じゃなくって、テルンドアの協会長さん…やっぱりサーリアさんみたいにすごい人なんだろうなあ…
そんな人が、私たちに何の用なんだろう…
「お嬢ちゃん、名前は?」
「えっと…セラミスです、ただのセラミス…」
「そうか、俺はバッグロウ・デール・シトニー、バッグって呼ばれてる」
そう言って、バッグさんは手を差し出した。
少し接した感じから、口調とかは大分フランクなのかな…少しコワモテのリーグルさんみたい。
その親近感のせいなのか、さっきの緊張感やら恐怖はとっくのとうになくなっていて、差し出されていた手を握り返す。
「よろしくお願いします!」
「ああ、よろしく」
そう言った後、バッグさんはメイドさんに向けて手を小さく上に挙げた。
すると、メイドさんが部屋から出ていった。
そうして、被っていたオシャレな帽子を脱いで、机に置くと、優しい表情を私に向ける。
「君、協会の受付……いや、それか、系列の酒場でもいい…そこで働かないか?」
「え…?」
突然の提案に少し戸惑う。
もちろん答えは決まっている。私は、センパイの隣に立つために、強くならないといけないんだ。
それなのに、なんでその答えが喉でつっかえてるの?
「わ、たしは…」
「こいつは優秀だから、俺と金稼ぎに来てるんですよ…それに目的だってあんだから、あんま邪推しないでくださいよお!?」
遮るように、言いたかったことのほとんどをカラーグさんが伝える。
最後の方は敬語なのか威圧なのかよく分かんないけど、どもっていた私を助けてくれたみたい。
そしてバッグさんは顔色を急に変えて、カラーグさんに冷たい目を向ける。
「ゴル坊…もしかしてまだ…」
「……関係ないでしょう、巻き込む気はない」
そう言って、カラーグさんは席を立って、出口の方に向かう。
私も…
「セラミスちゃん、少し話をしていかないか?」
引き止めるように、バッグさんが優しく話しかける。
すぐに戸惑う私を安心させるように、バッグさんは、お皿のお菓子を見せつけるように手に持つ。
「お菓子もまだ余ってるから、食べながら聞いてくれ」
…お菓子……そんなもので、私は…
ーーーーー
結局居座ってしまっている…我ながらなんとチョロい…!悔しい…!
「さて、ゴル坊から、あいつの昔の話は聞いたか?」
「ふぁい」
中にクリームの入ったケーキを食べながら、私は答える。
色々悲しい過去があって、お母さんもお父さんも死んだんだっけ…
「…母親が、今どうなってるかは?」
「えっ!生きてるんですか?!」
それならそう言ってくれればよかったのに!カラーグさんってば、なんか美談っぽくしようとしてえ…
「それでカラ……ゴルギルガルさんのお母さんって、今どこにいるんですか?」
確か、実家にはいないし……他の国にいるのかな?
「テルンドアの南北の森……その中心部だ」
「それって……危険な魔物もいる危険地帯じゃないですか!?なんで…」
「あいつの母親は、魔物だ」
……え?
魔物って……カラーグさんって、センパイとおんなじようなハーフだったの?
「正確には、魔物になった…って言った方が正しいな………たまに森から轟音が聞こえるだろ?」
「はい…」
確かに、グロフロッグと戦い終わった時、すごい音がしたような…
「あれがその、ゴルギルガルさんのお母さんの?」
バッグさんは、懐から古びた紙を取り出して、私の前に差し出す。
その紙には普段は見ない、何等級かも分からないマークと、おどろおどろしいドクロが描かれていた。
「『骸の魔術師』…肉体が無限に再生し、一瞬で超威力の魔法を撃つとされる。危険度は金等級でも討伐不可…ドラゴンと同等の別界級に分類される」
「ドラゴンと!?」
直接見たから分かる。ドラゴンは異次元の強さだ。
ワイバーンは金等級相当だけど、金等級冒険者が1、2人いれば割と勝てる…実際、カサインさんは2年前、多くのワイバーンを倒しているし、その戦闘を見た私でも倒せるとも思える。
でもドラゴンは別だ…ただ歩くだけで家屋が壊れて、その腕の一振りで城壁が崩れ落ちる…
私が持つどんな魔法でも、傷もつけられないであろうドラゴンと、同等…!
「分かってるのは、強いのと、それがゴル坊の母親ってことだけだ…そんでゴル坊はずっとその母親を殺して救ってやろうとしてるし、だからあいつは冒険者になった」
カラーグさん、そんなの一言も……ただ生きるために冒険者になったとしか、聞いてなかった。
そんなこと考えてたなんて、私全然気づかなかった…
「……聞いてなかったらしいな」
「はい…」
そりゃ、クソガキって言われるくらいには役に立たないところあるだろうけど…でも…
「…お菓子は袋に入れて、今日は帰れ、あいつも外で待ってるはずだ」
「そう、します…ありがとうございました」
私はお菓子をもらった袋に入れて、礼をした後に出口のドアを開けた。
…カラーグさんと仲良くなれたとも思ってたんだけど…カラーグさんは、私のことを、どう思ってるのかな…
モヤモヤとした感じが胸に残ったまま、私は部屋を出る。
すると、隣にカラーグさんが立っていた。
「…行くぞ」
そう言って、私が会話を聞いていたのかも分からないまま、カラーグさんは依頼版の方に一人で歩いて行った。
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カラーグさんと合流して簡単な依頼をこなした私達は、家に帰った。
ご飯を気難しい雰囲気のまま食べて、そのまま寝て…
寝る時はいつも無言なのに、今日はその静寂が一層大きい気がした。




