龍と竜
ーー2年後ーー
「もー!休みだからって寝すぎだよ!?」
腹に衝撃が走って硬いベッドから目を覚ます。宿はあれから変えていない。
あいも変わらずボロくさいが、最近は愛着さえ湧いてきた。
2年が過ぎて俺たちは立派な銀等級冒険者になった。俺も最近はセラミスに教えられて、筆記も上達してきたのが中々嬉しいところだな…
「ほらほら!今日は私の買い物に付き合ってもらう日でしょ!?さあ目を覚まして!太陽の光を浴びよう!」
「…俺に怯えてた頃が懐かしいくらいにうるさくなったよなあ、お前」
…あ、怒っている…マズイ。
「あと、可愛くなった」
「…!」
顔が赤くなった……チョロさは変わらない。
わざとらしく口笛吹いといてよく言う…まあ、言い方が悪かったのは俺だが。
2年の間に、セラミスも含めて、冒険者の奴らとも仲もだいぶ良くなったよな…
…まあ、一部……いや、半分程度は未だ俺が嫌いっぽいが…進歩はしてるし。
そんなことを思っていた間に、セラミスがウキウキで外出の準備をしている。
服を買いに行く……とは言われたが、セラミスの服のセンスはよく分からない。
俺が男だからかセラミスが特異だからなのか…いや、セラミスが男っぽいところがあるから……いや、それだと俺とセンスが合うはずで……うん、分からん。
とりあえず町へと出る。一応尻尾はでかいリュックに入れる。
少し歩き近くの服飾店に入ると早速セラミスが叫ぶ。
「わー!これ!可愛い!」
「青くてフリフリがついてるし、まあいいんじゃな…却下だ」
セラミスの手を引っ張り店から出る。
「ええ!なんで!?あれ可愛く」
…いやいやいや……
「金貨5枚とか冗談じゃないぞ!中古の革鎧なら一式買えるかって値段だろ!」
指摘してやると、セラミスが頬をリスみたいに膨らませて文句を垂れてきた。
「…センパイのどけち!」
っく……!いや、それは…
「セラミス、食費を抜いても銀貨一枚は使えるくせに貯金せずバンバン使うから…!」
「だから誕生日プレゼントってことでセンパイに買ってもらおうと思ってたんです!」
こいつ!言うに事欠いて……俺の時は何もくれなかったくせに…
一応、冒険者として、パーティとして強くなってきた俺たちは一日の収入は二人別にしても1万以上でありコツコツ貯めれば大抵のものはすぐ買える。
が、セラミスの浪費癖により回復薬など必需品を買うとカツカツになるのだ。
セラミスの浪費癖により……2回言ってやらんと気が済まない。
更にこいつは、最近魔法と剣の二刀流、魔剣士なんて職業を目指している。だから余計な剣を買ってくる。言うには魔剣士はかっこいいとのことだが、どうなってんだ。
この後はオシャレなスイーツ店にも行くらしいし……
そろそろ防具を新調したいんだがなあ…
「?」
道路を歩いていると冒険者たちが何人も走って行く。一人を止めて何があったのか聞いてみるか…
「なあ、おい」
こいつは…確か、この前レッドベアを一緒に倒した奴……だよな…?
かなりベテランのはずのそいつが、ひどく動揺している。
「どうしたんだよ、そんな慌てて…」
「大型のドラゴンが現れて北側の城門が危ないってよ!!バカどもは戦いに向かってるらしいが、冗談じゃねぇ……!セイスケ!お前も早く逃げろ!」
「…は?」
ドラ、ゴン……?そんな、伝説の化け物みたいな……ああ、そうだ!逃げ……
…いや、まずい……北は……
アルキさんの家が、北にはある。
「セン…」
足が勝手に動く。冷静に考えて助けるにもまず武器を取りに戻るべきだ。脳が熱い。
走っていくと、炎が見える。叫び声が鳴り響く。だめだ。いやだ。
また俺は…!先生を助けられなかったあの日に逆戻りしていくなんて!そんなの…
「ギオオオオオオォオオオオ!!!!」
ドラゴンが暴れている。とっくに町を守っていた城壁は壊れて、家も含めて何もかも跡形すらなく、辺り一体は火の海になっていた。
くそ…!はやくアルキさんを見つけて、俺も逃げないと…どこに……
「!」
あれは…!誰か歩いてくる…あれは………アルキさんだ!よかっ…
「セイスッ
火が、アルキさんを包んだ。
それは、辺り一体が火の海だったからというわけではなく、もっと、何か化け物が火でも吐いたような…
「……」
アルキさんが何も言わずに燃えている、燃えて………死んだ。
…死んだ?
死んだ…………いやだ……駄目だ!嫌だ!そんなの!先生も、母さんも助けられなかったあの日のままの…
「うああああああ!!!!ああ!!!あああああ!!!!」
目も脳も心臓も焼けるように熱くなる。
何もかもが黒くなっていく感覚だ。
それは、金田を殺したあの日より、ずっと……
火が放たれた方向に向かって歩き出すが、目の前に炎の壁が立ち塞がる。一瞬ドラゴンかとも思ったが、こんな真似ができるのは……
後ろを見ると、セラミスがいた。
「センパイ…焦り過ぎだよ!!逃げないと、私たちも…」
…おかしい、人の言葉のはずなのに、なぜか耳に入ってこない。脳が理解を拒むような…
「○△●◎?▲■」
「え?今なんて…」
何か喋ってるのか…?もうセラミスが何を言ってるのかも分からない。俺の体は…どうなってるんだ…?
いや、いい……とりあえずあいつを絶対に…殺、し………
ーーーーー
その姿は、もはや人ではなかった。
ビキビキと音を立てて、黒く、今にも崩れそうな翼がセイスケの右半身から生えて、尻尾は肥大化し、爪は垂らせば地に着くほどに大きく変異している。
鱗は胴体を覆い尽くすほどに侵食し、黒く染まっていた。
尻尾の大きさについてはセイスケの胴体よりも大きく、まるでそれは、体をうねり飛翔する龍のようだった。
顔にはもはや面影などなく、それは、もはやセイスケ自身が対峙しているドラゴンに近いような…
「アアアアアアアアアアア!!!!!」
セイスケ…というより、セイスケらしき化け物は、大きく口を裂いて叫ぶ。
あまりの声の大きさに、砂埃が立ち始める。
咆哮にドラゴンも気付いたのか、応えるように、ドラゴンも雄叫びを上げた。
「ギオオオオオオン!!!」
赤き鱗を纏い、その翼は烈風を巻き起こし、ただ凛と立つ姿は、トカゲというにはあまりにも神々しく、恐ろしい。
その2体の姿を目の当たりにして、セラミスは、ただ立ち尽くしていた。
セイスケだったものは尻尾を立てて威嚇する。
片方は大陸で生まれた、純真たる竜…一方は、島で生まれた、紛い物の龍……
言うなれば、龍と、竜の戦いが始まった。




