命というものは
俺が痛みで背中を眼帯の人に摩られる中で、作戦会議とやらは始まった。
一応の要約をすると、こうだ。
まず『黒い羊の救い』という名前の、中小規模ながらも、民主主義の考えが教典にある宗教団体があるとのことだ。
それでニーノア国のお偉いさんは早めに潰そうと、本拠地が近い西領地の領主に壊滅させろと頼んできたってことらしい。
…要は、王様第一の政治が揺らいだら困るよねということか。
だが別に、宗教を畳めの一言でいいんじゃないのか?
話の中で一応俺は質問をした。
「それって…国が宗教団体に直接撤廃を伝えればいいんじゃ…?」
「残念だけれどもうそれはしてるんだってさ。断られたから僕らが仕事をすることになったんだよ」
それならまあ、仕方ないか。
だが…壊滅…それは何を指してるんだ?
「当日の夜、森の中にある洞窟…集団の本部の周囲を取り囲むように隠れて、洞窟の周りを包囲する。合図の笛が鳴った瞬間突撃、5人は見張りとして洞窟入り口で待機しつつ中の信者をすべて殺す…」
え?いや、流石に殺すってのは…
「ヤナハさん、殺すってのは、ちょっとやりすぎなんじゃ……」
「……それは、あとで聞くよ」
俺の困惑は関係なしに、話は進んでいってしまった。
ーーーーー
作戦会議が終わって、俺は拠点の会議をしていた部屋でもあるリビングでうつむく。もうとっくに他の傭兵達は自分の棲家へと帰ってるので、俺1人だけだ。
信者を全員殺す…?
捕まえたり、それじゃダメなのか?
そう思っていた矢先に、いつのまにかいたヤナハさんが俺の肩に手を置いた。
「奥の部屋に行こうか」
ーーーーー
奥の部屋に連れられた俺は、また紙の束に囲まれた椅子に座る。
ヤナハさんさんは、書類にペンを走らせながら俺に話しかけた。
「なんで信者も全員殺すのか……って話だったね」
「はい……やりすぎなんじゃないんですか?」
せめて教祖を見せしめに処刑して、それで終わりにしたっていいだろうに…
ヤナハさんはペンの動きを少し遅くして、俺に質問した。
「逆に生かす理由はなんなんだろうね」
生かす理由なんて……そんなの。
「そいつが死んだら、悲しむやつがいるから、とか…」
なんとか答えを捻り出してみたが、いまいち自分でもピンとこない。
それでも人を殺すってことが、本来はそう易々としていいものじゃ…
「セイスケ君は、人を殺したことがあるよね?」
そう言われて、冷たい声が心臓に響く感じがした。
「真剣勝負って時に躊躇なく切りかかってきた…一度は人を殺したことがないと、ああはできない」
それは……あの山賊を殺したり、金谷を殺したのは……理由があったからで…
「でも、理由があってやりました……その信者を全員殺すってのは…!」
「殺す理由が無いように、生かす理由が無い………邪教の人間が死んで悲しむ人間はどれほどいて、ああ安心したと安堵する人間…その割合はなんだ?」
口調が変わった。
空気が重くのしかかって、呼吸が上手くできてるのか分からなくなってきた。
見たくなかった現実を、突きつけられたような感覚がする。
「『黒い羊の救い』教の人間がいないとなって、街は混乱していたか?逆にそいつらが捕まって出所して街に戻ってきた時、街は混乱するか?邪教の人間がもしかしたらいるのかも…と、人は思わないと言えるか?」
「それは…」
俺は、雰囲気に押されたこともあってか、もう反論することができなくなってしまった。
ニーノア国が言ったのは……処理が面倒くさいから、とりあえず全員殺しておけばいい…そういうことなんだろう。
でも、その処理をするのは、そんな邪教とは関係ない傭兵で…
俺が俯いていると、柔らかい口調に戻ったヤナハさんが励ました。
「領主様が10歳以下の子どもなら生死不問にしてくれてる…その分だけは、僕らも助けられる」
優しい言葉をかけられる人なのに、それでも、この人たちは多くの人間を、なにも知らないような人間も、一切合切を殺さなきゃいけない現実は変わらない。
…ああ、そうか。
私情を押し殺せと言われたのに、その本当の意味が分かっていなかったんだ。
だから、拠点の雰囲気にはどこか暗いものがあったんだ。
…でもよかった。
辛いと思うのと同時に、セラミスが俺についてこなくて本当によかったと、同時に安堵してしまった。
人を殺す……この理由は傭兵にとって、依頼されたから…それだけなんだ。
殺意を向けられずとも、悪意がそこになくとも、ただ無情に、人を殺す。
それがどれほどに辛くとも…
「……ありがとうございました、色々…」
「うん、いいよ」
どちらにしろ、俺に道は選べない。
俺は立ち上がって、腰の刀に手を添える。
ザインには、なんて言えばいいんだろうな……
そうしてすぐに、作戦の決行日はやってきた。




