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とかげの巣

 と、いうわけで、日が暮れる前にと、俺とソフィアは領主様の家の前まで急いで来ていた。


 もちろんリュックも革手袋も忘れていない。


 屋敷は街の中心部にあり、ニーノア西領の大きさとしては人が2000人住む少し大きい街のため、当然屋敷も大きい。


 柵は堅牢そのもの…庭の大きさは30人程度なら難なく住めそうだ。


 肝心の屋敷は………


「どうなってんだ…」

「おおきいね」


 大きいなんてもんじゃない。庭の3倍はありそうなレベルでデカい。もうここまでくるとこれが街でいいんじゃないかと思えるほどだ。


 とりあえずは門についているベルを鳴らしてみる……あれ?どうやって鳴らすんだ?


 こういう家を見たのも初めてで、どうすれば……


 チリンチリンチリン


 俺が迷っている間に、ソフィアがすでに鳴らしていた。


 いや、まあいいんだけどさ……もうちょっと今から鳴らすとか言って欲しかったかな…


 そんな小言を考えていると、奥から執事らしき老人が歩いてくる。


 服は少し上等そうなくらいなのに、白い髭も髪も良く整えられているからか、黒服が最高級な服装だとさえ思える。


「いかがしましたか?」

「あのね、領主さまのところにいけって言われたの」


 言葉足らずな……いや、この歳の子はこんなものだし、俺が補助してやらねえとだった。


「あの、傭兵団からここに泊めてもらえると聞きました。こっちは、黒羊教解体の時にいた…」


 ギィ…


 言い終わる前に、執事は扉を開けて中へと入るように手をかざす。


「どうぞ、セイスケ様、ソフィア・ビオ様……中でご主人様がお待ちです」


 ああ、話が早いようで…


 早速中に入り、客室に案内された。


 中は絢爛豪華というわけではなく、どっちかというと木の質感なんかも含めて、古き良きというような感じだ。


 それでも大きさは確かなため、豪華さは十分だが。


「どうぞ、こちらです」


 危うく迷いそうな廊下を抜けて、傭兵団の拠点のリビング程度はありそうな客室で座らされる。


 こういうとこに住むとなると移動も大変そうだよな……どうしてんだろ。

 

 キィ…


「失礼するぞ」


 そう言って、領主らしき人がドアを開けて来た。


 淡い黄色のような髪がオールバックにしてまとめられていて、目はかなり細く、目先が尖っている。


 厳格って言葉を体現したような雰囲気だ。


「領主のガント・ヴォンデッヒ・レイクラントだ。セイスケとソフィア・ビオだな?」

「は、はい」


 一応代表として俺が答えると、さっさと話を進めようとでも言うように、ガントさんは話を止めることはない。


「さて、ヤナハ・フウロから話は聞いている」


 そう言って、2枚の紙を出してきた。


 ……正直に言おう。俺はいまだに文字についてはよく分かっていない。


 冒険者時代は依頼書の絵とマークだけに注目してたからな……


「契約書だ。私の息子のシントの世話係を頼む代わりに、お前ら2人をここの物置き小屋に住まわせてやる」


 ……?何かヤナハさんから聞いた話と食い違う。


「あの、俺もですか…?」

「当たり前だ。私は得がないことには興味がない。嫌なら道端でも宿でも、ここ以外の好きなところで寝ていろ」


 マジでか……いや、でも傭兵との兼業ってのはキツくないか?


「セイスケとやら……お前は暇があれば、その暇をシントの稽古を見てやるのに使え、時間は有限だからな」


 ああ、その程度の世話でいいのか…ならありがたいとも思えるかもしれない。


「ビオとやらは、明日から世話係としての教育を執事のネルバから受けてもらう。終わればすぐ世話係として働け……週休1日、給金は小屋賃を引いて月金貨7枚(7万円)だ」

「わかった!」


 分かりやすいくらいに、ソフィアは無礼な態度をとった。だが、ガントさんの怒りは案外呆れる程度で収まっている。


「……分かりましただ…」

「分かりました!」


 効率というか、本当に自分の得になることにしか興味はないんだろう。


 きっと自分の子どもがいなければ、ソフィアも信者同様に……


 いや、助かったんだからこれ以上はいいな。


「まあ、これからよろしく頼むぞ……両方とも、問題のないようにな」


 そして、ガントさんはもう終わりという雰囲気を出してくるが、俺は言わないといけないことがある。


 革手袋を外し、ガントさんに見せつける。


「おr…私は、半亜人です……それでも」

「腕が立つならどーでもいい」


 ああ、はい……まあなんとなくそういうとは思ってたけど…


 自分でも見た目は大分気持ち悪いと思うんだけどな…緑色の鱗とか、質感が人肌とは違いすぎる尻尾とか……


 でもまあ、だからといって採用していただけるならそれはもう文句ないんだが…


「詳しい話はネルバが話す。私は忙しいのでこれで失礼する」


 そう言った後に、随分とあっさりとした感じに出ていった。


 この街は来た時からではあったがかなり金がかかりそうな建物ばかりだった。


 やっぱりそこら辺は、ガントさんの効率的重視の考えからきているんだろう。


ーーーーー


 執事の人から話を聞いた後、俺たちは古びた小屋に入れられた。


 小屋は二階建てで埃っぽいが、ベッドは屋根裏にきちんと二つある。


 他の階層は本や剣など、本当に物置に使っているから俺たちが実質的に家として使えるのはここだけだ。


 蝋燭の火も使う時間は限られるし、今日はさっさと体をタオルで拭いたら寝るか…


 ソフィアにタオルをポイっと渡して、下の階に行くことにした。


「下の階で体拭いてるから、ソフィアも早くしろよ」

「うん!」


 聞いた声の大きさから、拠点で見た時よりも元気にはなっているらしい。


 でも、いつかはあの名前も聞けなかった戦士との関係を聞いたり、俺がなにをしたのか、俺たちはなんで信者達を殺したのか、話さないといけない日は来るだろう。


 空に浮かぶ月はまだ、満ちていない。


ーーーーー


 ベッドに入り、寒さを凌ぐように尻尾を体に巻いてうずくまる。


 それでも寒くてしばらく寝られそうにないので、寝る前に一応ソフィアの身の上を聞いてみることにした。


「ソフィアは、なんで洞窟の中にいたんだ?普通子どもだってなら入れてくれなそうだが…」

「分かんない……お母さんがいなくなってから、急に大人の人たちが、洞窟の中に無理矢理入れてきたから…」


 母親がいきなり?殺されたってわけでもないだろうに…


「お母さんは、どんな仕事してたんだ?」

「えっとね、夜のお仕事って言ってた」


 娼婦か……娼婦と信者の子とは、なんとも業が深いというか…


「そういえば、ソフィアの親って誰なんだ?」

「んーとね、お父さんは教祖様?なんだって………でも、私はお父さんとあんまり喋ったことない」


 そっかぁ…教祖の…


 …辻褄が合う話を考えると、どうにも闇がある話になってくる。

 

 ソフィアは娼婦の母親と教祖の子どもで…


 母親はソフィアを売って逃げて……


 信者や教祖は最後の頼みの綱として、次代の教祖としてソフィアを育てようとしていた……みたいな…


 もしそうなら、散らばった信者達が再起するかなぁ…娘は生きていたってなったらするよなぁ…………あーー………


「おやすみ!ソフィア!」

「おやすみ!セイスケおにいちゃん!」


 明日から考えよ。



 


 












 


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