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新居と情緒不安定

「着いたー!」

 

 イェルとはまた違った町並みの中で、私は着いてすぐに叫ぶ。


 すると、ゴルギルガルさんがいきなり頭を叩いてきた。


「いてっ」

「着いたーじゃねえんだよ…!」


 あっ…静かにイライラしてる…


 こういう時は、たいてい爆発するみたいに…


「テメェなあ!?俺がどんだけテメェと一緒に頭下げたと思ってんだ!?沼地にハマるわ、歩いてるとすぐに迷っていくわ!どうなってんだ!!??」


 私の耳がキーンとしたあと、落ち着いたのか、ゴルギルガルさんがため息を着いて質問をしてくる。


「お前…あのトカゲ坊主がいなくなってからなんかおかしいぞ?いや、協会長の命令でどっかに派遣されてお前は置き去りにってのは聞いたけどよ…」

「ああ、それは…」


 センパイの処理については、ドラゴン襲来後、他地方での別個体の発見により、イェル支部の協会からはこちらも非常時ということでセンパイ一人を2年派遣した……ということになっている。


 もちろん別個体の発見は嘘ではないって言ってたけど、きっとドラゴン発見の噂で怯えた冒険者がワイバーンと見間違えただけだと思う。


 それでも、センパイが怪しまれていないだけ、その誤発見にも感謝しないとね。


「なんにしろ、テメェはドがつくくらいポンコツなんだから…分かってんのか?」

「はい、分かってます…!」


 センパイがいなくなってから色々と気づくことばっかりだなあ……


 センパイが戻ってきたら撫でてあげよう。うん。そうしよう。

 

 私がセンパイをどう褒めてあげようか考えていると、すでにゴルギルガルさんが歩き出していた。


「ガキポン、行くぞ……」

「ガッ、ガキポンっ!?」


 前はむらさきあたまなんて馬鹿みたいな呼び方だったけど、さらにアホっぽくなったような…?


「ああ、ポンコツのクソガキでガキポンだ……行くぞガキポン」

「んなっ!?」


 さ、さすがに可憐な乙女にその言い方はどうなんですかという言葉が出かけたが、正論なので言い返せなかった。


 でも、この人としばらく一緒に仲良くってのは、早々に無理と分かってしまった…


ーーーーー


 路地裏の住宅が並んできたところで、ゴルギルガルさんがポケットから鍵を取り出した。


 目は随分と憂鬱そうだ。


 そういえば…


「なんでゴルギルガルさんはテルンドアの実家に戻ろうってなったんですか?」

「だーから、協会長の魔導書…………つーか、魔導書がなにか分かってんのか?」


 質問を質問で返され……いや、答えた後に質問される。


 魔導書……は知らないけど、魔導杖なら分かる。


 魔法は詠唱すらしない『無詠法』、簡略化した詠唱…ファイア〜とか言って出す『略詠法』…


 我ナントカカントカ…なんかの長い詠唱の『完詠法』の三つの出力方法がある。


 発動が長くなる分、指向性や魔力のロスも減るから、状況によって使い分ける。


 そして、この肝心の指向性の補助をするのが、魔導杖なのである。


 私も中古のを一品持ってる。でも『黒門』を使うってなるといきなり敵の目の前で魔法を打てるわけで、私にはいらないけど…


 それでも、遠距離が肝心の魔法使いにとっては必須アイテムだ。


 そうやって説明してみると、ゴルギルガルさんが頷いて、懐からサーリアさんから受け取ったであろう魔導書を取り出した。


「そう…そんで、使える魔法の制限があっても『完詠法』を詠唱無しの『無詠法』で打てるのが、この魔導書のわけだ」

「す、すごい…」


 私も欲しい…ロスが少ないなら、『黒門』と合わせても魔法がいくらでも使えるじゃん!


「わ、私も欲しい…」

純金貨2800枚(2億8000万)が相場だ……」

「2億っ?!!?」


 に、2億……ええっと、スイーツが一つ銅貨5枚(500円)として、ええっと…………………?………


 とりあえず、いっぱい買える…!


「す、すごい…!」

「…100年に一人の大魔法使いがその生涯をかけてやっと一冊作るからな………今確認されてるのでも24冊だけだ」


 24冊というのは案外多いのでは??とも思ったけれど、それくらいの力がある本なら、誰もが追い求めるはず…


 それでも見つけられたのは24冊…


 それくらいの大金が必要ってのもおかしくないとは思うけど…


「でもなんでそんなすごいのをサーリアさんは持ってたんですか?」


 サーリアさんはすごい人だとは思う。


 でも、冒険者協会は大きいとはいえ支部長……集められるとは…


「俺が元々持ってたのを貸してたんだよ……この杖の代わりにな」


 確かに、ゴルギルガルさんの杖はかなりの強度だ。


 ふつう魔法杖は粗雑な見た目の割に繊細で、少しでも傷がつくだけで性能が大きく下がる。


 だから、素材の木が丈夫なほど耐久性は高いんだけど……


 でも荒っぽく使ってる分、かなりゴルギルガルさんの杖は傷ついてる。


「元々7歳の時には冒険者だったからな……パーティも組めないしであの人頼ったんだよ」


 いや、別にその本を売れば………というか


「7歳!?」


 私でさえ13歳の時にやっと魔物と戦えるようになったのに……それまではずっと逃げて守ってもらってでやってきたのに、7歳……


 私才能あるんじゃと思ってたのに、自信無くす…


 一応その落ち込み様をみて心配してくれたのか、ゴルギルガルさんは後付けで詳しく説明する。


「正直ゴブリン相手に死にかけた……12年でやっとこうやってまともに一人立ちが…」

「12年!?」

「なんなんだよテメェは…」


 12年……7歳からなら……19歳?


「おじさんかと思ってた…」

「このクソガッ……!」


 ゴルギルガルさんが手をプルプルと振るわせて、顔に血が集まっているのか少し赤い。


 やばい、テンションが噴火しかけてる……話を変えないと…


「あの!なんでその本売らなかったんですか?」


 作戦は成功したのか、ゴルギルガルさんの表情が一気に落ち着く。


 そして、なんとも嫌そうな顔でどうでもいいだろうと一蹴された…


 それがどうにも、違和感として心に残った。


ーーーーー


「ほら、入れ」


 十何分か歩いて、私たちはゴルギルガルさんの実家に着いた。


 中はどうなってるのかな……


 ワクワクしながら入ってみると、家具の一つすらなく、誇りが陽の光ではっきり見える部屋が目に写る。


「チュウ」


 おまけに、一瞬ネズミが鳴いた後、壁の穴に逃げていったのが見えた…


「ゴミ屋敷…」


 そう呟くと、轟音が狭い部屋に響いた。


「居候のくせに文句言ってんじゃねえええええええええええ!!!!」

 



 


 

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