覚醒
「アアアアアアアアゥア!!」
まず、声を上げて攻撃したのは、セイスケだった。
飛翔……というよりはただ単に地面を蹴り上げて、ドラゴンに襲いかかる。
しかし、一笑に付すように、ドラゴンは火を吐いた。
まるで、火炎というよりは、光線とでも言ったほうがいいようなそれは、セイスケの体を燃やし尽くす。
だが、セイスケは再生した。
体はボロボロに崩れ落ち、今にも死にそうな状態から、超速で復元される。
それでも翼が完成されることはなく、いまだに朽ちて使い物にならない片翼を立てる。
「ゥアッ!!」
一度地面に落ちた体を再び戻して、セイスケはドラゴンの顎を蹴り上げた。
すかさず爪を振り回して、ドラゴンの首下を切り裂く。
ドラゴンもまた再生を始めたが、それはセイスケのそれとは比べ物にならないほどに遅く、傷が増えるスピードの方が早かった。
ブンッ!!
「ガッ…!」
ドラゴンは首を横に振って、瞬時にセイスケを吹き飛ばす。
その巨大と強靭な肉体は、ただ首を振るだけでも家屋が吹き飛ぶ程度の威力がある。
そして、ドラゴンには翼がある。セイスケのような不完全なものではなく、両翼も取り揃っている。
当然有利を取るためにドラゴンは飛翔した。すでに、城壁より上まで来ている。
だが、セイスケは跳んだ。
ビキバキキビキビキバキ…
筋肉が弾け飛び、骨がひび割れてなお力み続けるその音は、周囲に聞こえるほどに大きい。
そしてその限界を超えたその跳躍は、ドラゴンの肉体に、そのまま穴を開けるほどの速度をつけた。
「ガアアアアアッ!?」
セイスケは、初めてドラゴンに大きなダメージを与えた。
が、ドラゴンはすぐに自分の体を貫通し、今落下しようと滞空するセイスケを見定める。
ボッッ!!!!!!!!!
さっき撃ったものより何倍も大きな音を出した光線がセイスケを包む。
文字通りセイスケは黒炭になって、人の形を保ちながら、ゆっくりと落下する。
「ギガアアアアアアアアアアア!!!」
しかし、ドラゴンは手を緩めることなく、落下するセイスケに向かって突進する。
巨体が高速で地面に落下することで辺り一体が吹き飛んで、近くにいた人間も含めて破壊する。
セラミスも、そのほかの冒険者もただ放心する。
介入は不可能であり、冒険者達は事態に気づきすぐに逃げ出した。
脳の欠損した親族を抱く者、すでに生き絶えた仲間を必死で担ぐ者。
辺り一体が地獄になる。
「センパイ…」
助けを求めるようにセラミスは呟く。
応える者は、誰もいない。
カサインもいた。リーグルもいた。冒険者の一部は、絶望せず、自らの家族を、仲間を守ろうとしていた。
蟻のように、誰もが身を潜めて息をする。
「ガアアアアア!!」
ドラゴンが尻尾を振るたびに誰かの首が折れる。
炎を吐くたび誰かが燃える。
歩くたびに何かが潰れる。
(センパイを…今、助けられるの…?今…私は…)
規模が違う。その戦いの一片一片が大規模な被害をもたらす。
今、誰かが何をしたところで…
「私が……私が、止めなかったから…?」
誰のせいでもない。
だが、セラミスは、セイスケを止められなかった自分のせいにしてしまった。
ビキバキキビキビキバキ…
ゴオオオオオオ…
幸福というべきか、戦い自体は終わりの兆しを見せる。
ドラゴンが再び飛翔する。力を溜めながら。
セイスケが、足に力を入れる。
セイスケが跳んだ瞬間、ドラゴンは溜めていた力を、静かに口から放った。
一筋の光が地に降りた後、セイスケの肉体を、家屋を、人を、火が包む。
セラミスは、あまりの眩しさに目を閉じた。
ーーーーー
セラミスが目を開けると、目の前にあったものが無くなっていた。
ドラゴンが光線を吐いた後の周辺は、小さな村一つ分ほどが、消し炭になっていた。
ドラゴンも深傷を負っていたからか、もうその姿は見えない。
セラミスは、足をふらつかせながら、セイスケがいるはずの方向に歩いていく。
(肉の焼ける匂いがする…センパイは…)
ほぼ放心しながらセラミスが歩く中で、視界の端に、家屋に押しつぶされて死んだであろう人の手が見えた。
おそらく子どもの手だろう。幼女のものなのか、とても小さく柔らかそうだった。
セラミスは、口を押さえてへたり込んだ後吐いた。
「……オエッ…エエエエッ…ウオエエエエッ…」
口を拭いて、吐き気がもっと増す前に、セラミスは進む。
しばらく歩いて、焼け野原の中心に、あの化け物が煙を立てながら倒れていた。
それはだんだんと、ボロ布に包まれた、見覚えのある体格をした者になっていく
「センパイ………センパイ……!センパイ!センパイ!」
歩みを早くして、すぐにセラミスはセイスケの元に駆け寄った。
「おねがい…!センパイ!センパイ!」
もう限界だったのか、セラミスの目から涙がいくつもこぼれ落ちる。
だが、すぐに涙は止まった。
「セ、ラ……ミス……」
セイスケが、目を覚ました。
セラミスは安心して、セイスケに話しかけようとした。
だが、セラミスが話しかけるより早く、誰かがセイスケに呼びかけた。
「……セイスケ…」
セラミスが振り返ると、カサインが立っていた。
目の光は、失っている。
「…セイスケ…お前…」
カサインは、ザインがいつも頭に巻いていた白布を右手に握っていた。
なんで主人公がこんな状態なのか意味が分からないと思いますが、第一話やドラゴンのお伽話、ゲルドとセイスケの会話にある程度伏線があるので、疑問があったら読んでいただければ幸いです。
話自体はまだ続いていくので、これからもよろしくお願いします。




