表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/70

そんな日々

 時刻は昼…今日も俺は、シントとの稽古をしていた。


 木剣だしまだ子どもだしでカツンという小さな音が出る程度だが、筋力がついていくのが楽しみにもなる。


 とは言っても、勉学の方が重視されるわけで、当然稽古の時間はあまりない。


 実際屋敷の方の窓で、ネルバさんが手を横に振って、終わりだと合図を送っている。


「それじゃ、今日はこれで終わりにするか」

「はい…」


 そうしてシントは屋敷に帰り、稽古自体は終わったが………暇だ。


 ネルバさんは自由に街に行っても構わないとは言ってくれたが、今はまだ金が入っていないし、イェルから持ってきた分も残りはしばらくの飯代分くらい…


 こうなったら、屋敷の方の手伝いでもして飯を分けて……


「…」


 いや、メイドやらが俺に怯える姿が目に浮かぶからやめとこ。


 となると、腕が鈍らないように刀を素振りするくらいか…


ーーーーー


 何十分かの練習をするが、さすがに暇になってきたし腹も減ってきた…


 屋敷の方からいい匂いがし始めてきたな…今昼時かあ…


 グゥ〜〜…


「腹が減った…」


 腹の虫もうるさく鳴き始めてきたので、覚悟を決めて屋敷に行くことにした。


 なんとか決断した俺は、物置小屋で色々な使わなそうなボロいモノを探す。


 借りるってだけだが、黄ばんできている白布を見つけて、くっついている蜘蛛の巣を剥がす。


「あのデカい蜘蛛、さっさとどっか行ってくれればいいんだけどな…」


 せめて尻尾を白布で隠して、革手袋もつけて…よし。


 ネルバさんに手伝いできるか聞いてみようと、俺は屋敷の戸を開く。


 用事があれば屋敷には入って構わないと言われていたが、何度入っても屋敷の広さは圧巻の一言だ。


 階段を上がって、ガント様かシントから直接聞くことにした俺は、廊下を歩いていく。


 屋敷中を回る中で、ほうきを使って掃除をするソフィアがいた。メイド姿が様になっている。


「邪魔したら悪いな…」


 そこを避けて通って歩いていく。


 にしても、道脇のツボとかも随分高そうな……


「いやです!!やめてください!!」


 突然耳にシントの声が入る。


 どう考えても助けを求めている……!


 声のした方を向かって走っていると、メイドの一人に誤って肩が触れた。


「っ…すいません!」

「え?あ、はい」


 今度謝るとして、今は急いでいるので止まれない…!


 そうしてまた廊下を走っていると、シントの叫び声が聞こえた。


「誰か!!先生!!お父さん!!」


 バアンッ!


 すぐに声が聞こえるドアを思い切り開けて、シントを助けようと中に入る。


 すると、中で女がシントを押し倒しながら服を脱ぎ始めていた。


「は?」


 ……えぇ……どうなってんだ…?


「先生!!」


 シントの声で我に帰る。


 いや、そうだ!どう考えてもシントが危険な状況だろ。


 女も俺に驚いているのか、脱ぎかけていた服を着直して俺に向かって叫ぶ。


「誰なんですか?あなた!」


 いや、こっちのセリフだわ…


 …でもまあ、シントが怯えてるってことは少なくとも悪いやつってことでいいんだな。


 刀は屋敷に置いてきたので、わざわざ巻いておいた尻尾の白布を取る。


「ヒッ…」

無刀(むとう)大尾振(だいびしん)!』


 即興で作った技を女に使う。


 とは言っても、体を捻って尻尾でぶっ飛ばすだけだが……


 それでも威力は十分らしく、女が起き上がる様子はなかった。


「大丈夫か?シント」

「先生ェ〜…!」


 シントが涙をポロポロ落としながら尻尾に抱きつく。


 …詳しく聞く必要がありそうだな。


ーーーーー


 しばらくして駆けつけたネルバさんが俺とシントを見つけて、ガント様も含めて話を聞くことになった。


 シントがもじもじしながら、勇気を振り絞るように向かいのガント様を見ながら、ことの終始を話し始めた。


「先生が……えっと、家庭教師の先生が…いきなり僕の頬を触ってきて、怖くなって振り払ったら、押し倒されて……」


 いや、うん…もうそれだけで話は分かった。


 まあ6から8歳くらい……この年ごろの少年というのは可愛いめだとは思う。


 だからといって押し倒すというのは理解できんが、一応は、まあ話の流れは分かった。


 ガント様も同様に頭を抱えるように俯いて、手で額を覆いながらネルバさんに色々と処理を頼み始める。


「ネルバ、あの家庭教師はクビにして、すぐ兵士に突き出せ…シントはしばらくセイスケとの稽古に集中しろ。セイスケにはその分金を弾んでやる…」


 そういって、金貨一枚を懐からを取り出したガント様は、俺に適当に投げ渡したあと、ため息をつく。


 まあ街のアタマってだけでも心労絶えないだろうに、こんなハプニングもあればまあテンションも下がるわな…


 かといって、もう少し息子のことを心配してもいいだろうに………いや、というか………


 いや、今はいいか…


 一つの憂慮を残しつつも、俺の飯問題も解決して、話は終わった。


ーーーーー


「こんな事態だってのに、母親はどこに行ってるんだ?」


 次の日の稽古の最中、それとなく俺はシントに昨日抱いた疑問を聞くことにした。


 普通、自分の子供が押し倒されたなんて聞いたら居ても立っても居られないだろう。


 実際、母さんなら病気でも飛び起きそうだ…


「お母様は、僕が産まれた次の日に死んでしまったそうです」

「あっ……すまん…」

「いえ!僕にはお父様や、ネルバも先生もいますから」


 ……まあ、俺も父親は産まれた時からいなかったな。


 それについて聞くこともなく母さんも死んでしまったが、確かに母さんや先生がいてくれて幸せだった。


「そういえば先生……」

「ん?」


 薮から棒に、シントが伺いでも立てるように俺の顔を覗き込む。


 こう見るとかなり美少年なんだな……母親似なんだろう。


 いや、今はそんなことはよくて…


「なんだ?」

「先生のこと、教師の先生と区別がつきにくいと思ったので、師匠と呼ばせてください…!」


 師匠……師匠ゥ?

 

「いや、まあいいけど…」


 俺なんてまだ15だぞ?そんなやつを師匠とか…


「ありがとうございます!師匠!」


 …でもまあ先生と同様に悪い気はしない。


ーーーーー 


 それから昼の時刻になり、ソフィアが弁当を持ってきて、シントと一緒に3人で食うことになった。


 当然米はなく、ありふれたパンとそれに乗ったハム…


「いただきます!」

「…いただきます」


 手を合わせて、食べ始める。


 食っている最中で、色々と今までの人生を振り返ってみる。


 さっきは、母さんと先生がいた頃は幸せだと思っていたが、今だって、セラミスと一緒にいた時だって、なかなかに幸せだ。


 でも、俺が化け物ってことには変わりはないし、傭兵を続けてくしかないとして…本当に人を殺してまで、俺は生きたいんだろうか…


 幸せなそんな日々の中で、俺は意味を見出せない。

 


 




 


 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ