好かれる努力から
早朝、セラミスに腹に思い切りダイブされて起きる。
「ガッ…!」
今日は昨日受けた依頼を進める予定だ。ゴブリンの巣の掃討、それも2個……金払いもいいが、いかんせんリスクとメリットが釣り合っていなかったよな…
「ほら!センパイ!はやく行こ!」
「ああ、うん…」
そうだった…この押しに負けたんだった…
ーーーー
本日は晴天!絶好のゴブリン日和で、ゴブリン達も森に囲まれた小さな集落で元気に踊っています!俺の気分も晴れてくるというものだ!!ありがとう!ゴブリン!
………まあここにきた目的はゴブリンの掃討なので殺すが……
「いつ出る…?」
「様子は見たほうがいいと思う。多分酔ってるってことはお酒かな…人里から奪えるくらいだろうし、見た目以上に大きいと思うよ、あの群れ」
セラミスはあの日からなんだか頼れる存在になった。
いや、元々強さは俺と同じかそれ以上な訳で、洞察力だって俺よかある。心配だとはいえ、命の駆け引きをする場所で頼らなかったのがおかしいくらいだった。
とりあえず、セラミスと作戦を立てる。
「酒で十分酔ってからが狙い目だろうな…いくらかは小便で木陰に隠れるだろうし、少しずつ戦力を減らしていく」
「分かった、後ろから援護するからね」
俺は足音を立てないようにゴブリン達の集落に近づく。
まだ昼ということもあり焚き火は焚いてはいない、簡易的ではあるが、わらの家が見えるだけで5つある。
しばらく見ていると、踊っていたゴブリンがふらふらと群れから離れていく。狙い通りだ。
足音を立てないように茂みに隠れつつ、小便をするゴブリンの口を塞ぎ、首を切る。
まず一体…あとはこれを繰り返せば……
「キャキャキャ!!!」
「キャッハアアアアア!!」
一際大きい声が耳を鳴らす。
気づかれ……!…てはいない…?…………なんなんだ?
見てみると、ゴブリン達がわらの家から人間の女を引きずり出してきたいた。見た目からして冒険者か…一応、まだお手つきはされていないらしい。
リーグルが言うには、ゴブリンは性欲の強い5歳児と思えばいいらしい。それくらいの子どもですと言われた時は少し嫌な気分にもなったが、冷静にゴブリンの見た目を見れば……いや、今はそうじゃないな。
口布もされてて叫べないのか……あの様子だと、野宿でもしていた時に、魔物避けを忘れてひっとらえられたってところか…?
まずいな…ゴブリンがいよいよその気になる前に早く…
「願うは風の精霊、今こそ化身を顕現して、大きく薙ぎて敵を裂け『ウインドカッター』」
セラミスの魔法の詠唱に気づいて頭を下げる。
すると、一瞬でゴブリンもわらの家も含めて、集落が切り裂かれた。
総勢で15体か…?それくらいはこの攻撃で死んでいた。
押さえつけられていた冒険者や、しゃがんでいたゴブリンについては、頭を裂かれず生き残っている。
んで、俺がやるべきことは…
「センパイ!」
言われなくってもやるっての…!まず人質を取られる前に…
「アギャ?!」
大きく踏み込んで、冒険者の近くにいたゴブリンの首を居合い抜きによりぶっ飛ばす。
見えるところであと3体……だいぶ逃げたっぽいし、俺たちの負担も報酬も減るな。くそが。
まあ、ゴブリンの一体はセラミスに任せるとして…
「ンギャアアアア!!」
「ギャギャギャ!!」
おっ、2体のゴブリンが右と左、それぞれから攻めてくる。好都合だ。
「回天!」
一度、龍神斬を鞘に戻し、居合の構えを取る。
血でよく滑る刀の居合は、右にいたゴブリンの体を二つに分ける。
尻尾で攻撃して麻痺させた左のゴブリンも、すぐに頭と胴に切り分けた。
「もう一体は…」
ドチャ
…なんか空から落ちてきて潰れてる……こわ。
よし、こうして無事に終わったわけだし、さっさと冒険者の縄を…
「ンー!!ン!!ンーー!!」
…怯えてるな…まあこんな目に遭えば……いや、俺がこんな姿だからか…?
手を伸ばしても、その目から恐怖は消えない。
瞳に写るのは、ただの俺だけだ。
「……セラミス、頼む」
セラミスを呼んで、縄を解いてもらった。俺は木陰に隠れる。
セラミスが状況を伝える声が聞こえて、少し見てみると、冒険者の女は安心したように息を吐いた。
まあ、セラミスは見目麗しいし、俺なんかよりよっぽど人助けには…
「あの…」
冒険者の女が、近づいてきた。まだ目は怯えている。
「さっきは怖がってすいませんでした……本当に、ありがとうございました」
「…冒険者、向いてないんじゃないのかよ」
…あれ?なんでこんなこと言ってるんだ?
もっと優しい言葉をかけてやるはずだったのに…もっとこう、怖かったね、とか、セラミスみたいに、無事でよかったとか……
「そう…ですね……身に染みて分かりました。改めて、ありがとうございました」
深々と礼をしたあと、護衛は大丈夫だと言って、ゴブリンの集落にあった自分の装備を着て、冒険者の女は走り去っていった。
…もっと優しい人間に生まれたかったな……やっぱ、俺なんて……
「センパイ」
悩んでいると、セラミスが話しかけてきた。
いや、というより、事実を伝えてきた。
「顔、赤いけど……照れ隠しだった?」
……え!?
いや、え?嘘だろ?頬を触ってみると、確かに熱い。
うわっ……くっそ…恥ずかしい……変なやつだとか……ああいや、ただでさえトカゲ男ってだけで……ああああ!!
「よかったね、助けられて」
頭を掻きむしっていると、冒険者の女が走り去っていった方向を見ながら、セラミスが言った。
「こうやって、少しずつさ…好かれていけたらいいよね」
……そうか、今までよりかは、今ので人から好かれてるわけなのか……
ははっ、そりゃいいな。セラミスの顔もいくらかは立つかもな。
でもまあ、俺だけじゃ無理なわけだし……
「手伝ってくれんのか?」
こう言うと、セラミスは少しキョトンとした後、頼られたのがよっぽど嬉しかったのか、紫色の髪をキラキラとさせながら、見たこともないくらいの笑顔で笑って、頷いた。
「うん!!」
こうして、俺たちはなるべく人を助けることにした。
ーーーーー
それからも、色んなことがあった。カサインやゴル達の金等級のワイバーン退治に巻き込まれたり、レッドベアの子どもをセラミスが持ってきて、大変なことになったり……色々だ。
そうしてすぐに2年の月日が経って、俺とセラミスは、15歳になっていた。




