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呪いと祝福を

 シントの騒動から一週間後、今日は傭兵の仕事で、近くの領地の山賊との小競り合いに向かっていた。


 とはいうものの仕事はすぐに終わり、一度休憩となったため、各員それぞれが血に塗れた戦場のどこかしらで休んでいる。


 俺も近くの木陰に座り帰るための英気を養っていると、シーヤさんが話しかけてきた。


「よう、ちょっと話そうぜ」


 まあ断る理由もないし、仲間と親睦を深めるのも仕事の一環だろうということで了承すると、シーヤさんは俺の近くにあった死体に腰掛けて、話し始めた。


「それにしたって、お前って本当強いんだな……ウチでも3番目はいけるだろうな」

「そうなんですか……1番はヤナハさんですか?」


 予想を聞いてみると、シーヤさんは驚いたようにして正解を答える。


「そうだけど…よく分かったな」


 立ち姿だけでなんとなくは分かる。


 バレット団長も強いと思うが、今回の山賊との戦闘でより鮮明に分かった。


 ヤナハさんの刺突は、まず目で追うことさえできない。


 あれを連続で繰り返す。受けの技術も高い…俺の記憶の中でも張り合えるのは先生くらいだろう。


「そういえば、今回はやけに早く終わりましたね」


 数としては多いはずなのに、体感としてはものの何分かというところで決着した。


 山賊の大体は屈強な犯罪者や落ちぶれた傭兵じゃなかったんだろうかとは思っていたが…


 シーヤさんは、重そうに口を開いて話す。


「まあ、傭兵崩れが少なかったからな……大抵は飢饉で山賊になるしかなかった村人って聞いた」


 疫病や蝗害…食糧危機になる理由はいくらでも思いつくが……そうか、村人だったのか。


「そう、なんですか……」


 なんとか悲しそうに答えて見たくせに、どこかで慣れてきてしまっている自分がいる。


 気持ちが悪い。


 善人ぶって、洞窟内では結局1人も殺しはしなかったが、山賊となったらこうも簡単に殺すのか…俺は…


 立場が変われば態度も変わるなんて……そんなの、俺のことを嫌う奴らとおんなじ考えじゃないかよ…


「ちょっと、すいません」

「?ああ、無理はするなよ」


 このままここにいて、血だらけの景色まで見ていると、どうしてか、セラミスに会えなくなってしまいそうで、一足先に戦場を去った。


ーーーーー


 三日後……今日はシントとの稽古に付き合っていた。


 稽古をしながらに屋敷の方を見ていると、窓に一瞬掃除をするソフィアが見えた。


 あいつも頑張ってるんだな…


「師匠、どうしたんですか?」


 よそ見をしていたのを見破られたようにシントが話しかけてきた。


 思えば、俺には本当に、こいつに先生のように稽古をつけてやる資格はあるんだろうか。


 そもそも、先生が死んだ時、俺はもう死のうと思っていたはずなのに…


「…俺は、なにがしたいんだろうな……」


 聞いてはみるが答えはない。


 人を殺すのは好きではない。ただ生き続けていきたいわけでもない。


 自分でも自分の本音が分からなくなってきている。


「?」


 言っている意味がよく分からないという表情をシントが浮かべて、取り繕うように剣を持ち直す。


「なんでもない。さあ、かかってこいよ」


 人を、生き物を殺してまで生きるその意味を、見出せない…


ーーーーー

 

 夜、俺もここにきてから落ち着いてきたので、俺はあの戦士のことを話し合うために、ソフィアに呼びかけた。


「ソフィア、ちょっといいか?」

「?セイスケおにいちゃん、どうしたの?」

「もうそろそろ、話し合っておきたいことがあるんだ」


 ソフィアは、不思議そうに首を傾げた。


ーーーーー


 ベッドの上に座りあって、少ない蝋燭をなんとか切らさないようにしながら、俺は早速質問した。


「ソフィアは、あの鎧を着ていた戦士のこと、何か知ってるか?」


 ソフィアは少し沈黙した後に俯いて、ぽつりぽつりと話し始めた。


 あの、名も知らない戦士のことを。


「私が洞窟に来た時に、ひとりぼっちで寂しいって時に鎧のおにいちゃんと会って、いっぱい遊んでもらったの………それで…………」


 ソフィアの顔が恐怖に引き攣ったように歪む。


 きっと、あの戦士が死んだことにも、洞窟内にいた奴らが自分以外皆殺しにされたことにも気づいているんだろう。


 それでも、この子は無理してでも気丈に振る舞って、その恐怖に耐えて、ここまで来たんだ。


 俺も、臆してばっかりじゃいられない。


「ソフィア、受け取れ」


 俺はベッドに立てかけていた龍砕を鞘ごとソフィアに手渡す。


 戸惑うようにどうすればとソフィアが持っている間に、決心をつけて口を開く。


「それは、お前の使いたいように使っていい……それが、せめてものお前と、あの戦士への気持ちだ」


 俺があの戦士を殺したと言えば、ソフィアは俺を憎く思って殺すかもしれない。


 でも、それでいい。


 それが、ただ無意味に生きるために、自分の都合で生き物を殺してきた俺の責任だ。


「なに…?どうしたの?」


 心臓の動悸を止めるように呼吸をして、ソフィアの目を改めて見る。


「俺が……俺が、お前が言う鎧のお兄ちゃんを……殺した」


 ソフィアの目が、一気に俺を化け物を見るような目に変わる。


 そして、質問をしてきた。


「……なんで、私を助けたの?」

「あの戦士にソフィアを託されたからだ…」


 続けてソフィアは質問していく。


「なんで、話したの?」


 少しずつ声に震えがかかっていく。


 俺も、精一杯喉から搾り出すようにしてまた答える。


「お前が、本当に大事な存在になってくる前に、ちゃんと話すべきだと思ったからだ」


 もうすでに、俺はソフィアのことを大切だと思っている。


 でも、ソフィアはいい子だ。きっと何日も過ごしていけば、俺みたいなやつでも大切だと思ってしまうだろう。


 だから正しくは、お互いがお互いを大事だと思う前に………


「なんで、こんな剣を私に渡したの?」

「……俺が、自分のことを、殺されて当然の化け物だと思っているからだ」


 質問は終わり、ソフィアはゆっくりと刀を鞘から抜く。


 先生が死んでから、後を追うまでの短い人生だった…


 それでも、この終わりにも、セラミス達と会えたことにも、何も不満は無い…


 俺は首を晒すように俯いて、走馬灯を噛み締めるように目を閉じた。


ーーーーー


 そして…俺は、死………


「?」


 なにも痛みがない……


 顔を上げると、刀を鞘に戻して、俺に捧げるソフィアがいた。


「なんで…」


 なんでそんな…


 涙を流し始めながら、ソフィアは答える。


「私は、難しい話はまだよく分からないよ……だけど、自分は死んでいいみたいにいわないでよ!」


 溢れ出したような涙がベッドに落ちる。頬の涙は、蝋燭のわずかな光に反応して鈍く輝いていた。


 だが、落ちる涙の粒の数が一つ多かった。


 それでようやく自分も泣いていることに気がついた。


 ソフィアは、泣くように叫び続ける。


「セイスケおにいちゃんが死んだら!悲しいんだよ!?だからそんなに簡単に、自分は殺されればいいなんて言わないで!」


 そうだ…セラミスも、カサインもリーグルも、ヤナハさんもソリアル団長も……


 俺にとって大事な人がいて、その中には俺のことを大切な奴だって思ってくれてる奴も、きっといるんだ。


 みんなで昼飯を食った時、俺は生きる意味が分からなかった。


 そう、あの時は分からなかった……けど、今は言える。


「俺は…」


 俺は…!


「幸せになりたい」

 

 やっと気づいた。


 先生に生きろと言われて、ほんの少しだけ一歩を踏み出した…


 そして、セラミスやみんなと一緒に飯を食って、笑って…そんな日常を、また先生達といた時のようなあの日々が、俺の生きる意味になっていたんだ。


 ずっと、ひた隠しにしてきた本音……それは、俺には資格がないと思ってきたからこそ、出なかった言葉だった。


 あのゴブリンと戦って冒険者を助けた日、セラミスと約束を交わして笑い合えた時、こんな幸せがずっと続けばいいって願っていた。


 きっとその幸せは俺一人じゃ成し得ない。


 もしもまた俺が俺でなくなれば、その幸せはあり得ない。


 これは、俺のためだけの生きる理由なのかもしれない。


 どうせ人を何人も殺した俺は、結局地獄に落ちるのかもしれない。


 それでも、そうだとしても……


 俺は、俺自身が幸せになるために、俺が大切だと思える人を守るために、俺が俺のままでいるために、強くなろう。


 この世界に、抗ってみよう。


 

 


 




 



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