死は近くに
そんなわけで、朝起きてすぐに私たちはテルンドアの冒険者協会にやってきた。
流石に魔物大国というだけあって、その規模はイェルとは全然違う…
置かれた机の数から、受付窓口とクエストボードの大きさまで、圧倒的だ。
「お前はまだ銀等級だったか?」
クエストボードに貼られまくった討伐依頼を見て、ゴルギルガルさんが呟く。
「う、うん…ゴルギルガルさんは金等級だったよね?」
「まあな……つーかよお!」
うわ、面倒くさいテンションになった…!
なる前に一言でいいから言って欲しいなあ……『今から狂います』とか…
文句を考えていると、ゴルギルガルさんは私の頭に杖を優しくポンっと置いて質問する。
「なんでお前は俺のこと毎回毎回律儀にゴルギルガルって呼ぶんだあ!?長えからゴルでいいって言ったよな!?」
それは…
「…なんかあだ名とか、ゴルギルガルさんに使うのが癪というか…」
ゴルギルガルさんはいかにも呆れ果てたとでも言いたげな、いや〜な感じの目をした後にため息をついた。
その後に、しゃがみ込んで私の顔を覗き込んで言った。
「……じゃあ、苗字でいい!!『カラーグ』だ!いいな!?」
その苗字を言うのに、一瞬迷ったような気がしたけど……気のせいだろうか。
というか、苗字あったんだあ…てっきり難しい身の上だとばかり…
でもまあ、苗字って言うならいいかな?
「…分かった、カラーグさん!」
ゴルギルガル……改めて、カラーグさんと、私は呼ぶことにした。
だというのに、カラーグさんはさっさとクエストボードの適当な紙を剥がして受付に行っていた。
…やっぱり苦手だ!
ーーーーー
依頼内容は銅等級相当である魔物『グロフロッグ』の群れの討伐依頼……難易度は最低銀等級だ。
グロフロッグ自体はすぐに見つかったけど、イェル周辺にはいない魔物で、倒し方が分かんない。
だからこそ、熟練の冒険者の作戦が必要不可欠……なんだけど…
「ウインドカッター!アースクエイク!拳ィ!」
あの人、一人で無双してる…
プリンみたいにどんどんカエルさん達が潰れたり切られたり…
あまりにカラーグさんが圧倒的すぎて、魔物の方がかわいそうにみえてしまう。
でも、なんかカラーグさん、こっちを見て……いや、後ろ?
『ゲロ…』
「えぇ…」
いつの間にか背後にグロフロッグがいた……
でも、たいして問題はない。
グロフロッグが舌で攻撃をしてきたみたいだけど、もう黒門で背後に移動してる。
グロフロッグはいきなり消えて動揺してるみたいだし、あの技をやってみよう。
黒門を地面に敷いて、無詠法の魔法で大岩を出して入れる。
あとはその黒門を空中に出して、岩を上に下に上に下に………加速させていって…
「黒疾弾!」
ヂュドッ!
生々しい音があたりに響いたあと、グロフロッグの頭とその下の地面には見事に穴が空いていた。
いきなりの発想だったけど、成功してよかった……
あらかじめ加速を溜めておいたりすればもっと威力が出……
「コンセントレイト・アースクエイク」
「ゲェッ!」
一瞬で私の目の横を針が通ったかと思うと、背後でグロフロッグが倒れていた。
「… 願うは火の精霊、今化身を顕現して、満ちよ、発散せよ、そして願う。廻りたもうた化身を起こして、幾許かの平穏を我らにもたらせ、『ファイアウォール』」
完泳法での円形防御魔法……なんでいきなり…
パンッ
「…え」
いつの間にか、カラーグさんにビンタされていた。
カラーグさんの表情を見ると、今までに見たこともないほどに怒っている。
「お前…今までどうやって冒険者やってきたんだ?」
声は静かで、それでも恐々しい。
これならいつものような怒号の方が100倍はマシだって思えるほど…
私が怯えているのに気づいたのか、カラーグさんはバツが悪そうに魔法を解いて、そのまま私の腕を強く握って街の方に歩いていった。
ーーーーー
協会で依頼達成の報告をすることなくカラーグさん宅に着いたあと、私は置かれたシチューの前に座る。
その後に対面に向かうようカラーグさんも座り、今度は怒っているという様子はなく、真面目な顔で喋り始める。
「まず、お前にどういう作戦で討伐するか説明を怠っていた……お前も銀等級ならと油断した、俺の責任だ」
違う。あの時油断したのは間違いなく私の怠慢だ。
今まではセンパイが私に近づこうとする魔物を抑えてくれていたから、その感覚で挑んだのが悪いんだ…
「いえ、私が悪いです」
私は深々と頭を下げる。
…どうしても、私が現状、いや、センパイといた時でさえ足手まといだったのだと分かってしまう。
センパイにまた置いていかれないために、強くならなきゃいけないのに…!
「今日はシチューの肉を多めにしといた………あんまり無理してると、いよいよ死ぬからな」
少し厳しいようでいて、カラーグさんの言葉は終始私のことを心配している。
あの時、ジャンケンを挑まれたあの日もそうだった……
見ず知らずの私のために、この人は付き合ってくれていた。
なのに私は跳ね除けて……こんなんじゃ、そもそもセンパイの隣に立つ資格なんて…
俯いていると、カラーグさんは座り方を楽そうなものに変える。
「少し、昔話をしてやる」
まるで、長い話でも始めるかのように…




