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優しめ緩めキツめ厳しめ

「入団試験試験…ですか?」


 ある程度、仮面の男……副団長との談話が終わって、俺は入団試験を受けろと言われた。


 いや、しかし待て。確か…


「でも、必要ないって言ってたような…」


 仮面越しの少しこもった声で副団長が答える。


「一応どれだけ強いかは知っておかないとだし、形式上ってだけだよ」


 ああなるほど…冒険者じゃないわけだし、勝手に自分で仕事を探してろってわけでもないんだし、管理しやすくする必要はあるわけか。


 そして、その管理の大変さはそこらじゅうの資料の山を見れば分かる。


「はい、そういうことなら…」

「よかった!じゃあ近所に訓練所あるから、そこ行こっか」


 そう言って、副団長はついてきてと言わんばかりに早足で出口に向かう。


 ここで、一つあることを思い出した。


「そういえば、副団長さんの名前って…」

「ん?ヤナハ・フウロ…どっちで呼んでくれてもでいいよ、セイスケ君」


 …俺の名前は推薦状に書いてあったらしい。


ーーーーー


 ヤナハさんについて行ってしばらくすると、開けた広場に着いた。


 訓練所というだけあって、冒険者が多く集まっている。知り合いがいたら罰を破りそうで怖い。


「さて、それじゃ真剣でいいよ」


 そう言って、ヤナハさんは懐の細身の剣を取り出さず、そこらにあった木の棒を拾う。


 ……いや、流石に舐めすぎじゃないか?一応銀等級ではあるんだぞ?


 レッドベアだって、今なら一人でも倒せる実力が俺にはある。


 でもまあ、真剣だから手加減ってのもダメか…


 龍砕を取り出して、刃をみねのほうにしておく。


 これなら、死ぬということはないだろう。


 気合いを入れて、尻尾でも地面を蹴り上げて、加速した居合いを放つ。


 ブンッ


 風を切る音が鳴った後に、俺の刀はなぜか、ヤナハさんの方ではなく、隣の地面を向いていた。


「ほいっ」


 木の棒の底で叩かれたのだろう。


 俺の体が、地面に落ちた。


 …地面に突っ伏して気づいた。


 この人は、努力してる。だから強いんだ。


 体を一瞬横に傾けて、俺の視線を誘導した。そこから、木の棒で刀を逸らして、無防備の俺を叩く……ただそれだけだ。


 それだけだからこそ、一朝一夕で身につく者じゃない。


「……負けました」


 俺は、ただ自分が負けたと認識するしかなかった。


「うん、充分強いかな……もう仕事まで1日だし、今日はここでやめにしよう」


 仮面の下がどうなっているかは知らないが、柔らかい言葉づかいだし、ずいぶん優しそうな顔してんだろうな…


 でも、仕事まであと1日か……


「どんな仕事なんですか?」


 起き上がって、服の砂埃を払いながら拝聴することにした。


「今回の仕事は新興宗教の組織の壊滅、および団員の抹殺だね」


 …またずいぶんと物騒な話だな……


「詳しくは後で言うとしようかな……まず拠点に戻ろっか」


ーーーーー


 戻っていく中で、やっと埃を払い終わる頃に、言い忘れていたというように突然ヤナハさんが話しかけてきた。


「そういえば、ウチ(傭兵団)の仕組みって知らないよね?」

「はい」


 …言われるとそうだな……聞いておいて損はなさそうだ。


「ウチはこの街のモンスター退治をしたり、他の街からの依頼を受けていく感じだね、でもその場合は大体は大型の依頼だ」


 大型…!報酬も段違いだろうな…


「まあ、冒険者協会と違って怪我してもお手当て出ないから、なるべく無事故でね」


 ああ、そうか……中抜きがない分、福利厚生とかの点はやっぱ違ってくるな。


「それと……私情は殺すように」

「はい」


 傭兵をやるとなれば戦争に駆り出されて人を殺すなんて、最初から分かっている。


 思えば山賊だって、故郷でだって人を殺してきた……今更情が湧くほうが失礼だ。


「さて、まずは自己紹介から頑張らないとね」


 ヤナハさんがそう言う頃には、既に拠点前に着いていた。


 …自己紹介か……そういう機会が無かったし苦手だ。


 ドアを開けて、ヤナハさんが少し大きい声で周りの傭兵たちを呼びかける。


「みんな!新入り!優しくしてあげてね!」


 その瞬間、周囲の視線が一斉に俺の方を向く。


「じゃ、僕はもう少し書類整理しないとだから頑張って」

「えっ」


 待ってと言う間もなく、ヤナハさんは奥の書室に去っていった。


 …嘘だろ?


 いや、ともかく自己紹介だったよな…


「えっと……生助って言います…年は15です。元々は冒険者していました。よろしくお願いします…」


 ……沈黙が訪れる。


 気まずい〜!どうしろってんだよ!これ!


 冷や汗をダラダラ垂らしていると、一人が立ち上がって向かってきた。あの眼帯だ。


 眼帯は俺の肩を掴んできた……え?なんだ?


「…ここ以外行くアテあんのか」

「え、ない……ですけど」


 そう言った瞬間、悲しそうな顔をされた。


 苦虫を噛み潰したような、同情が入り混じった表情。


「まだお前は子どもなんだ…少なくとも俺や、俺たちのことは頼ってくれていいからな」


 言われて気づいた。


 俺がまだ、大人とはいえないような枠組みの人間ってことに。


 そして、それを指摘するこの人は、この人たちは…なぜこんな仕事をしているか分からないほどにまともなんだ。


 バァンッ!!


 ありがとうございますって言う前に、出口……つまり外に通じるドアがすごい音を立てて開いた。


 驚いてそっちを見ると、俺の2倍はありそうな体格をした鎧を着込んだ人間が立っていた。


 …なんだこいつ。


「おい!フウロいるか!?作戦会議すんぞ!」


 大きい声が耳に響くが、ある程度の音の高さで分かった。


 この人は女だ。


 俺がそれに気づいた後に、奥のドアが開いて嫌そうな顔をしたヤナハさんが顔を出す。


「……鎧…頭だけでも外せよ」

「ん?面倒くさくて忘れていた!」


 そう言って兜を脱ぐと、どうやってしまい込んでいたのか分からないくらいの苛烈な赤い色をした長髪が出てきた。


 顔つきは意外にセラミスみたいな可愛めではあったが、表情がなんか男っぽい。


「セイスケ君…これウチの団長の…」


 ヤナハさんが言い終わる前に団長が叫ぶ。


「ソリアル・バレットだ!セイスケ!よろしくな!」


 バンッ


 …背中を思い切り叩かれた。


 ああ、痛みがだんだんと…!


「ギャアアアアアアア!!」

「セイスケ君!!!…ソリアルテメェっ!何やってんだ!!」

「す、すまん……」


 あまりの痛みで転げ回る。爪を剥がれた時といい勝負だ。


 痛みの中で、バレット団長とやらを叱るヤナハさんの声が聞こえた。



 


 

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