新たな旅路
「セイスケを……イェル城下町と冒険者協会への接触について2年間は禁止し、この間追放する。以上」
サーリア協会長は、確かにそう言った。
俺を、この街から追い出すと。
「言っておくけど、これは極秘事項だ。協会長、引いては街の代表として罰は与えるが、混乱を防ぐために公表はしないよ」
少しだけ言い方が柔らかくなったが勢いは増す。
手を広げて身振り手振りを交えながら話す姿はなぜか女でも惚れそうなくらいに格好がいい。
続けて、遮るようにカサインが冷や汗を垂らしながら質問した。
「いや!あの時のセイスケについてはどう説明するねん!あんな…」
「直接変身を見たりしない限り、到底わからない外見だったんだろう?ならば新種のドラゴンとの喧嘩だとでも説明しておけばいい」
ただ淡々と自分についての今後の判断をされている。
「セイスケ君、ここに来るまでに、ここにいる人間以外に顔は見られたかい?」
「みんな下を向いてましたし…家にこもってましたから…歩いてる人間も、他人を二、三人見たかってくらいです」
「そうか…ならば君は騒動に乗じて他のものと同様に逃げたとでもしておこう」
多分、本当に俺のためを思って言ってくれてるんだ。
ほとぼりが冷めれば、いつでも戻ってこいってことなんだろう。
俺についての判断が、勝手にされているって言うのに。
それが正当性があり、正解に近く、優しささえ感じるものだからだろうか。
なぜか気持ちよく、爽快に感じている自分がいる。
上に立つ人間ってのは、やっぱりこういう人のことを言うんだろうな…
「さて、そうと決まれば急いだほうがいいね…行き先は手配するから、明日の明朝に出発するとして用意は…」
「あの…!」
協会長が話し終わるかと言う時に、セラミスが質問するように顔を協会長の方に向けて喋った。
「私も…センパイと一緒に連れて行ってください!」
それは……
「ああ、分かった。けど、辛い仕事もやってもらうことになるよ?構わないかい…?」
本心を隠すように、なんとか笑って答えてみる。
「あ、ああ…セラミスが来てくれるならありがたいな」
「私、頑張ります!」
セラミスは、俺についていくという意思は変わらないようだ。
俺は笑えているんだろうか。引き攣ってはいないだろうか。
「それじゃあセイスケ君とセラミスちゃんは一日この部屋に泊まって、朝に宿の荷物を回収してから行こう」
「はい!」
「……はい」
俺は、ちゃんと返事ができたんだろうか。
ーーーーー
もうとっくに日の暮れた街で、俺は冒険者協会の客室で外を見ていた。
セラミスは疲れたのか、とっくに寝ている。
カサインは帰ったが、サーリア協会長は机の上で書類を処理している。
だというのに、俺に話しかけてくる。
「君への処理を公表するわけにもいかなかったからね……ここに二人とも閉じ込めたり、色々勝手に決めたり、申し訳ないよ」
「いえ…俺は何も言う資格ないですし…」
…追放について公表だってできるだろう。
そうすれば、ちょっとは名誉も得られるはずなのに、この人はしなかった。
それに器用に俺の話を聞いたり、寂しくならないよう話しかけたりしてくれるし…
優しく優秀ってのは、もうないも同然の自尊心も削られる気分だ。
「そういえば、最後に会いたい人とかいないのかい?言ってくれれば、別れの手紙くらいは代わりに書くよ?」
真っ先に、顔も合わせられていないリーグルの顔が思い浮かぶ。
……それと、もう1人、今の俺にとって、一番大事な人間。
「…カサインと…冒険者のリーグル・ニン……もう1人は…○○○○に…」
サーリア協会長は目を見開く。
そして、なぜそいつに手紙を送るのかの理由を聞いてきた。
「なんでだい…?」
「……俺が隣にいるだけで不幸になるってのは、もう学べたので…」
どれほどの間、共にいただろう。
「辛い行き先だよ?後悔はしないんだね?」
「………ありますよ……」
あるに決まっている。
もう、俺にとって家族と言える人間なんて……そいつくらいしかいないんだから…
でも…
「でも……幸せになって欲しいんです…その幸せを掴むのには、俺はきっと邪魔だから…」
協会長は、悲しそうな顔をして、「分かった」と頷いてくれた。
ーーーーー
明朝より少し早い時間、協会の客室の机に手紙を一つ残して、俺は街から去っていく。
行き先の同じ馬車は見つけてくれていたので、それに乗って目的地に向かっていく。
きっと、行き先については協会長は隠してくれるだろう。
少し不安感を持っていると、立派な髭を生やした馬車の運転手が、嫌そうに文句を垂れてきた。
「俺はあの人のお願いだからてめえみたいなのを乗せてやってんだからな…!クソ…!」
「…ありがとうな…いえ、ございます」
危なかった。もう冒険者じゃないんだから敬語使わないと…
にしてもこの人、本当に態度悪いな………ありがたいのはそうなんだが……
…いや、今まではあいつがいたからってことか…?
それじゃあやっぱり、俺は邪魔だな…
「ハハッ…」
呆れて笑ってみると、運転手が今度は気持ち悪そうに文句を言う。
「…お前………なに1人で笑ってんだよ?」
「いえ、なんでもないです」
今頃は、俺がいないので焦ってはいるだろうな……でもまあ、カサイン達に任せよう。
俺の隣には、今は誰もいない。
もう、一緒に笑ってくれる人はいない。




