龍の後始末
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俺は……あれから何をしてたんだ?記憶が…
「カサインさん…」
セラミスカサインに呼びかけていて、俺もそっちを見る。
そこにはいつもの明るい調子じゃない、ただ淡々と殺意のみを発しているカサインがいた。
「セイスケ……お前は……ッ!お前が……!!」
カサインの表情は苦しみに悶えていた。
……いや、それより…カサインの俺を見る目は、あの嫌な感じの…人じゃないものを見るような…
「ほんまになんやねん!この!化けも…」
カサインは咄嗟に出しかけた言葉を飲む。
いや、でも、もう言ってるのとおんなじだ……
どうでもいい人間の向ける嫌悪なんて、こっちだってどうでもいい。
でも、カサインは……俺の信じる人間が……
「……とりあえず……協会は無事やし……一旦そこ行こうや…」
カサインの言う通りに、俺もセラミスも冒険者協会に向かう。
なぜかいつもはうるさいくらいに喋るカサインもセラミスも黙り切っていて、なにかが気持ち悪かった。
…なにがあったんだよ……!俺は…!なにを…!
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静かになった協会について、カサインがまずため息をついた。
「…一応二人とも、怪我はないんか?」
「う、うん…ないよ」
「そか…」
声色自体は抑揚がついたが、それでもカサインは目に光を反射させない。
それでも、カサインは俺に近づいてきて、なぜか謝ってきた。
「すまんかったな…」
「なんで謝るんだよ…」
カサインは目を見開いて、悲しそうな目で俺を見た。
「記憶ないんやったら、セラミスから一部始終を聞いとけ、ワシは外で協会長探しとるから」
そう言って、俺とセラミスを残してカサインは出て行った。
去り際に、「お前のせいやないからな」とでも言ったようには聞こえたが……
セラミスはなにか知っているのか?
俺が、なにをしたのか。
「セラミス…」
セラミスは唇を噛み締めたあと、重そうに口を開く。
そして、俺に一部始終を話し始めた。
「センパイ…どこまで記憶ある?」
記憶……えっと、確かアルキさんが……
「ダメだ…アルキさんが俺の目の前で死んでからの記憶がない…」
「そっか…あのね、センパイは……
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…セラミスの話を、俺は聞き終わった。
すぐに俺は、目覚めた時のカサインの姿を思い出す。
右手のアレは…!あの、あんな顔をする理由なんて……!!
「俺が…ザインをころ」
「殺してない!絶対、センパイのせいじゃない!」
頭にモヤがかかった感覚だけがある。アルキさんの記憶と、ザインの記憶が交互に押し寄せる。
セラミスに言われたこと、起き抜けにカサインに言われたこと、頭がぐちゃぐちゃになる。
「…セラミス……」
誰か教えて欲しい。俺は…俺は…!
「俺は、化け物なのか…?」
セラミスが一瞬黙って、なんとか喋ろうとした時に、タイミング悪くドアが開く。
「やあ、元気かい?」
俺が見ると、サーリア協会長とカサインが立っていた。
「とりあえず、お茶でも淹れようか」
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俺とセラミスが気まずそうにでかく柔らかい椅子に座っている途中で、サーリア協会長がお茶を出して、俺たちの対面側に座る。
それでもカサインは座らず俺たちの隣で立っていた。
その様子を見て、困った様子で頬を掻いたあと、サーリア協会長が話し始めた。
「さて…ドラゴンの話だったね…一部始終についてはカサイン君から聞いてはいるし、国に報告もしたんだが…」
どこからか出したイェリア城下街……俺たちの街の地図をサーリア協会長は机の上に広げる。
「報告によるとドラゴンは北から来た……となると、西の大森林の隣にある、北のダンガノ山脈から来たと予想はできる」
協会長は細い指で、ドラゴンの軌跡を辿るように協会長は指を机の上で移動さながら話し続ける。
「北から来たドラゴンは城壁を突破…そして『化け物』と戦って街を破壊……その後に負傷して撤退…か…」
北の街を覆うように手を広げたあと、協会長は地図を戻しながら反省を始める。
「ワイバーン殲滅時に来たってのが災難だったね…金等級冒険者が軒並み療養中にってのが運が悪かった」
そして、ここで初めてカサインが口を開いた。
「ワイバーンは予定より長期間飛来して来とった…多分、あいつらもドラゴンに追われてたんやろうな」
「ああ、そうか……そういうことか」
カサインの発言に協会長が目を見開いて、整合性をとるように口を手で覆う。
実際辻褄はあったのか、綺麗な顔で、呆れたように苦笑いをする。
「ふふ……じゃあどっちみちこうなってたわけか…」
協会長は苦しい状況だろうに、すぐに雰囲気を切り替えて俺に話しかけてきた。
「今重要なのは君の処遇だ。カサイン君のいう言葉が真実なら、君をドラゴンから街を救った英雄とするべきか…それとも街を破壊した犯罪者とするべきなのか…」
…どう考えても、俺の処遇なんて犯罪者に決まってる。
街を破壊して、ザインを……他のやつも、きっと俺が……
「…意見を聞いておこうかな……カサイン君から」
俺の沈黙を見て、協会長は話し相手を変えてくれた。
そして、カサインは、俺を擁護した。
「ワシは……セイスケは悪うないと思うとる。ドラゴンを放っといたら、オヤジはどのみち鍛冶屋の倒壊に飲まれて…死んどったんやしな」
「私も…同じです…」
セラミスも同様だった。
俺が話す番も来たが……答えなんて、決まっている。
「俺は…どう転んだって人殺しだ……英雄だってんなら、人であるべきだ……あの時の俺は人じゃなかったんだろ?」
「それは…」
セラミスが黙る。それはほとんど肯定と変わらない。
…いや、今の俺だって人とは呼べない…どうしたって俺は、化け物だ。
化け物は……きっと化け物として死んでしまったほうが…
「難しい話だね……でも、私は協会長だしね…」
協会長は一瞬目を閉じて、冷静に、俺に罰を下すようにそれを言い放つ。
「協会長の名においてセイスケの処理を下す……セイスケを…」




